【羽無し】の夢
それは私が初めて知る、初代の真実だった。
「しょだいは……異国の地では、【ドラゴン】とよばれていたしゅぞくだったそうです。しかし、いまは、せかい中のどこをさがしても、【ドラゴン】は存在しません。いるのは、ただ、こんけつである、かあさまや、ぼくとおじ上。そして、べつのしゅぞくとの、こんけつである異人だけです」
「…………」
「なぜ、ほろんだかは、だれもしりません。今はなにも、のこっていません。……ただ、きっとぼくたちは、そういうしゅぞくなのです。大切なゆいいつのために、ひつようならば、すべてをほろぼす。それが、ぼくたちにかされた、『業』なのです」
悲しみを背負うことすら、すべては龍族が生まれ持つ業なのだと、蒼燕は言った。
だからこそ、龍族の頂点に当たる【青龍王】は、誰よりも深い悲しみを背負うのだと。故に、私の子どもに【青龍王】の役割を求めることは勧めないと言って、蒼燕は自嘲するように笑った。
「きっとぼくは………今よりもっと、ずっと……かなしみをおうことになるのでしょう。だってぼくはあまりに幼なすぎて、さいしょの【喪失】を、おぼえていませんから。王になるには、ふかんぜんです。ぼくは、きっとこれから大切なものを、うしなうのです」
「……そんな、ことは……」
「……これは、じき王としての、直かんです。そしていずれ王になるぼくの直かんは、まずはずれません。……それでも、ぼくは、それを止めたかった。止められられないにしても、せめて、うしなうときを、先のばしにしたかったんです」
そう言って蒼燕は、青龍王にそっくりな諦観に満ちた青い瞳を、私に向けた。
「………これは、かけです。おじ上と、ぼくの運命、どちらがつよいのか。おじ上が王であるべきじかんは、どれくらいのものか。わからないから、ぼくはかけてみることにしました」
「っ……」
「だから、すざく……気をつけて、ください。ぼくは、けしてあなたのみかたではない。あなたは、ぼくにとっては、今の平おんをおびやかすかもしれない、てきです。そのことを、おぼえていてください」
吐き捨てるように言い放った後、蒼燕はぺこりと頭をさげた。
そして顔を上げた時には、つい先程まで口にしていた言葉が夢だと思うくらい、無邪気な笑みを浮かべていた。
「……それでは、すざく、おだいじにされてください!」
「……はい」
「……ぼくは、あなたのこううんを、あなたのふうんと同じくらい、ねがってます」
それだけ言い残すと、蒼燕はもう一度頭を下げて、部屋中から出て行ってしまった。
「あの子は……一体、何の為にここに来たんだろう……」
いくら自問した所で、答えは出なかった。
胸の奥に嫌な予感がじわじわと広がっていくのを感じながらも、敢えてそれを無視して目をつぶる。
……蒼燕の本心がどうであれ、あの子が跳躍機を壊したという告白自体はきっと本物だ。
あくまで、原因はただの事故。そこに何らかの陰謀なんて、何もなかったのだ。
自分にただただ、そう言い聞かせて、広がる不穏な予感から、目を背けた。
『ーーあなた………あなた……あなた……』
夢を見た。
夢の中で、私は初代朱雀になっていた。
『愛しい、貴方……私の、【青龍】。死なないで。どうか、私を置いていかないで』
血だらけの、初代青龍王を前にして、朱雀は泣きながら舞い踊った。
ただ、青龍王を死なせたくない一心で。
『貴方が生きてさえくれるなら……私は、命を捨てても、良い。全部全部、貴方にあげるわ』
全てを捧げてでも、愛する青龍王に生きていて欲しいと思う初代朱雀の強い、強い想いが伝わってくる。
けれど、その感情は、私が思っていた程美しい感情ではなかった。
私を、置いていかないで。
私を、一人にしないで。
全てを諦めて、人族の奴隷になることを受け入れた私に、希望なんてよけいな感情を教えたのは貴方なのに。
再びまた、あの絶望の淵に落とすなんて……許さない。
初代朱雀は、初代青龍王が故郷で同族を失ったことも、知っていた。
そして……鳥人である故に、ドラゴンと同じように飛べる自分に、同族の面影を見出していたことも。
……結局私は、大切なものを失った空白を埋める為の、代替え品でしかなった。それでも、良いと思っていた。
彼が、生きて、傍にいてくれるのなら……それだけで、良いと。
『だけど、貴方が私を置いていくなら……絶対にそんなことは認めないわ。私を誰より大事な存在にしてくれないなら、そんなことは許さないんだから』
だから……私は、命をあげる。
滅びた彼の同族に、並び立つ為に。
そのせいで、彼が一層不幸になるというのならば、なればいい。今までよりずっと、不幸になればいい。
私は、貴方。
貴方は、私。
貴方が死ねば、私の心もまた、死ぬだろう。
だから貴方の心も……私の死と共にどうか、死んでください。
その代償に、私は貴方を生かすから。
初代朱雀の抱いていた、初代青龍王に対する愛情は、私が思っていた以上に狂気を帯びていた。
狂気的で、身勝手で、利己的な愛情。
王の為という名目で、自分の望みを果たそうとする。
それでも……初代朱雀の初代青龍王に向ける感情は、確かに「愛」だった。
それが美しいか醜いか、正しいか間違えているかは分からないが……確かに初代朱雀は、初代青龍王を、愛していた。




