01.プロローグ
人間は危機に瀕していた。
果てしなく広がる荒野の遙か彼方に切り立った山々が連なっている。
そのひとつ、一際高い山の頂上に巨大なドーム状の物体が乗っかっている。
乗っかっているというよりは突き刺さっている。
◇ ◇ ◇
荒野には土煙とともに夥しい数の人影が蠢いていた。
その人影の一つ一つは人ではない異形の生物。
蛇の頭と全身銀色の鱗で覆われた蜥蜴人と呼ばれる者の集団だ。
集団は小高い丘のようになっている場所の前まで前進すると一斉に歩みを止め整列する。
「アルノドーア将軍、蜥蜴人隊、到着致しました」
先頭中央にいる代表らしき者が大きな声で呼び掛ける。
その視線の先、丘の上には真っ黒なマントと大きな鎌を肩にかけ、
顔には骸骨の仮面をした者が立っている。
「……将軍、
準備完了です……」
骸骨の仮面の声は電波のように途切れ途切れに聞こえる。
丘の上にもう一体、こちらはドラゴンの頭の骨の仮面を被り、
白いマントを纏った者が丘に上がる。
「ご苦労。皆の者。
あの山の上に見えるのが人間が生息する『ヒューマン・キャッスル』と呼ばれる物じゃ!
あれを破壊せよとの龍帝様のご命令じゃ!」
ドラゴンの骨は骸骨の仮面の方を一目見て、号令をかける。
「皆の者、かかれ!」
蜥蜴人隊は号令とともにはるか前方に聳え立っている山に向かって進軍する。
総勢千人以上はいるだろうか、一人一人の蜥蜴人は太い筋肉の腕に、
木でできた槍のような武器を装備している。
進むたびに地鳴りのような足音と怒声が響き渡る。
その隊列は大波のように広がり『ヒューマン・キャッスル』がある山を包囲して行く。
◇ ◇ ◇
全軍の包囲態勢が整おうとした瞬間だった。
四本の稲妻が大地に突き刺さり、
蜥蜴人隊の眼前に四人の人間が姿を現した。
その姿は蜥蜴人が全く予想できなかった姿だった。
頭は金属でできたヘルメット、
目の部分はゴーグルのようなものが付いている。
口の部分は銀色のコーティングがされており、
首の部分は白いマフラーを巻いている。
腰には機械のベルトを巻いて、
脚には軽そうなブーツを履いている。
その他の体の部分はゴムのような密着型のスーツだ。
四人とも同じ姿なのだが一人一人異なったカラーリングがなされている。
黒、青、黄色、桃色と言ったカラーリングだ。
蜥蜴人たちは一瞬怯んだ様子を見せたが、
すぐに身構えると怒声と共に四人へ襲いかかる。
◇ ◇ ◇
「……将軍……あれが人間の軍勢です」
「なぬッ? あれが『軍勢』だと?
たった四人ではないか」
◇ ◇ ◇
四人はそれぞれ等間隔に蜥蜴人たちの軍勢の前に広がった。
黒いスーツが手を広げるポーズを取りながら叫んだ。
「ファルコン・ウイング!」
その瞬間、背中に2本の大きな『隼』の翼が現れる。
黒いスーツはすかさず翼を広げてジャンプすると一瞬で上空に舞い上がった。
蜥蜴人たちが唖然として上空を見上げる。
「イーグル・フェザー!」
翼を羽ばたかせている黒いスーツの体から無数の『鷲』の羽根が放たれる。
一本一本が鋭い針のようになり、見上げている蜥蜴人たちに雨のように突き刺さる。
大勢の蜥蜴人たちが体を羽根だらけにしながら叫び声を上げる。
刺さった部分からは血が吹き出し、激痛による叫び声とともに地面に倒れて行く。
◇ ◇ ◇
「ふーん、あれが奴らの能力か?」
「……はい……一人ひとりが異なった能力を持っています」
「しかし、こちらの方が数が多いぞ?」
「……はい……一人ずつ……集中攻撃です……」
ドラゴンの骨はまだ動いていない青いスーツの人間に攻撃するよう号令する。
「あの青いやつを狙え!」
蜥蜴人の一部を集中して突入させる。
◇ ◇ ◇
青いスーツがようやく動き出す。
「もう。魚臭くなるからあんまりやりたくないのよね」
右腕を横に突き出して叫ぶ。
「エレキ・ウィップ!」
みるみる右腕が『電気ウナギ』に変化する。
それを鞭のように振り回した。
蜥蜴人たちに当たった瞬間、火花が散り電撃が走る。
感電し気を失いバタバタと襲いかかってきた蜥蜴人が倒れて行く。
◇ ◇ ◇
「ええーい! こちらの隊も突入せよ!」
ドラゴンの骨は蜥蜴人の一隊に桃色のスーツを包囲させ攻撃を命じる。
◇ ◇ ◇
「今度は私の番ですね。
行きます!」
綺麗な姿勢で直立していた桃色のスーツが叫んだ!
「パンサー・レッグ!」
両脚がしなやかな『豹』の脚に変わって行く。
さらに両手を左右に真っすぐ伸ばし叫んだ!
「キャット・ネイル!」
長く伸びた両手の『猫』の爪は刃物のように鋭い。
桃色のスーツが地面に着く程低い態勢になった瞬間、姿が消える。
蜥蜴人たちの間に黒い影が通りすぎたと思うと
その両脇の蜥蜴人が幾筋もの傷を負って倒れて行く。
◇ ◇ ◇
ドラゴンの骨が混乱している軍勢を集結させ態勢を立て直す。
それを見た黄色いスーツが高らかに叫ぶ。
「ビック・フット!」
すると両脚が巨大な毛むくじゃらな『雪男』の脚に変わった。
それに合わせて黄色いスーツの胴体も筋肉の塊のように巨大化する。
その状態で蜥蜴人の群れに向かって歩き出した。
巨大な両脚で容赦なく踏み潰して行く。
密集している蜥蜴人たちは避ける事もできずにぺちゃんこにされてしまう。
「アハハハッ、
次は『ジャイアント・ハンマー』だ!」
今度は両手を高く掲げると丸太のような太い『巨人』の腕に変わった。
思いっ切り地上に向かって振り下ろすと、
さらに数十人もの蜥蜴人たちがやられる。
「ジャイアント・スイング!」
横から水平に巨人の腕を振り回す。
残っていた蜥蜴人たちが吹き飛ばされ戦意をなくした。
「あっけないな。それでも異形種?!」
四人の攻撃が軍勢をあっという間に蹴散らす。
千人以上いた蜥蜴人隊はほぼ戦闘不能になった。
立っているのも数十人だ……
◇ ◇ ◇
「……アルノドーア将軍
……軍勢は……壊滅状態です……」
骸骨の仮面は冷静に報告する。
「何なんだ奴らは!
蜥蜴人隊はわしらの中でも屈強の部隊。
こんな簡単にやられるとは」
「……将軍。
全軍退却しましょう……」
「馬鹿な!
ここまで来て退却はないだろう。
私が出て戦う!」
「……いけません。
私たち、将軍の……戦いは禁止されています……」
骸骨の仮面の間から鋭い目が睨む。
「うう……そういう事なら仕方がない。
では退却じゃ!」
「……は、
全軍退却……」
蜥蜴人たちは動ける者たちが負傷者を抱えて、
全員逃げて行った。
将軍たちも大トカゲにまたがり退却して行く。
◇ ◇ ◇
青いスーツの人間が呟く。
「逃げて行くわ。
終わったみたいね」
黄色いスーツが残念そうにしゃべる。
「これで終わりか。
もっとやりたかったな」
桃色のスーツがこの場を収めるように言う。
「もう帰りましょう。
任務は『防衛』だけですから。
副指令も心配されてます」
黒いスーツは黙ったままだ。
青いスーツがヘルメットの中の通信機に向かって話しかける。
「副司令。
戦いは終了致しました。
これから帰還します」
また稲妻が走ると四人の姿は空へ消えて行った……