表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/72

青龍王の涙

◆◆◆◆◆◆



「ーー【翠玉すいぎょく】!」


 玄武が叫び、落下する朱雀の下に必死に駆けつけようとしている姿が見えた。

 だけど、私は叫ぶことすらできなかった。


 ーー失われて、しまう。


 奇跡のように愛おしい、私の唯一が。


 そう思った瞬間、剣で切りつけられた羽の痛みも、姉上の裏切りに対する感情も全て、忘れた。


 代わりに湧き上がるのは、押し潰されそうな程の激しい恐怖だった。


 愛される資格も、愛していると口にする資格も無いと思っていた。

 彼女の過去の不幸の根本的な原因が、私にあることを知っていたから。


 理解しながら、彼女を手放せず、心のどこかで愛されることを望んでしまう、自分自身の浅ましさを恥じていた。


 だけど、そんな醜い私に、彼女は言ってくれた。


『青龍王、どうか……もっと私に縋って下さい』


『弱さを、見せて。痛みを……分けて。私の前では、王であることを忘れて、ただの貴方でいてください。もっともっと……喜びも悲しみも、何もかも、全てを二人で分かち合いましょう。そうすれば、きっと私は、憎しみを乗り越えられる気がします』


『貴方は、私。私は、貴方。……そんな風に思えれば、きっと』


 憎い私をそれでもなおーー愛そうとしてくれたのに。




 切られた羽を必死に動かす。


 頼む。もう一度ーーもう一度だけでいいから、飛ばせてくれ。


 それであの子が守れるなら、もう二度と、空など飛べなくても構わない。


 だから、どうか……あの子が、落ちる前に……!


 だけど、どれ程必死に動かそうとも、根本から切られ、皮一つで繋がっている羽では、飛べるはずがない。


 朱雀の落下軌道は、風のせいで建物の方向に逸れていた。屋根が緩衝剤になり、命を落とすことは免れるかもしれないが、あくまでそれは希望的な観測だ。


 王なんて大層な地位を与えられているのにーー私は彼女の為に、何もできない。彼女を救えない。

 失わせるばかりで、愛する者一人を救えない地位に、一体何の価値があるのだろう。



「……翠、玉……」


 先程玄武が口にしていた名前が、口から零れた。

 ずっと知りたかった、彼女の本名。ーーだけど、こんな風な形で知りたいわけじゃなかった。


 いつかその口から、「呼んで欲しい」と言われることを、夢見たのに。


『藍、清』


 掠れた喉で呟いた声が、朱雀に届くはずがない。

 だけどその瞬間、彼女が私の本当の名を、呼び返してくれた気がした。


 そして、次の瞬間、柔らかな光が辺りを包み込んだ。




 ーー光? 否、歌だ。

 

 胸が潰れるほどに美しい歌声が、光りのように輝きながら、私達を包み込んでいる。

 力の可視化なんていう、小手先の技ではない。

 この光は、彼女の歌そのものであり、彼女の力そのものだ。


「……羽、が」


 切られた痛みが消え、傷ついた羽が修復されていくのが分かった。


「ーーやめて、くれっ、朱雀! そんなことに、力を使わないでいい! 自分を守ることだけに使ってくれ!」


 彼女が確かに私を愛してくれたのだと言う喜びは、すぐに失う恐怖に塗り替えられた。

 

 羽なんて、いらない。

 一生痛みが続いても、構わない。


 そなたを……そなたを失わないで済むなら、私はもう何もいらないのに……!



 力によって、落下速度が緩やかになり、光りの中を舞うように落ちていく朱雀の姿が、よけい恐怖を煽った。


 息を飲む程美しい、神話のような光景。

 存在しないはずの翼さえ、その背中に見える気がした。


 まるで、彼女が、現世を捨て人ならざる存在へと変わっていっているかのように。


「……何故だ。何故なのだ……!」


 傍らに倒れ込んでいた黒生が、悲痛な声をあげた。


「王は、分かる。白虎将軍も……同じ四神という意味で、理解できる。ーーだが、何故、我らまで癒すっ!? 王に刃を向けた、我らを、何故!?」


「………それはきっと、そなた達が、私の民だからだ」


 私の言葉に、黒生は固まった。


「彼女は………自らの命を削ることになっても、全てを愛すると、決めたのだろう。私が慈しみ、守りたいと思ったものを全て」


 黒生は私の言葉に唇を震わせ、その場に突っ伏して声をあげて泣き出した。

 信念が砕けきった騎士の慟哭を背中で聞きながら、私は舞い降りてくる朱雀の元に飛んだ。

 

「……たとえ、どれ程そなたが私の為を想っていてくれても、そなたがいなければ何の意味もないのに」


 ただでさえ、力が枯渇寸前だったのに。これ程の力を使って、彼女が無事だとはとても思えない。


 唇を噛み締めながら、光りに包まれた彼女の体を静かに抱き締めた時、ぱきりと何かが割れた音がした。

 抱き締めた衝撃で、ブレスレットが壊れてしまったのかと思ったが、そこには何も変化はなかった。

 ハッとして、朱雀の首元に視線をやる。


 首元に紐で繋がれている、この袋の中身は。


「ーー碧甲、石!」


『落とすのが怖いから、普段は細工箱にしまっているんです』


 いつか、彼女はそう言っていたから、身につけているとは思わなかった。

 

 だけど、この石が彼女の傍にあったのならば。


「朱雀……そなたは、助かる。助かる、ぞ……!」


 力の使い過ぎで、意識を失ったその体を、強く強くかき抱く。


 気がつけば頬には、熱いものが零れていて。

 人は嬉しい時にも涙が零れ落ちることを、初めて体感した。




「ーー貴方達の勝ちね。藍清。朱雀」


 姉上はそんな私達を、静かに凪いだ目で見下ろしていた。

 

 



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ