点と点4
奇妙とも思える四人での食事は優の予想を遥かに越えて賑やかだった。
勿論、セシルはあずさに質問攻めを喰らっていたが、敢えて生い立ち等の深いところまで問わなかったのは『拾われた』セシルに対する配慮なのだろう。自身や優の過去の話を含ませながら広がるトークはまさにあずさの領地だ。
しかし、優は時折視線を感じて顔を向け、目が合うもバツが悪そうにすぐ目を逸らす拓海の様子が気がかりだった。
「拓海、どうしたのよ」
そんな中いつもなら今頃空のお皿にまだ残る料理を見て、あずさも不審に思い拓海に問いかけたが、調子が悪そうになんでもないと言う彼に二人は首を傾げた。
「すみません、俺、帰ります。」
そしてお皿に盛られたご飯を勢いに任せて頬張り、瞬く間に空にすると両手を合わせてそう口にし、呼び止める声を振り切って足早に家を出る拓海を優とあずさは顔を見合うことしかできなかった。
「…どうしたのかしら、朝もなんかたどたどしかったし」
心配そうな声で既に閉じられた玄関の扉を見つめながらそう言葉をこぼしたあずさに対して、心当たりのある優は困ったような顔を浮かべた。
「あとでとっちめてやらないとね!」
心配を他所にあずさはそう言って場の雰囲気を切り替えては、自身が作ったおかずを口の中に放り込んでは笑みを浮かべた。
「口にタレついてるよ」
それにつられて優も笑い、小さな口でもくもくと咀嚼するあずさの口元についたタレを拭った。
そのやりとりを終始笑顔で見ていたセシルに気付いたあずさは拓海のことや自身の子供らしい一面を見られた事にハッとし、次第に恥ずかしくなって困ったように笑みを浮かべながら
「やだ、私ったら。ごめんなさいね」
そう謝罪すると、セシルは笑みを絶やさず大丈夫ですよ。と言葉を返した。
食事を済ませた後皿を洗い、一息ついた頃には既に日が沈みかけ、オレンジ色の空に群青色が上から覆いかぶさるように迫っていた。
「駅まで送るよ」
そろそろ失礼しようかしら、と口にして荷物を持ったあずさに優がいつもと同じようにそう言うと、セシルに対しておうちで待ってて。とお留守番を命じた。
まるで大きな弟と暮らす姉のような優の素振りにあずさを堪らず声を漏らして笑った。
「しっかし、本当にどうしたのかしら」
「拓海?」
「ちょっと心配。」
駅に向かうべく街中を歩きながら、様子が可笑しかったとはいえ拓海に対してあずさの口から心配。という言葉が出てくるとは思いもせず優はぽかんとした表情で空を見つめながら歩くあずさを見つめた。
「いつもみたいにおちゃらけてくれないと調子狂うのよ」
その視線に気付き照れ隠しのようにむすっとした表情になりながらもそう早口で言い、腕を組んだ。
「でも確かに、なんだか変だったね。」
その様子に笑みを浮かべつつもそう返答すると、家での拓海の様子を脳内で思い出していた。
セシルと対面してからといえばその通りだが、普段であれば初見の人でも気さくに絡む拓海とは思えぬほどぎこちなかった。
友人の家を訪問したらどんな関係や経緯であれ異性の人がいると、流石の拓海でも困惑するのだろうか。
「ま、私は優が無事だったからそれだけで十分」
そう言って組んでいた腕を優の腕に絡ませて顔を寄せたあずさから漂う甘い匂いに安心感が湧き、居ない相手に対して熟考するのも藪草だと、優は考えるのをやめた。




