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眠るにはまだ早い  作者: めいじ
14/16

点と点3


なにかの野菜を切る心地よい音と、コンロを点火させた音がリビングに届き、早速調理が始まったのだと拓海は察した。

そしてこのリビングに残された自身と、この得体の知れない男だけだという危機も、依然としてぬぐいきれなかった。


「…で、本当の目的はなんだ」


「と、言いますと?」

仮面のような笑みのセシルに嫌悪を抱き眉をひそめながら拓海は問いかけたが、首を傾げつつシラを切る様子に一筋縄ではいかないと、精神を集中すべく息を吐いた。


「あんた、助けてもらったわけじゃないだろ。優に近付いて、何がしたいんだ」

流石にあの場で話題を遮り切り込むほど、拓海は愚かではない。

確信に近い声色でそう言いつつ睨む金色の瞳は、赤く輝かせた瞳をしっかりと捉えていた。


「いいや、助けてもらったんだ。…正確には、助けてもらうために近づいた、かな」

セシルの笑みは次第にニヤけへと変わり、口元を釣り上げさせた。


拓海はセシルの本当の正体に勘付いている。

余裕を見せる姿に拓海は思わず舌打ちをした。


「今すぐ出て行け。優に手を出したらただでは済まないぞ」

拓海は温厚な男だ。見た目にそぐわず喧嘩などあの2人の前はおろか、友人の前でした事はないほどに。そんな男が今、目の前の吸血鬼に警告している。

しかしその発言にも諸共せず、セシルは鼻で笑った。


「貴様が何を言おうが勝手だが、あの女は俺のものだ。」

自ら牙を見せ、拓海の中の疑惑を証明させ

「人間の女一人もまともに扱えぬ奴が、何を言ったところでそれこそ負け犬の遠吠えだな」

と、親指を下に向けて挑発のポーズを取るセシルに拓海は思わず飛び出し、セシルの胸ぐらを掴んだ。

息を荒げて歯をくいしばる拓海は一本の理性でなんとか止まっているようだった。

胸ぐらを掴まれたことによって無理やり立たされたセシルは興味が削がれたように笑みを消し、鬼の形相のような拓海の隣にある振り上がったままで震える拳に視線を送ると


「…優に悟られてもよいのか?」

と、小さく囁いた。

その口元は心なしか僅かにつり上がっているようにも伺えた。


セシルの余裕が残った表情と脳に直接響く声は理性の糸を増やし、次第に胸ぐらを掴む手の強さも荒げた息も収まっていった。

拓海はあずさと優に隠し事している。

それは未だかつて誰にも打ち明けたことのない秘密。

拓海がセシルの正体に気付いたように、セシルも拓海の素性を知っているようだった。


まさか目の前の男と自分が同じ立場なのだと思いたくもなかった。

明かせぬ秘密を持ちながらもそれを隠しながら平然と生きることは容易い。しかし拓海にとって親しい者に対して卑しい奴と同じという現状が心底許せなかった、だからと言って打ち明けることなど出来ない。

そんな現実は残酷にも、拓海の心に直接その事実を打ち付けてきたのだった。


「…優は、誰のものでもない、」

そう呟くとセシルから離れ、先ほど座っていた自身の席へ戻った。

冷静さを取り戻した拓海の表情にセシルはニヤリと口元を歪ませた。それはまるでおもちゃを見つけた子供のようだった。


「その割には、熱心に擦り寄っているようだが」

優と共にした短い時間の中であずさと拓海という存在は認知していた。

拓海とお揃いのピアスをつけていることや、あずさから料理を教わったこと。ほぼ毎日連絡をしていたため、スマホという小さい機械一つないだけで落ち着かないということも。

共依存に近い三人の関係をあしらうようにセシルが放った言葉に拓海は自虐の笑みを浮かべた


「あんたみたいな奴には渡さないってことだけは確かだ」


「ほお、ならば主人を守ってみろ」

睨み合う両者の内に秘められた炎は燃え尽きることなく、高ぶり続ける2人を遮るようにキッチンへの扉が開いた。



「おまたせ、今日は中華よ!」

あずさの声と共に立ち込める匂いは中華にふさわしく食欲をそそるもので、拓海が料理に目を奪われているとセシルは先ほどのいがみ合いなどなかったかのような笑みを取り戻しあずさに感謝の意を述べていた。

その気の速さに呆気に取られていたが、目配りされたその瞳に休戦という言葉が含まれているようで、拓海は小さくうなずいた。


「ご飯、ここに置いとくね」

そう言いながら拓海の前に大盛りの白米を置いた優の首筋から覗く絆創膏に、隣にいるセシルの表情が頭をよぎりチクリと胸の痛みを感じながら拓海は優しく微笑んだ。


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