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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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【羽無し】と彼の真実

 ……藍華さんは、とても愛情深い人なんだろう、と思った。

 だからこそ、こんなにも傷つき、追い詰められてしまったのだろう、と。


 愛する者同士が殺し合う、地獄のような過去が、彼女を人を信じられなくさせた。


「話すことで、玄武が到着するまでの時間稼ぎをしたかったみたいだけど……残念だったわね。もう、玄武が止めに入るより、剣が貴女を切り裂く方が早いわ」


 襲撃が成功して欲しかったのだろうか。それとも……本心では失敗して欲しかったのだろうか。

 藍華さんは痛ましげな表情で目を伏せて、私兵の人に指示を出した。


「せめてーー苦しまないように、一瞬で終わらせてあげて」


 次の瞬間、振り上げられた剣が私に迫る。

 私は、抵抗はしなかった。

 剣先から逃れようともしなかった。


 恐怖はなかった。

 だって、私は知っていたから。


「……ごめんなさい。藍華さん」


「っ」


 剣先が私に触れる前にーー弾かれるように倒れこんだのは、私に剣を向けた兵士の方だった。


「貴女の境遇には心から同情しますが……私は、貴女の為には死んであげられません。ごめんなさい」


 そう。私は知っていたのだ。


 藍華さんの私兵がどれ程私を害そうとしてもーー必ず、このブレスレットが、私を守ってくれることを。


「……信頼して頂けるのはとても嬉しいのですが、こうも無茶をされると信頼されていなかった方がよかったとも思ってしまいますね」


 後ろから聞こえてきた声に振り返る。

 次の瞬間、藍華さんの顔が悪鬼のように歪んだ。


「玄武っ……!」


「はいはい。藍華様。狡猾な私めが、結界を通して医務室での会話を聞いて参上しましたよ。というか、こうなることも半分予想していたので、医務室の傍で待機していたわけですが」


 軽口を叩くようにそう言って、玄武は笑う。

 だが、口元はいつものように笑みをたたえながらも、藍華さんに注がれる金色の目はけして笑っていなかった。


「残念ですが、朱雀にはどんな攻撃も通じませんよ。無防備な彼女が、結界の外に出て他人から害されることを想定して、念入りに呪を展開して、ブレスレットにこめましたから。……それを見こして、敢えて朱雀が貴女に着いていくことを選ぶのは想定外でしたが」


「……ごめんなさい」


「あとでお説教です。陛下も相当怒るでしょうから、覚悟しておいてくださいね。……さて、藍華様」 


 憎悪を露わにする藍華さんに、玄武は笑いかける。

 嘲うかのように。


「今ならまだ、全てを私と朱雀の胸に納めて、なかったことにできますよ。壊れた跳躍機の所に落ちていた羽を、敢えて朱雀の叔母のものとすり替えた時のように。貴女が今後下手な企てをしないなら、全てなかったことにするのが一番平和的な解決なんですよ。王の心境を考えても。どうか、藍華様。ご改心されてください。ーー過去の憎しみに囚われ続けるなんて、愚かですよ。未来を見ましょう? 心のあり方さえ変えれば、いくらでも貴女様には明るい未来が待ってますよ」


 玄武の耳障りの良い言葉を、藍華さんは鼻で笑った。


「良くも言えたわね。お前が、そんな台詞を」


「……………」


「先王陛下に、妻の死を秘匿されたことを恨み、その原因となった弟を、今もなお憎み続けている男がよくもまあ、ね……!」


 ーーああ、やっぱり。と思った。


「ああ、忌々しい忌々しい。亀人族というのは、本当に忌々しい種族ね……! 10年前とほとんど変わらないお前の姿を見る度、吐き気がするわ!」


「何せ、長寿と老化が遅いことだけが取り柄の種族ですから。……ご安心下さい。藍華様。貴女も10年前と変わらず、若く美しいままですよ。少々小皺が増えたくらいで」


「変わらぬお前の姿を見る度、私は過去に舞い戻されると言っているの……!」


 年齢と言う唯一の砦すら崩れた今、最早疑いようはなかった。


 ………いや、ブレスレットを受け取ると決めた時点で、本当は既に確信していたのだろう。


 最後に出会ったのは、6歳になるかならないかの頃。

 

 でも……おぼろげだけど。覚えている。

 

 触れば思いのほか柔らかい、若草色の髪の毛も。

 私と母様に向けられる、優しく細められた金色の瞳も。


『そうだ。母様の言う通りだ。ーー【  】。【  】。私の可愛い、赤い小鳥。羽がなくても、お前は私達の、一番の宝物だ。何より大切な存在だ』


 私を抱き締めながら、そう言ってくれた声も、本当はちゃんと覚えているんだ。


「…………………父様」


 ぽつりと呟いた呼び名は、玄武の耳に届いていたのだろうか。それとも、藍華さんの話に集中する余り、聞こえてはいないだろうか。

 

 どちらにしろ、玄武は私の言葉に反応することはなく、会話を続けた。


「貴女と一緒にしないで下さい。過去の憎悪に囚われても、私は自分の憎悪だけで、王を害そうとは思いません。そんなことをすれば、不本意ながらも王に仕え続けたこの十年間が、無駄になりますから。……愛する者が、幸福に生きられる国。それを作る為に、私は全てを捨てたのに、今さら貴女にそれを邪魔はさせない」


「っ私だって、蒼燕の為に……っ!」


「起きもしない未来を勝手に懸念をして、朱雀を殺そうとすることがですか? 素直に認めてください。……憎みながらも、愛する弟を手をかけない為に、復讐の矛先を朱雀に向けたのだと」

 

 

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