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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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玄武の心境

 それだけ私に伝えると、彼女は二度と私の連絡に応えることはなかった。


 それでも、無理に翠玉を攫うことも考えた。

 だが、改めて客観的に考えてみれば、未だに私の周りはけして安全だと言えない……むしろ、以前よりさらに危険な状態だった。

 青龍王の姉である藍華は、夫を殺した私を憎んでいる。今はその感情をひた隠しにしようとしているが、私の娘の存在を知れば、愛する者を奪われる悲しみを思い知らせる為に、娘に手を出すことを考えるかもしれない。

 王族の多くは滅んだが、彼らに仕えた者達は存命している者もいる。彼らは喜んで、藍華の味方をするだろう。


 当代青龍王の地盤は未だ脆弱で、いつ、また藍華を筆頭にした反乱が起こっても、おかしくはないのだ。白虎が【窮奇きゅうきの化身】であり、私が玄武でありながら妻帯している事実もまた、反乱を助長する理由になる。

 

 ……こんな状態の私の傍にいるよりは、鳥人の村にいる方が、まだ安全だ。

 

 それに……私が迎えに行った所で、翠玉は受け入れてくれるだろうか。

 母親が病に苦しんで亡くなるという、一番つらい時に、傍にいられなかった私を。


『……何故、こんなことになったのだろう』


 紅玉と翠玉。

 世界で一番愛しい、妻と娘。


 二人を守る為に、私は【玄武】になったのに。

 二人が幸せでいてくれれば、それでよかったのに。


 何故、望まぬ立場だけが残り、一番大切な二人を、失わなければならないのだろう。




 運命に対する憎しみは、やがてその運命の原因となった王へ向く。

 一番憎いのは先王だが、あのくそジジイはもうこの世にはいない。必然的に、私の憎しみは全て、当代の青龍王へと向けられた。


 理不尽な憎しみであることは、分かっていた。

 王もまた、残酷な運命に振り回され、大切な存在を失った被害者なのだと。彼自身は何も悪くないのだと、そんなことは知っていた。


 分かっている。こんなのは、八つ当たりだ。

 本当に殺したい程憎いのは、使者に丸めこまれ、【玄武】などいうくだらない地位についた自分自身だ。

 未だ、翠玉の幸福の為に何もできないでいる、不甲斐ない私自身だ。


 知っている。

 分かっている。


 ーーそれでも、憎い。


 この王さえいなければ、私は未だ二人を失わずに済んだのにと、思わずにはいられなかった。




『……【朱雀】探しに鳥人の村へ行くのなら、私も同行します』


 王の護衛という名目なら……きっと、村の者も何も言えないだろう。

 そう思っての言葉だった。

 最後に別れた時、翠玉はまだ6歳にもなっていなかった。10年以上経った今、翠玉は、私の姿なぞ覚えていないだろう。


 それでも……会いたかった。

 一目でいいから成長した翠玉の姿を見て、幸福でいるかどうか、確かめたかった。




『やはり、そなただ……。間違いない』


『ようやく見つけた。……私の、朱雀』


 ーー翠玉こそが、憎い王の【朱雀】だなんて、思いもしないで。




「……そうだな。全て、私のせいだ」


 散々繰り返した八つ当たり言葉を、青龍王は少しも動じることなく肯定した。


「……私は、貴方が大嫌いです」


「知っている。何度も聞いているからな。……だが」


 少し言葉をためて、王は小さく私に微笑みかけた。


「それでも、私はそなたが好きだ。幼くして王になった私を、そなたは憎みながらも、玄武として支え続けてくれた。そなたは嫌がるだろうが……私はそなたのことを、父親のように思っている」


 思わず、言葉を失った。


 何故、理不尽な憎みを向け続ける相手に、こんなことが言えるのだろう。


 何故この人は、いつもいつも……!


「………貴方を殺そうとしたお父上と同じように思っているとは、随分なお言葉ですね。私は少なくとも、貴方を殺そうとしたことはないですよ。想像をしたことがないと言えば、嘘になりますが」


「そういう意味ではない。私を教え導く存在として、大切に思っているということだ。そなたがいなければ、今の私は存在しない。王としての私を育てたのは、紛れもなく、そなただ。……感謝している」


「……………貴方のそういう所が、嫌いなんですよ」


 ただひたすら、憎み続けることすら、させてくれない


「占いでくらい、役に立って下さいよ。……ますます翠玉の未来が分からなくなるでしょう」


 愛する者の未来は占えない。

 だからこそ、私は今回、王の未来を占うことで、間接的に翠玉の未来を予測して、動いた。


 だが……それすらも今後は難しくなるだろう。


 翠玉が私を受け入れた、今となっては。


「ーー翠玉は、亀人の血を継いでます。もしかしたら、あの娘も私同様に老化が遅く、寿命が長くなるかもしれませんね。そうなったら、貴方は翠玉を置いていくことになりますね」 


 咄嗟に口から出た嫌みに、王は笑みを深くした。


「それは……悪くないな。置いていかれるより、ずっと良い」


 ……置いていかれる苦しみを知りながら、こんな風に言うなんて。どこまで翠玉に甘えているのだろうと、内心鼻白んだ。

 

 だが、7歳にして誰にも甘えられない、可愛くない子どもだった過去を思えば……きっとこれは良いことなのだろう。


「貴方が亡くなったら、翠玉を王宮から攫って、親娘二人で仲良く暮らすつもりでいるので、せいぜい長生きして下さい。寿命の差を考えれば、きっと私の方が、貴方より生きますから」


 最愛の娘である翠玉と、彼女と過ごした時間よりも長く共に過ごした青龍王。


 二人の「子ども」の幸福な未来を祈りながらーーそっと目を閉じた。

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