ブラック
寒さで身震いしながら目を開けるとそこには恐怖の表情を浮かべた家内や子供達の顔があった。
「「「キャァァー」」」
悲鳴を上げ逃げ散る家内や子供達を横目に見ながら狭い箱の中で身体を起こす。
箱? いや違う、棺桶だ。
さ、寒い。
棺桶に入れられていた氷のせいで私の身体は冷えきっていた。
棺桶から這いずり出て押し入れから毛布を取りだし包まる。
逃げ散った家族と入れ違いに猫のタマが部屋に入ってきて足に頭を擦り付けた。
寒さで震えが止まらない身体を温めるためタマを抱き上げる。
身体の震えが収まったころふすまがノックされ顔を引き攣らせた主治医の先生が部屋に入って来た。
先生が話しかけて来る。
「体調はお変わりありませんか?」
タマを撫でながら返事を返す。
「体調…………ですか? はぁ…………んー昨日よりだいぶ楽です。
それより何で私は棺桶に入れられていたのですかね?」
「御主人、あなたを診察したのは昨日では無く3日前です。
そして一昨日の夜お亡くなりになりました」
「ハハハハ
変な冗談はやめてくださいよ」
「冗談なんかではありません。
あなたの死亡診断書を昨日の朝書きましたから」
「え!?
それじゃ私は生き返ったって言うのですか?」
先生はポケットからスマホを取り出し操作して手渡して来た。
スマホの画面では世界中で死んだ人が次々と生き返っている事をアナウンサーが話している。
「あなただけで無く、世界中でお亡くなりになった方が次々と息を吹き返しているのです」
「どういう事なのですか? 原因は?」
「分かりません」
先生は力無く頭を左右に振った。
その頃冥界では閻魔大王の補佐官が血相を変えて走り回っていた。
「大王様は見つかったか?」
「見つかっていません」
「補佐官!
裁きを受ける者達の数が凄まじくなっています。
彼等をどうしましょう?」
「送り返せ!」
「え!?良いのですか?」
「仕方がないだろう大王様がいないのだから」
「分かりました」
補佐官はため息をつき、大王様が職場放棄をする際残していった手紙をもう一度読む。
「仕事を始めてから一度も休みを貰えないブラックな職場で働いている儂には、ブラック企業の社長や幹部等を私情を挟まずに裁く事など出来ない。
彼等を公平に裁くため儂は1度休暇を取らせてもらう。
あとの事は補佐官に一任する」
手紙を読んだ補佐官は、大王様が立ち寄りそうな場所をもう一度頭に思い浮かべるのだった。