炎を纏う少女
目の前に大鎌を持った男がいる。
炎を纏った少女が立ち向かう。
俺はそれをただじっと見ている。目の前の恐怖に怯えながら。
ふと目を落とすと、右手に握られた剣。
────その剣で未来を切り開くかどうかはお前次第。
「うわあっ!!」
創真は何か衝撃を受けたように目を開いて体を起こした。
「俺の部屋……あれは夢……?いつの間にか寝てたのか……」
ボーッとした頭を抑えながら、先程まで見ていた夢の内容を思い出す。
「目が覚めたか。体の方は大丈夫か、櫻井創真」
「うおわっ!!」
椅子の方に目をやると見知らぬ少女が座ってこちらを見ていた。しかし、よく見ると見覚えがある。
「お前……夢に出てきた炎の……」
「夢ではない。現実に起きたことだ」
「はぁ?てか何者だお前。名前は?何で勝手に俺の部屋に居るんだよ?」
「落ち着け。順番に説明する。だがその前に、お前はちゃんと覚えているか?先程何があったか」
「先程……?」
さっき見た夢のことだろうか。その少女は現実に起きたことだと言っていたが、どうにも現実離れし過ぎていて実感が湧かない。だが、時間が経つにつれて、頭の中が整理され、着々と記憶が戻ってきた。
「俺は……大鎌のヤツに襲われて……それでお前が来て……助けてもらったんだ」
「そうだ。そしてお前が大鎌のヤツを撃退した」
「は……?俺が?」
「覚えてないのか?」
そう言われたところで創真は思い出した。自分が剣を振るい、戦っている光景が脳裏に映る。
「そうだ……俺……あの剣は何なんだ?あの男は、それにお前は何なんだ?一体俺の身に何が──」
「落ち着け!順に説明すると言っただろう。どうやら先程のことも思い出したようだし、まずは……そうだな、私の名前は加賀美凛という。リベレーターだ」
「リベレーター……?」
「ああ、そうだ。自分の魂を解放して力を手に入れた者のことだ。私も、あの襲ってきた男も、今はお前もそうだな」
「俺も?!」
「当然だろう。魂を解放して力を得たのだから」
「力……ってあの剣のことか?」
「そうだ。今はネックレスの形になっているが、それは現魂器と言う。現魂器というのは魂が具現化したものだ。そして、お前の現魂器はその剣だったという訳だ。ちなみに私の現魂器はこの指輪だ。炎を自在に操る事ができる」
加賀美は右手の中指にはめた指輪を見せながら、淡々と説明口調で話す。創真はいつの間にか首に下げていた見知らぬネックレスを手にとった。言われてみれば剣のような形をした、特に変わったところはないネックレス。創真にはこのネックレスが自分の力、あの剣だとはとても思えなかった。加賀美の話も、有りもしない空想の世界について話されているようで、頭に全く入ってこない。それでも、非現実的とはいえ実際に体験をしているからか、妙に納得できてしまっていた。
「それで、あの襲ってきたヤツは何なんだ?」
「あの男はハンター、正確には狩魂者と呼ばれる者だ。他人の魂、つまりは現魂器を集めている」
「現魂器を集める?」
「ああ。基本的に現魂器は一人一つしか持てない。魂が具現化したものだから当然だな。しかし、他人の魂を自分の魂と同調させると、他人の現魂器を手に入れることができる。ハンターは強引に魂を同調させることで、現魂器を集めている訳だ」
「じゃあ俺が襲われたのは、俺の力を奪うために……?」
「そういうことだ。お前を殺して現魂器を奪うつもりだったんだろう」
「あいつはまた俺を狙ってくるのか?俺はこれからどうしたら……」
「その可能性は十分あるだろうな。だが、今のお前は現魂器を使える。もしハンターがまた現れたら戦うしかない」
「戦うって……」
「大丈夫だ。明日から戦い方を教えてやる。それにハンターが現れたら私も戦う」
創真はとてつもなく不安だった。自分の命が狙われている上に、その相手と戦わなければならない恐怖は計り知れないものだった。
そんなうつむいた創真の姿を気にしてか、ふっと息を吐いて、加賀美が立ち上がった。
「まぁ、今日はこの辺りで切り上げよう。お前も突然のことで疲れているだろうし、何より混乱しているだろう。また明日、放課後に改めて会おう」
そう言い残すと、加賀美は部屋の窓を開けて出ていった。創真は2階の窓から屋根伝いに軽々とジャンプしながら遠ざかっていく加賀美の姿を見送った後、そのままベッドに倒れ込んだ。ネックレスを天井に掲げてボーッと眺める。
「とんでもない日だったな……」
怒涛の1日に脳の整理が追い付かないまま、創真は目を閉じた──。
次の日。
創真は昨夜の出来事が嘘だったかのように、いつもと変わらない日々を過ごしていた。
朝起きて高校に行き、授業を受ける。しかし、午後の授業が終わり、いつものようにガヤガヤと賑わう放課後になった途端、これまでの日常が崩れ去った。
「このクラスに櫻井創真という生徒はいるか!?」
凛々しい女性の声がクラス内に響く。創真は声のする方を見て驚いた。
「あいつ、昨日の……!!」
そこには創真と同じ制服の姿をした、加賀美凛が立っていた。