未来の為の捨て石
「白虎との話は、どうだった? ちゃんと、満足するまで語れたか」
その夜。
青龍王は、私に会いに来てくれた。
「ええ……話すことができました。お礼も……彼の過去のことも」
「そうか。ならば、よかった」
青龍王は微笑むだけで、白虎の過去についてそれ以上語ろうとはしなかった。
彼の不遇な境遇を、悼むことすら。
白虎がいない今の状況で、第三者が語ることではないと思っているのだろう。
「………白虎が、言ってました」
「うん?」
「王は……憎しみごと、両親や亡くなった一族を、愛しているのだろう、と」
少しだけ困惑したように表情を崩す王を、じっと見据える。
彼の本心を探るように。
「何故、貴方はそんな風に、いられるのですか。自分を死に追いやろうとした相手を、許せるのですが」
「………結果的に、死に追いやったのは、私の方だ」
「それでもっ、貴方は望んでいなかったはず! 自衛の為に望まず行ったことと、自ら進んで行ったのとではわけが違います」
「望まなかったのは、父上も一族も同じだ。私が王にさえ選ばれなければ、彼らは私を殺そうとする必要はなかったし、死ぬ必要もなかった」
違う、と叫びたかった。
命を守る為と、王位簒奪の為とでは、その重さが違うと叫びたかった。
だが、真っ直ぐにこちらに向けられる、凪いだ青い瞳を見たら何も言えなくなった。
「王になるということは、数多の国民の命を背負うことだ。私一個人の命なんて、比べものにならないし、比べること自体間違っている。父上も、他の一族も、私がその立場に相応しくないと思ったが故、私を殺そうとしたのだ。彼らは彼らなりの、信念や正しさがあった筈。ならばその行為で、私の彼らに対する評価が覆ることはない」
「………幸せな記憶は、上書きされてしまっても?」
「上書きされてしまっても………それでも確かに存在したのだから」
彼にとって、亡くなった一族を愛することは、許す許さないの問題ではないのか、と腑に落ちた。
彼にとって、愛することと、殺されかけたことは、全く別の次元の問題なのだ。
だけど、それはあまりにも。
あまりにも……。
「あまりにも、それは……寂しい、気がします」
「寂しい?」
「王……貴方はもっと、ご自分を大切にするべきです。自分を感情を、大切にするべきです」
物わかりの良い、「正しい」言葉が、全て本心だとは思えない。
改めて思う。
彼はもっと、悲しむべきだ。
憎むべきだ。
怒るべきだ。
村での辛い日々に、私は感情を表に出すことを殺していたけれど、王のあり方はもっと歪なように思えた。
理想の為に、自責以外の負の感情を削り落とすことは、本当に正しいことなのだろうか。
「……自分なら、大切にしている」
「どこが、ですか?」
「私の傍には、そなたも……白虎もいるだろう」
それの、どこが自分を大切にすることになるのだろう。
白虎は、先祖返りの【窮奇の化身】で、私は混血の【羽無し】。
歴代の何も問題のない【白虎】と【朱雀】に比べたら外れも良い所だ。どこまでも運命は残酷だ。
「………本来なら、私はそなた達を【白虎】や【朱雀】に選ぶべきではなかった」
「それはそうでしょう。……あまりにも王の負担が多過ぎます」
「そういう意味ではない。……【朱雀】に選ばれれば、そなたは羽が無いことで肩身の狭い想いをすることは、分かっていた。【白虎】が自らの秘密故に、苦しむことも。それでも、私はそなた達を選ばずにはいられなかった。そなた達は私の………『運命』であったから」
王はそう言って、どこか遠くを見た。
「以前、そなたは運命を恨まないのかと、私に聞いたな」
「……はい、聞きました」
「私が運命を恨まないのは、そこに必ず意味があると信じるからだ。その意味を知りたいと願うからだ」
「……………」
「私は、一族に望まれずに王になった。そなたも、混血が故に、一族から認められなかった。白虎は、その形質故に、一族から疎まれた。玄武は………一族から認められて育ったが、あれ自身が亀人一族を憎み拒絶している。当代の四神は全て、歴代に比べ異端なのだ」
『王族の凄惨な事件が無くても、元々四神そのものが減少しているとお話したでしょう。四神における、純血主義と、他種族に対する侮蔑意識。四神一族と、その他の種族の格差。それ自体が、この国を崩壊に導いているのだと私は思っています。……今、この国は、根本から変わるべき時が来ているのです』
何時ぞやの玄武の言葉を、思い出す。
あの時、玄武は私の存在が国を変えるきっかけになると言ったが……四神全てが、その為に選ばれたものであったのなら。
私が羽が無いまま生まれたことも、確かに何かしらの意味があったのだろう。
「ただ……【運命】が私達にもたらす『意味』が、必ずしも個人の幸福に繋がるとは限らないのもまた、確かだ。背負う【運命】が、私達を滅ぼす可能性は捨てきれない」
「それは、どういう………」
「私達当代の四神は、蒼燕が青龍王となる次代が安寧の世を作る為の、捨て石であるかもしれないということだ」




