【羽無し】の醜さ
信じたいのは、青龍王の方だと思った。
だって今回の犯人は……王宮の内部の人間だ。それも、警備が厚い王宮で、王の許可なく跳躍機が保管してある部屋に入っても露見しないくらい、ある程度地位が高い人間。
叔母は、ただ、罪をなすりつけられただけだ。
私でも分かるようなそんな単純なことを、王が分からないはずがないのに。
「貴方も……本気で、叔母が犯人だと思っているわけではないのでしょう?」
私の問いかけに、王は静かに目を伏せた。
「………物的証拠がある以上、可能性としては0ではないと思っている」
「……………」
「だが、赤い羽が現場に残されていたというだけの理由で、そなたの叔母を罰することはあり得ぬし、彼女に接触し追求することもしない。……ただ、念の為そなたに警告をと、思っただけだ」
その返答が、何より雄弁に王の本心を語っていた。
王だとて、本当は分かっている。
一番疑うべき存在は誰なのか。
それでいて、敢えてその事実から目を背けようとしている。
ただ「彼」を失いたくがない故に。
そう思ったら、胸がちくりと痛んだ。
「………『あの人』は叔母が、憎いのでしょうか」
私の言葉に、王はゆっくり首を横に振った。
「好いてはいないだろうが……寧ろ憎んでいるのは、そなたの叔母の方だろう。王宮に訪ねて来た時も、一悶着あったと聞いている」
……ほら、やっぱり。王も分かっていた。
『あの人』だけで、通じるのだから。
「あれも、本気でそなたの叔母に罪を着せようと思っているわけではないだろう。そのつもりなら、もっとうまくやる。……それでも、体裁だけでも『そなたの叔母が犯人かもしれない』状況を整える状況があったのだろう」
「それは………貴方の為ですか」
「あれが、私を大嫌いだという言葉に、嘘はない。私の為に、そんなことはしないだろう」
「なら……」
私の為に? と言いかけて、口を噤んだ。
それは、王に聞くべきことじゃない。あの人に、直接聞くべきことだ。
それよりも今、私が王に聞くべきことは。
「……何故、騙されていると知っていて、言及しないのですか」
「……………」
「怒り、悲しむ素振りさえ、みせてくれないのですか」
「……朱雀」
「身内の裏切りにすら、意味があるのなら仕方ないと思うのは……やっぱり、違う気がします。間違って、います」
そう言って、王の胸元に額をつけるようにして寄りかかった。
触れた場所から伝わってくる王の鼓動は安定していて、彼が虚勢を張っているわけではないことは明らかで。それが、とても悲しかった。
きっと青龍王は、今この瞬間、私が王を剣か何かで切りつけたとしても、悲痛な顔一つせずに受け入れるのだろう。
『私が朱雀によって殺されることは、必要な運命なのだろうから、仕方ない』と言って。
「あの人」に今そうしているように、見てみぬふりすらしてくれないかもしれない。だって私が青龍王と共に過ごしたした時間は、短い。「あの人」とは、果たす役割の重要さも違う。
そう考えると、泣きたくなった。
淋しい。
悲しい。
もっと自分を大切に思って欲しい。
私達のことを……私のことを、信じて欲しい。
寂しい。
苦しい。
……だって、こんな風に諦められるのは。
裏切りさえ、嘆いてくれないのなら。
「青龍王………貴方にとっての私の価値は、やはり【朱雀】と言うだけなのですね」
ーー愛されて、いないと、同じじゃないか。
「……朱雀」
王に呼ばれて、ようやく我に返った。
なんてことを、口にしてしまったのだろう。
口元を抑えながら、王の胸元から離れ、深々と頭を下げる。
「……すみません、失言でした。どうか忘れてください……!」
頭を下げて俯いたことで、重力に伴って涙が下にこぼれ落ちた。
被害者ぶった、身勝手な涙は、そのまま次から次へと溢れて止まらなかった。
なんて、愚かなことを言ったのだろう。
なんて、醜い、自己中心的な言葉を吐いたのだろう。
自分は愛せない癖に。
守護の力で、青龍王を守ることすら、できない癖に。
「ごめん、なさい。失言でした。あなたは、私を許してくれたのに……それなのに、何て勝手なことを……ごめんなさいごめんなさい」
ーーそれでも、彼には私を愛して欲しいと思うなんて。
王を、愛したいと心から思っている。
だけど、それは王の為ではない。
「ごめんなさい………どうか、私のことを、嫌いにならないでください……」
初代朱雀のように王を愛すことが出来れば、彼もまた、初代青龍王のように私のことを愛してくれるのではないかと、期待しているからだ。
【朱雀】という肩書きではなく、私自身のことを愛してくれるのではないかと、打算的に思っているだけだからだ。
愛したいから、愛すのではなく、愛されたいから、愛したいだけ。
どこまでも利己的で、身勝手な自分に嫌になる。
想いが、朱雀の力になるというのなら、こんな醜い感情を抱えている私が、王に対する守護の力を使えないのも当然だ。
頭では理解しているはずなのに、それでも醜い感情を止められない。
本当は【朱雀】ではなく、【 】である自負自身を愛して欲しいと思っているのに、王自身よりも寧ろ、【朱雀】の絶対的な運命の相手である【青龍王】という肩書きに、惹かれる自分がいることも否定できない。
自分のことばかりの、醜い、醜い私。
こんな自分を肩書きなしで、愛してくれる相手なんて、いなくて当然なのに。
「……私がそなたを嫌いになることなぞ、あり得ない」




