【羽無し】と王の本音
どうして、自分自身の心なのに、こんな風にままにならないのだろう。
どうありたいのかも、どうであるべきかも、一致しているのに。
どうして私は、望ましい私になれないのだろう。
「………朱雀」
青龍王は、私の体を抱き締め返しながら、目を伏せた。
「………どうか、自分を責めないで欲しい。そなたの私に対する憎しみは、抱いて当然のものだ。私がそなただとしても、きっと私は私を憎んだだろう」
「………青龍、王」
「そなたが、全てをこうして晒してくれた今、私がちゃんと本音を語らないのは、卑怯だな。……私の卑小な真実を、全てちゃんと語っておこう。そなたにはそれを知る権利がある」
青龍王は私の肩を掴んで体を遠ざけながら、その双眸を私に向けた。
「全てが来たるべき運命の為に、必要なものなのだと自分に言い聞かせているがーーそれでも本当は、何故と、思う時がある。何故、その運命の為の犠牲を背負わされるのが、私達なのかと」
王としてこれは、口にすべきことではないと分かっているが、と小さく前置きをし、青龍王は言葉の続きを紡いだ。
「……私が一体何をしたのかと、全てを呪いたくなる時すらある。何故、王に選ばれたのが私だったのかと。いっそ、他の王族達と共に滅ぶことができた方が、幸福だったのではないか、と。私を殺そうとした父を憎むと同時に、私を守った祖父を恨めしいと思いもするのだ。命を救われておきながら、我ながら身勝手だと思うが」
それは、もしかしたら王宮に来て初めて聞く、王の弱音であった。
「感情のままならさは、私自身がよく知っている。だから、そなたを責めるつもりはない」
「………」
「それでも……そなたから愛されることを望む私がいるのも、また事実だ」
つきりと、胸の奥が痛んだ。
だけどその痛みは、同時に、心地よくもあった。
「本当は、そなたの為を思えば、手放すべきなのであろう。そなたの幸せを間接的に奪った私に、そなたを求める権利がないことも分かっていた。ましてや、滅びるかもしれない運命を、共に歩んでくれなぞと言う権利なぞない」
「……そんなこと、は」
「それでも……私は、そなたを諦められなかった。卑怯にも、情報を後から小出しにすることで、そなたに【朱雀】であることを受け入れささせようとしていた。愛されなくても良いなどと譲歩するふりをすることで、そなたが拒絶できないように仕向けた。……自分から、運命を選びとったのだと、そう思わせるように」
私は、どこまでも卑小な男だ、と王は唇を噛んだ。
「そなたは……私の希望だった。自身の運命を肯定する為の、唯一のよすがだった。誰を失っても、誰に裏切られても………そなただけは、最後まで私の傍にいてくれると信じられた。傍で、壊れそうな心を支え続けてくれると。私は【青龍】で、そなたは【朱雀】だからと言う、それだけの理由で。私はそなたに縋らずにはいられなかった」
「……私も、です。私も、同じように貴方に縋りました」
「そなたと私では、事情も立場も違う。……居場所がないそなたを、私は王と言う立場を利用して絡めとったのだから」
「それでも………それは、私が望んだことです。貴方と共に行くと、望んだのは私です」
だから、そんなことで貴方が苦悩する必要はないのに。……本当に、真面目な人だと思う。
王の告白は、少しも私に彼を幻滅させなかった。
寧ろ、今まで、途切れ途切れにしか見せてくれなかった本心を、ようやく全て晒してくれたことが、嬉しかった。
王であろうとしている人が。
王として、自分を厳しく律して、全てを背負い込んで立とうとしている彼が。
その理想に反してでも、私を求めてくれていることがーーどうしようもなく幸福だと思った。
「青龍王、どうか……もっと私に縋って下さい」
「……………」
「弱さを、見せて。痛みを……分けて。私の前では、王であることを忘れて、ただの貴方でいてください。もっともっと……喜びも悲しみも、何もかも、全てを二人で分かち合いましょう。そうすれば、きっと私は、憎しみを乗り越えられる気がします」
「……朱雀」
「貴方は、私。私は、貴方。……そんな風に思えれば、きっと」
ひどく難しいと思っていたその考えが、今はひどく簡単なことのように思えた。
私はもっと早く、彼に憎しみを語るべきだったのだと、ようやく気がつく。
一人でそれを抱え込み、抑圧しようとしていたから、どうしようもなく憎しみが膨らんで、「愛する」気持ちを阻害していた。
認めたくないと、認めてはいけないと思うからこそ、いけなかったのだ。
彼への理不尽な憎しみを認め、吐露したことで、分かった。
湧き上がる「愛おしさ」と、消せない「憎しみ」は、両立しうるものなのだと。
感情が同時に存在しても、それは彼への「愛」を損なうものではないのだと。
だってほら、私は今………こんなにも彼が愛しい。
こんなにも、満たされている。
叶うならば、これからも王と、共にいたいと思う。
全てを一人で抱えこもうとする、真面目で優しいこの人と。
もしかしたら今なら既に、守護の力を彼にも与えられるかもしれない……そう思って開いた口は、すぐに王の掌で塞がれた。
「………回復するまで、歌は禁止だ」
「……………」
「そんな目で見られても、駄目なものは駄目だ。命に関わると言っただろう」
思わず恨みがましい視線を送る私を、王は険しい表情で咎めた。
「後宮に戻せば、そなたはまた無茶をするかもしれないから………完全に回復するまでは、ここにいるように。後宮程守りは頑強ではないが、玄武に結界をかけさせたから、部屋をでなければ問題はないはずだ。………知らない間に歌っていないか、ちゃんと扉番の兵士に見張らせておくからな」
「………見張りなんてつけなくても、もう歌いませんよ」
「いいや。そう言った点では、そなたは信用できない」
きっぱりと否定されて、少し落ち込む。
自業自得とはいえ………信用されないのは少しショックだ。




