表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/72

【羽無し】の憎しみ

「………ここは?」


 目を醒ますと、見知らぬ部屋にいた。

 寝かされていたベッドから身を起こして、辺りを見回す。


「……王宮の医務室だ」


 すぐ隣から、苛立しげな低い声が聞こえてきた。


「青龍、王………」


 王は初めて会った時と同じような険しい表情で、私を見据えていた。


「玄武が倒れたそなたを、血相を変えて運んで来たらしい。自分が呪の篭もったブレスレットを贈ったせいだと、悔いていた」


「………玄武のせいではありません」


「ああ、そうだな。呪の影響で使われる力なぞ、微々たるものだ。流石の玄武も、その程度のことでそなたが倒れるとは思うまいよ」


 ………ああ、もう知られてしまった。

 まだ、実験に成功して、いなかったのに。


「王宮医の診断は『力の使い過ぎによる、心身の消耗』。心身が回復するまでに、再度力を使えば、命にも関わるそうだ」


「………………」


「後宮の侍女達が白状したぞ。朱雀。ーーそなたは、後宮にいる間ずっと、時間があれば『歌っていた』のだとな……!」


「………彼女達を責めないでください。私が口止めしたのです。彼女達は後宮の主である私には逆らえません」


「責めていない……! 私が責めているのは、そなただ……!」


 険しい表情で、青龍王は私の肩を掴んだ。


「力を使い過ぎれば、命に関わる。だから、歌も舞も姉上との練習の時だけに限定していたはずだ……! それなのに、どうして………」


 知られたら、叱られるのは承知の上の行動だった。

 だけど、いざこうして目の前で取り乱している王を見ると、胸が傷む。


 ………貴方に、こんな顔をさせたかったわけじゃなかったのに。


「………命に関わる程の力を、貴方の為という名目で消費すれば………私自身が、この気持ちを『愛』だと思えるのではないかと思ったんです」


「っ」


「そうすれば……貴方を、守れるようになれると」


「っそんなこと、誰が頼んだ……っ」


 頼まれてなぞ、いない………私がただ、そう望んだだけで。


「言っただろう? 私は、そなたに、守ってもらわなくても構わないっ! 愛されなくても、そんなことは当然だっ! ただ、傍に……健康で傍にいてくれれば、それでよかったのに……っ」


 私の為に激昂している青龍王の姿が、心苦しくて………そして、嬉しかった。


 こんなに、大切に思ってくれているのに。


 こんなにも、王を愛しいと思っているのに。


「愛し、たかったんです………どうしても、どうしても、貴方を愛して、愛されたかったんです……この身を、犠牲にしてでも」


「朱雀…………」


「それなのに………駄目でした。こんな風にしても、やっぱり駄目でした。私は私を、変えられない」


 目から、ぽろりと涙がこぼれ落ちた。

 

 この感情を、「愛」だと思い込もうとした。

 醜くても、汚くても、それでもこれは確かに愛なのだと。

 そう思おうと、したのに。


「貴方を、愛そうとする度……母様の死に際が、浮かんでくるんです………」


「…………」


「熱が見せる幻影の中の父を求めて、逝った母を思い出す度………私は貴方を憎まずには、いられない……っ!」




『………ああ、貴方。………やっと……来てくれたのね』


 何もない宙を見つめて、母は笑った。


『【  】を……どうか、お願いします………ああ、よかった。最期に、また会えた……』


 そんな母を見て、母の手を握り締めていた叔母は、悲痛な金切り声を上げた。


『………姉さん、しっかりして……っ。あいつは、今ここになんて、いない……姉さんの傍にいるのは、私よ……!』


『………貴方…………』


『ーー私を見てよ、姉さんっっっっ!!!』


 私はその最期のやり取りを、叔母からかろうじて許された、扉の陰からそっと眺めていた。



 その日、峠を越すことなく、母は亡くなった。母の死に顔は、穏やかで幸福そうなものだった。


 可愛がっていた妹に臨終の際まで看取られ、幻影とはいえ、死の間際に愛する父と再会できた母の最期は、けして不幸なものではなかっただろう。

 事実、母は私達を捨てた父に、最期の最期まで恨みごと一つ零さなかった。最期まで、父を信じ、許し続けていた。


 だけど私は………否、だからこそよけいに許せない。

 

 あれ程父に会いたがっていた母に、会いに来ることなく、死なせた父親も。


 その、原因となった王のことも。




「………そうか。そなたは気づいていたのか」


 私の言葉に、王は静かに目を伏せた。


「ならばよけいに………私が、どれ程愛される資格がないか、分かっているだろう。私の為に、そなたが苦しむ必要はない」


「っ貴方は、何一つ悪くない……っ!」


 肩から手を離し、遠ざかろうとした王の体を、縋るように抱き締めた。


「貴方は、何も悪くない……分かっているんです。分かっているんです。そんなことは。私が憎むべきなのは、父一人で、貴方じゃない。貴方はただ、理不尽な運命に巻き込まれただけだって、頭でちゃんと理解しているんです。貴方を責めるのは、お門違いだって……!」


「……………」


「それなのに……どうしても、止められない………どうしても、憎んでしまうんです。……愛しい気持ちにも、嘘はないのに」






 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ