表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/72

【羽無し】と母様

 幸福な夢を見た。

 夢の中で私は小さな子どもに戻っていて、優しい光りに包まれながら、大好きな母様に膝枕をしてもらい微睡んでいた。


『翠玉……私の可愛い、赤い小鳥』


 母様は愛おしげに私をそう呼びながら、私の髪を指で梳いた。


 ああ、なんて心地良いのだろう。

 なんて、温かいのだろう。


 ここには、私と母様以外誰もいない。

 羽の無い私を蔑む目もなければ、私や母様に良からぬことを目論む怖い人もいない。

 ただただ、安らぎだけが、ここにはあった。


 ……ああ、でも何故だろう。

 何かを、忘れている気がする。

 とても大切な、忘れてはいけない人達が、確かに存在していたはずなのに。


『……そろそろ、時間だわ』


『母様?』


 不意に母様はそう言って、寝ころがる私を起こした。


『翠玉。ごめんなさい。早々に貴女を置いて逝ってしまって。本当は、もっと貴女の為に色々してあげたかったのに。……でもね、これだけは覚えていて。ーー私の人生は、本当に本当に、幸せだったわ』


『母様……? 何を言っているの?』


『あの人と出会い、愛し合って、貴女を生んで………最後は心から私を慕ってくれる妹に看取られた。こんな愛に満ちた人生を送れた私が、幸せじゃなかったわけないでしょう?』


『母様!』


『……あの人を、どうかよろしくね。翠玉。あの人は、強いように見えて、存外繊細な人だから。父親として過ごした時間がすごく短かったけど、貴女に対する愛情は本物だから、それは信じてあげて。……あと、難しいかもしれないけど。あの娘のことも、あまり憎まないであげて欲しいの』


 母様の体に、震えながらしがみつく。


 嫌だ。嫌だ。嫌だ。


 これじゃあ、まるでーーこれでお別れみたいじゃないか。


 せっかくまた、会えたのに。


 ようやく再び、こうして抱き締められるのに。


『行かないで、母様……私、ずっとここにいるから……だから、母様もここにいて』


 泣き出して懇願する私に母様は苦笑いして、その涙を拭った。


『駄目よ。【朱雀】……愛する人が、待っているのでしょう?』


『す、ざく……?』


『それに私は、どこにも行かないわ。……粉々に、砕け散ってしまっても、変わらずこれからもずっと貴女といる。貴女をずっと、見守っているわ』 

 

 母様の顔にぴきりとひびが入った。

 ひびはどんどん大きくなり、あっという間に母様の体はひびだらけになった。


『かあさまっ!』


『……幸せにおなり。愛しい子』


 砕け散る瞬間、母様の姿は、一瞬別の姿に変貌した。


『ーー……弟と、蒼燕をよろしくお願いします。貴女なら、きっと、どんな未来も乗り越えられるはずよ。……どうか、私のようにはならないで。朱雀』


『っ……藍華さん?』


 瞬きをした途端、母様だった藍華さんの体は粉々に砕け散って、光りとなって私に降り注いだ。


 あまりの眩しさに、思わず、目を瞑る。




「……あれ、私………」


 そして次に目を開けた時、私は医務室のベッドの上にいた。


「ーーああ。よかった。朱雀。目を覚ましたな」


 眠る私の傍らに寄り添い、夢の中の母様のように髪を梳いていた青龍王が、目を覚ました私の体を抱き締める。


「体調は、悪くないか? どこにも違和感はないか?」


「……はい、大丈夫です。え、と……私は……」


「そなたは、歌で傷ついた者を全て癒し終えた後、力の使いすぎで気を失ったんだ」


 ……何となく、それは覚えている。

 あの時、私は、その場にいる全ての人を、愛することに決めて、力を使った。

 それが、最も青龍王の為になると思ったから。


「っ王! 羽は、羽は治りましたか!? もう、痛みはありませんが」


 使用した力の範囲があまりに大きかったので、王をちゃんと癒せたか確かめられていない。

 欲張った結果、誰よりも癒したかったこの人の傷が、中途半端にしか癒えていなかったら、どうしよう。


 王は私の言葉が予想外だったのか、少し唖然としたように目を見開いた後、小さく苦笑を漏らした。


「ああ。そなたのおかげで、すっかり良くなった。空も飛べる。……というか、あの時点で既に一度飛んでいる」


「……なら、よかったです」


 ホッと安堵の息を吐いてから、根本的な疑問が胸に湧き上がってくる。


「……何故、私は今、無事に生きているのでしょう?」


 力が枯渇寸前の体で、あれだけの力を行使したのだ。

 運良く死は免れたとしても、重い後遺症は残ってなければおかしいはずなのに。


 何故私は今、こうも元気なのだろう。


「ああ……これが、そなたを救った」


 差し出されたのは、覚えがある小さな袋だった。

 開けると、中には、ばらばらになった緑色の小さな欠片が入っていた。


「………これは、もしかして」


「ああ。……そなたが持っていた、碧甲石だ」


 夢の中で、ひびが入ってばらばらに砕け散った母様を思い出す。ーーああ、あれはこういう意味だったのか。


「碧甲石は、またの名を『翠玉』。ーー亀人族が愛する者に贈る、守り石だ。持ち主に切実な死の危険が迫った時に、一度だけ身代わりになってくれる」 


 そうか……。これは元々は、母様が父様から贈られたものだったのか、と納得する。

 母様は、父様との思い出を、娘である私に託したのだろう。


「……いつもは細工箱にいれていると聞いていたが、身につけていたのだな」


「枕元にないのが落ちつかなくて……侍女に後宮から持ってきてもらったのです。それでも、最初は身につけるつもりはなかったのですが……」


 蒼燕が帰った後、侍女に命じて持って来てもらった細工箱を眺めているうちに、ふと思ったのだ。


 腕には父様から贈られた、ブレスレットを……母様の名を冠した石を身につけている。

 それなのに、母様から贈られた碧甲石を身につけなくても良いのだろうか、と。


 父様から贈られた石だけを身につけるのは、何となく母様を蔑ろにしているような気がした。

 ……否、単純にどちらも身につけることで、父様と母様を再会させた気になりたかったのかもしれない。


 私は、見張りの兵士に頼んで、ちょうどいい首から下げられる袋をもらい、そこに碧甲石を入れて眠ったのだった。


「ああ、やっぱり。……母様が、私を守ってくれたのですね」


 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ