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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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【羽無し】と愛

 白虎の言葉に、責めるような響きはなかった。

 だからこそ、よけいその言葉が突き刺さった。


「………慕っているのも、本当なんです」


 私を拾い上げてくれた、あの優しい王を、私はとても好きだ。好きにならずには、いられなかった。

 全てを背負って、一人立つあの人を、守り支えられる【朱雀】になりたいと、心から思っている。

 それなのに。


「それなのに……私は醜い理不尽な気持ちが、止められないのです」


 それは、理不尽で、醜くて、あまりに自分勝手な想いだ。

 何度も何度も、殺そうとした。

 何度も何度も、そんな想いを抱いてはいけないと自分に言い聞かせた。


 それでも、無理だった。


 ーー青龍王さえ、いなければ。


 そんな風に、心のどこかで思ってしまう自分を、私は消せない。


「白虎………『愛』とは、なんでしょう」


 生温い涙が、頬を伝った。

 泣く資格なんかないと分かっているのに、涙は勝手に溢れて来た。


「初代朱雀のように、私はなれません。……あんな風に、真っ直ぐ濁りのない想いを、青龍王だけに注ぐのが『愛』ならば、私は今後もけして、王に守護を与えることはできないでしょう。そんな愛を抱くには、私は醜過ぎる」


 初代朱雀に、必死で自分を投影させようとして来た。


 私は、貴方。

 貴方は、私。


 そんな風に、思えるようになりたかった。


 彼の不幸は、私のもの。

 私の不幸も、彼のもの。

 

 そう言う風に心から信じることが出来たなら、きっとこの醜い想いも消すことができると思ったから。


 だけど、無理だった。私の中ではいつも、自分の不幸が一番で。青龍王の不幸を、心から思いやってあげることが出来なかった。

 何で、こんな醜い女が、【朱雀】に選ばれたのだろう。

 悲しみを背負い続ける青龍王には、もっと心清らかで正しい女性こそ、相応しいのに。


「………『愛』に対する価値観なんて、人それぞれだ。定義なんかできやしねぇよ」


 泣く私の頭をそっと撫でながら、白虎はため息を吐いた。


「嬢ちゃんの事情は分からねぇが………我が王を好いてるのも、嘘じゃねぇんだろう?」


「………はい」


「ならばきっと……王に対する守護を邪魔しているのは、嬢ちゃん自身の『愛』に対する価値観だ」


「………私、の?」


 それは一体、どう言う意味だろう。

 唖然とする私を落ち着かせるかのように、白虎は下手くそな笑みで笑いかけた。


「嬢ちゃんは、愛を神聖で絶対的なもんだと思ってる。初代朱雀のような、真っ直ぐで狂気すら感じるような重い想いじゃねぇと、『愛』じゃないと思ってんだ。だからこそ、嬢ちゃんの守護は、王に対しては働かない」


「……………」


「だけど、『愛』っつーのはそんな単純なものじゃねぇ。唯一無二の存在として、全てを捧げることが正しい『愛』とは限らねぇし……そもそも『愛』に、正しいも、正しくないもないんじゃねぇか? 醜い自分勝手な感情や、憎しみと共にある『愛』だって、俺は有りだと思う。初代朱雀のあり方に縛られる必要なんぞ、ねぇんだよ」


 白虎の言いたいことが、理解出来なかった。

 「愛」は綺麗なもので、「憎しみ」は醜いものだ。

 綺麗なものと、醜いものが、混ざり合っていて良いはずがないのに。

 そんな感情を、「愛」と言って良いはずがないのに。


「分っかんねぇって顔してんなあ」


「………分かり、ません」 


「じゃあ、聞くが。嬢ちゃんには、心から愛していると言える相手はいるか?」


 心から、愛していると言える相手………そんな人は、一人しかいない。


「………母様、です」  


 私にとっては、初代朱雀よりも、正しく美しい愛情を与え続けてくれた人。


「お前の家庭事情は、我が王から聞いてる。………亡くなったんだってな」


「はい。……私が、10歳の頃に」


「ガキの頃に亡くなったから、無駄に愛情が神聖化されているわけか………」


 白虎の言葉に、思わずムッとする。

 私は、母様の愛情を神聖化なんかしていない。

 母様は、真実清らかで、優しくて、愛情深い人だった。

 聖母のような、人だったんだ。


「それじゃあ、お前は、ガキの頃にいなくなったっつー、父親のことは愛しているか?」


「……愛しているわけ、ないでしょう」


「何故だ? 話を聞く限り、いなくなるまでは優しい父親だったんだろう」


「私と母を捨てた人です。………どんな事情があっても、愛せるはずがありません」


 父は、憎い。

 その思いは、王宮で過ごすようになって以来、益々強くなっていった。

 ずっとずっと押し殺して来たはずの感情が、王宮に来たことで、再び息を吹き返したのだろう。

 私は父を許せない。許さない。

 父は、母様の死を看取りすらしなかった。

 叔母の手厚い看護を受けた母様の臨終は、けして孤独なものではなかったけれど。

 それでも、母様が、死の際に何度も父の名前を呼んでいた。

 そして母様が亡くなった後も、ずっと墓に参ることすらせず、私を迎えに来てもくれなかった。

 そんな人をどうして、愛せるというのだろう。


「………俺は、な。嬢ちゃん。羽がある俺を忌み嫌った両親のことを、殺したいくらいに憎んじゃいる。けど同時に憎みきれねぇ俺がいることも、確かなんだ」

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