まずはお友達から3
その後何軒かハシゴをして〆のラーメンを1軒目から変わらぬ食欲でペロリと平らげた拓海を優は呆れにも近い感情でテーブルに置いた肘を支えに頰をつきながら見つめていて、あずさは疲れと酔いから完全にテーブルに突っ伏していた。
「ご馳走さまでした!」
スープまで一滴残らず飲み干しては満足そうな満面の笑みを浮かべ手を合わせながらそう元気よく口にした拓海に優は紙ナプキンを渡しながら釣られて笑ってしまった。
「あずさ、おまたせ。おうちに帰ろう」
「んんー…おーちぃー」
口元を拭ってからお会計しに行った拓海をよそにあずさの背中を軽く揺すりながらそう囁き、眠気まなこで回らぬ呂律に愛おしさを感じ、抱き起す形であずさを立たせれば会計を済ませ店員から手渡されたビニール袋片手に戻って来た拓海はお待たせしましたと言うと足元がおぼつかないあずさの支えになっていた優に後は任せてくださいと言うとあずさの肩に腕を回し、もう片方の腕を膝裏に通して抱き上げる、所謂お姫様抱っこをして店内から立ち去った。
「ごめんね。あずさも楽しんでたみたいで、ペースが早かった」
終電すらない時間帯の道路は世界が違うと思えるほど暗く、静かだ。
幼馴染というわけもあってあずさが酔い潰れた時点で両親に連絡し、店を変える事にあずさの実家に近づいて行っていたので幸いなことに距離はそう遠くなかった。
酔っているとはいえ優の誕生日にこのような失態を犯していても迷惑をかけたくなかったのか異様に敏感だったあずさの目を掻い潜るためになにかと理由をつけて移動するのに頭を使ったため酔いはとうの昔に醒めていた。
「全然気にしてないですよ。むしろこのくらい静かな方が可愛いのでオッケーですね!」
どこの店に入っても必ずアルコールと何かの食べ物を食していたのにも関わらず頬を染める事も腹を膨らませることもなく変わらず笑う拓海に感心しつつ、自分の胸元でスヤスヤと眠るあずさを優しい表情で見つめる拓海に優はありがとうと口にした。
自分よりも背の高く容姿の整った拓海と、アルコールの匂いに混じって甘い香水の香りを漂わせて歩くたびに揺れるスカートをはいているあずさはどこからどう見ても絵になる、言わば美男美女カップルのようだった。
深夜の暗い住宅街に一軒だけ電気を灯している民家があった。ここがあずさの実家だ。
外灯やブロック塀の間から見えるランタンの光に照らされ小さな色を放つ草花に囲まれている色鮮やかなその家はあずさの可憐さや健気さの根源を表現しているようだった。
「あ、あずさのお父さん男に厳しいから後に任せて」
そのまま玄関前まで足を運びインターホンを押そうとした優だったが、厳格な父であることを思い出しそう告げると、拓海は少し残念そうな顔を浮かべつつ素直にあずさをゆっくりと下ろして優に託した。
「優さんも女の子だというのに、娘がすまないな」
「いえ、いつも良くしてもらっているので、このくらいは」
インターホンを押してから数秒で扉が開き、あずさの母が酔いつぶれた娘に対して悪態を吐きながら優に謝罪の言葉を口にしながらあずさを別室まで運んでいく背中を見つめつつ、あずさの父とそんな会話を交わしていた。
「今日は泊まっていきなさい」
などの優しい言葉もかけてもらえたが優はやんわりと断った。すると、あずさの母がそれならせめてと奥から中身の入った紙袋を手渡され、会話の切りも良かったので軽く会釈しつつ心配そうに見つめる二人を背に家を後にした。
「愛されてますね」
玄関からの光を遮り、ブロック塀にもたれる拓海はそう優に言うと、自分のプレゼント、あずさのプレゼント、そしてご両親からの手土産に両手を塞がれている優の姿にクスリと笑みをこぼした。
「あずさは一人っ子だからね。凄く大事にされてるよ」
愛されているベクトルは自分ではなくあずさに対してだと思っている優は、なんの疑いもなくそう答えるとあずさのご両親から頂いた袋がやけに重たく、不思議に思って中身を見た。
「お言葉に甘えて、一杯どうよ」
袋の中は様々なアルコールだった。