【羽無し】と赤い羽
王の言葉は、私にさしたる衝撃は与えなかった。
ああ、なるほど。そういう可能性もあったのか。と、妙に納得した。
国の為に、運命が設けた捨て石。
蔓延った悪しき慣習を廃して、それと共に朽ちることで、次代に新しい未来を受け渡す。
王はともかく、私にとっては今まで描いていた【朱雀】像よりも、よほどしっくり来た。
「あくまで可能性だ。そう自身に言い聞かせて、敢えてそれを今まで黙っていた。そなたに【朱雀】の地位を辞退して欲しくなかったからだ。【運命】を確かめたいと言う、個人的な欲で。……どうだ? 十分私は、自分に甘い男だろう」
そう言って、青龍王は優しく私に微笑みかけた。
「本来なら私は、そなたを愛す資格も、愛される資格もない男だ。そなたが、私を愛せなくても当然なんだ。……だから、そなたが気に病むことは何もない」
………やっぱり、王も気づいていた。
白虎も玄武も気づいていたのだ、気づかないわけがない。
それでもこうやって、あくまでその責を自分自身のものにしようとするのか。
「………可能性を黙っていたことは、何の幻滅材料にもなりません」
「…………」
「もし、共に朽ちる日が来たとしても。……けして私は、そのことで貴方を恨みに思うことは無いでしょう」
自分が混血の羽無しでなければ、こんなことにはならなかったかもしれないと、自分自身を責めるだろうことはありありと想像できる。
だが、そのことで………そのことに関しては………私がこの優しい王を恨みに思うことは、あり得ないと断言できる。
だって、彼が現れなければ、ただ同じ日常が続くだけだった。
侮蔑と嫌悪の視線が向けられる日々が、繰り返されるだけだった。
青龍王は、私の世界を変えてくれた人。
初代朱雀や、白虎のように、進んで命を捧げるとまでは言えなくても、【運命】に従った結果、命を散らしたとしても仕方ないと思える。
むしろ、この人をたった一人で逝かせることを考えれば、きっとそれは幸福な最期なのだろう、とさえ。
「青龍王。………信じてもらえないかもしれませんが、私は貴方をお慕いしてます」
対面して改めて、この人の傍にいたいと思った。
自分の命を狙った、両親や親族にすら愛を抱いたままでいる、この人を。
守護の力を王に向けられない私を、責めることすらなく、その責すら自らのものとする、この人を。
愛おしいと、心から思う。
この人を愛し、守りたいと。そう、心から思うのに。
「………嫌いでないなら、それでいい」
ならば、何故と、王は聞かなかった。
ただ、静かに微笑んで、そう言った。
………青龍王は、もしかしたら気づいているのかもしれない。私が、彼を心から愛せない根本的な原因に。
「それより………そなたに、警告せねばならないことがあったんだ」
自身の胸元を探りながら、王は話を変えた。
「……これが、壊された跳躍機の傍に落ちていたと、報告があった」
差し出されたそれに、息を飲んだ。
「……赤い……羽………」
この大きさも、色も確かに見覚えがある。
屋敷の清掃を任されていた時に、幾度も目にした。
脳裏に、式典で見た、あの憎しみに満ちた表情が蘇った。
「式典の前日……そなたの叔母が、王宮に来たらしい」
「……あの人が、ですが」
「そなたに会わせろと騒ぐのを、式典前でそれどころではないと、玄武が宥めて帰らせたというが………」
「叔母は、跳躍機を壊した犯人ではありませんよ」
考えるまでもない、結論だった。
私の言葉に、王は表情を曇らせた。
「………そなたが、身内を信じたい気持ちは分かるが」
「信じるとか、信じないとか、それ以前の問題です。叔母が私への嫌がらせの為に、あんな風に跳躍機を壊すなんてあり得ません」
叔母は、犯人ではない。
7年間近くにいて、彼女の憎悪を受け続けてきた私だからこそ、それが分かる。
「叔母は私を殺したい程憎んでいます。もし跳躍機を壊すなら、傍目では分からない細工をして、私が事故死するように仕向けるでしょう。あんな跳躍機の壊し方では、跳躍機が使えない私が、高く跳べずに恥を晒すだけ。私が【朱雀】に相応しくないと周囲に思わせることを、彼女は別に望んでいません。身内の恥を大きくするだけですから」
叔母は、周囲が思っている程、【朱雀】という存在に固執していない。
娘の朱麗が【朱雀】の座を望み、夫もそうなることを期待していたから、自分も応援していただけ。実際、私が【朱雀】に選ばれ村を出た時も、彼女はようやく私を追い出すことができたと、そればかりだった。
………叔母がわざわざ長夫婦に同行してまで、私に会いに来た理由も、だいたい想像がついている。さぞかし怒り狂っていたことだろう。代わりに玄武が相手をしてくれて、よかったと思う。
「しかし……跳躍機に細工を施したところで、舞歌っている、そなたには守護の力が働いて、怪我を負わすことはできないだろう。だから、せめてもの嫌がらせとして、跳躍機を壊したとは考えられないか」
「王宮で罪を犯すリスクを背負って、ですか? あり得ません。そもそも、犯人が叔母だとしたら、王宮のセキュリティをどう突破したか説明できません。跳躍機の存在自体、知っていたかすら、怪しい」




