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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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【羽無し】と舞

 それは、当然と言えば当然の疑惑だった。

 羽が無い鳥人なぞ、鳥人でない。

 それが、一般の認識で。当たり前のことで。

 そんな風に思われても、仕方がないことだと思う。


「………羽が無い鳥人だって、時には生まれます。他種族との、混血の場合は特に」


 だから、今さらそんな言葉に、傷つきはしない。

 だってそれが普通のことだから。

 おかしいのは、異常な姿で生まれた、私の方なのだから。

 それなのに、当たり前の疑惑を投げかけられ、傷つく方がどうかしている。


「……っそんな目を、しないでくれ……」


 私はちっとも気にしてなんかいないのに、何故か剣士の方が痛みに耐えるように顔を歪めた。


「お前を……そなたを、侮蔑したかったわけではないんだ。そんな目を……させたかったわけじゃない」


 何を言っているのだろう。この人は。

 こんな風に、取り繕って言い訳をする必要なんて、ないのに。

 私の目が、一体どうしたというのか。


「自分ではよく、分かりません………。教えて下さい。私は一体どんな目をしているのでしょうか?」


「………全て、を」


 暫く言葉を切ってから、剣士は苦虫を噛みつぶしたようなような表情で、続けた。


「期待すること全てを、諦めきっているかのような目をしている」


 ーーああ。


 それこそ、今さらだ。


 もし私の表情筋が自然に動いていたら、きっと今私の口元には、意図しないままに笑みが浮かんでいたことだろう。

 だけど実際の私はきっと、いつもと変わらぬ、無表情のままだ。

 感情を殺すことに慣れすぎて、最早自分の感情すらよく分からない。

 それでも、先程まであった胸の奥に溜まった澱のような重苦しさが、何だか少しだけましになった気がした。


「……私が鳥人だと、信じる気になりましたか?」


 私の問いかけに、剣士は肩を落として首を横に振った。


「正直に言えば……分からぬのだ」


 その手に握られた剣の先は、変わらず私に向けられている。


「……私の直感は、そなたを信じるべきだと訴えている。これ以上そなたを傷つけ、貶めるべきではないと警告している。だがーー四凶級の魔物は、人の心すら操ることもできるという」


 その話は、私も聞いたことがあった。

 彼らはどこまでも狡猾で、厄介だ。

 悪人を好み、善人を嫌う四凶は、時には善人の弱さに付け込み、自らの望む悪の姿に落とすことすらあると言う。


「そなたが信じられないと言うよりも……私は恐らく、自分自身を信じられていないのだ。未だ生態に謎が多く、過去の討伐事例も少ない四凶の能力に、惑わされてない自信が無い。全ては、私の未熟さ故だ」


 正直で、潔い人だと思った。

 自身の能力に過信することなく、できるだけ客観的に事態を捉えようとしている。

 迷い葛藤しながらも、その剣先だけは少しも緩んではいない。

 慎重に、自らがすべき最善の行動を、見極めようとしている。


「私は、私が私であることを証明する術を持ちません。一体どうすれば、信じて頂けますか」


 剣士は少しだけ考えた後、髪と同じく、どこまでも蒼い瞳で私を見据えた。


「歌い………できれば舞ってみて、くれないか」


「え………」


「いくら見かけを真似た所で、その能力までは真似できまい。……生まれつき羽が無いのなら、他の鳥人のようには舞えないことは承知している。それでも、そなたができる最大限の舞を見せて欲しい」


 断る理由もない提案だった。


「ーー承知しました」




 この国で最も有名な歌は、初代四神達の建国伝説に由来するものだが、鳥人の舞で使用される最も有名な歌は、初代青龍王と初代朱雀の愛のあり方を歌ったものだ。

 異国から渡って来た青龍王と、愛玩用奴隷として売られていた朱雀との出会い。

 人族との戦を通じて、深まっていく絆。

 鳥人の歌による加護は、歌い手が心から愛する相手にも、同様に与えることができる。

 朱雀は戦い傷つく青龍の為、歌い、舞った。


 彼は、私。

 私は、彼。


 種族も違う。生まれた場所も違う。

 それでも、自分達は一つなのだと、声高らかに朱雀は歌う。

 出会うべくして出会った、半身なのだと。


 死ねば魂は四散し、様々な生物の四散した魂と結びついて融合することで、新たな生が誕生するというのが、彼女の死生観だった。


 どんなに魂が散り散りになったとしても。

 融合と四散を繰り返し、どんなに小さな欠片になったとしても。

 私の魂はいつの世も、貴方の魂の欠片を宿した人を、求め続けるでしょうと、彼女は歌った。


 まるで呪いのような、深く、重い愛情。

 だが、青龍王はその愛を、喜喜として受け入れた。


 さらば、私も探し続けよう。

 永久に、そなたの魂の欠片を探し続けよう。

 いつか散り散りになった魂が、再び一つになる日まで。

 そなただけをただ、思い続けようと、彼は歌う。


 そして歌は、次代へと続く。

 初代の魂の欠片を宿し、出会った次代の「青龍」と「朱雀」

 再び始まる、「青龍」と「朱雀」の愛情の歴史。


 やがて、繰り返された歴史は、当代へと受け継がれるーーと、歌が締められる。



「ーー……いかがでしたか」


 舞いながら歌ったのは、久しぶりだ。……息が、切れる。

 羽も無い。一般的な鳥人のように、毎日鍛錬を繰り返しているわけでもない。

 果たして、こんな拙い舞と歌で、鳥人であることの証明になり得るのだろうか。


 




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