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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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【羽無し】とお披露目

 青龍王の為に舞う度、自分の体が初代朱雀のそれに作り代えられている気がする。

 きっと、体内に宿る初代の魂が、舞と歌に呼応しているのだと思う。


 舞と歌によって、私は【朱雀】に生まれ変わる。

 惨めな【羽無し】ではなく、青龍王の隣に相応しい存在に。


 王に相応しい【朱雀】になれるなら、過去の私は、全て消しても構わない。

 母様との幸せな記憶さえ残れば、あとは何も要らない。

 【羽無し】なんて、全部全部消えてしまえばいい。


【……勘違いすんなよ、嬢ちゃん】


 隣で白虎は小さく唸った。


【どんな称号を与えられようが……お前さんは、お前さんだ。初代の魂がどうだろうが、その事実は変わりやしねぇよ。俺が俺であるように】


「……それは、白虎である貴方の意見でしょう」


 初代朱雀は、魂が散り散りになったとしても、また青龍王の魂と出会うことを望んだ。

 いつか、また、完全な形で再会することを、王と共に祈った。

 だけど、初代白虎はそうではない。朱雀ほど、強い結びつきはない。

 歴代の白虎や玄武もまた、同じように初代の魂の欠片を引き継いでいると言われているけど、やはり朱雀は別格なのだ。


【そう思いてぇなら………】


「そう思いたいなら?」


【……いや、今はいい。出番だ。とりあえず嬢ちゃんは、舞と歌に集中しろ】


 舞台に視線をやると、玄武があらかじめ決めていた合図を送っていた。

 白虎と再び視線を合わせて一つ頷くと、先に舞台へと進む。


 羽が無い私に向けられる、長達の目は冷たかった。

 だが、もうそんなものは気にならない。

 長の家族も着いて来ているのか、私より煌びやかで美しい女性もたくさん集まっていた。

 しかし、今の私は、彼女たちに対して気後れすることもない。

 だって、私は【朱雀】。当代王の朱雀だ。

 どんな侮蔑の視線にだって、堂々と胸を張れる。


 存在をより印象づける為、敢えて少し時間をおいてから、白虎は現れた。


「………皆様、御静粛に。この虎が、貴方達に害を与えることはありません」

 

 来客席から悲鳴があがるのを、玄武が制した。

 白虎はゆったりと私の傍に進み出て、私が上に乗りやすいようにその場にうつ伏せになった。

 少しでも白虎の負担を軽減させる為、与えられた豪奢な靴を脱いだ。

 白虎は小さく抗議の唸り声をあげたが、敢えて無視した。

 体制を崩さないように、慎重にその背中の上に足をかけて上に乗る。


「……さあ、朱雀。舞の披露を」


 王に促され、目をつぶって大きく深呼吸する。


 私は朱雀。青龍王の朱雀。

 私は、貴方。

 貴方は、私。


 ーー貴方の為に、私は歌い、空を舞う。  


 口を開き、足に力を入れた。

 それを敏感に感じ取った白虎が、勢いよく状態を起こした。


 喉から溢れ出る歌と共に、私は今までよりずっとずっと高く、宙を舞った。




 白虎の手助けは、完璧だった。

 私の落下地点を察しては動きを変え、舞にちょうど良い機を見て、その脚力で私を高く高く跳ばせてくれた。

 白虎のおかげで私は、跳躍機を使っていた頃よりも、一層優雅に、長い時間、舞続けることができた。

 力を可視化して、光にして飛ばしたことで、向けられる視線の種類が明らかに変わっていくのが分かった。

 しかし、感嘆や驚愕の混じった視線の中で、唯一少しも変わらない視線があった。

 何年も向けられ続けた、懐かしい憎悪の視線。


 ーーああ、叔母様。貴方もここに、来ていたのですね。


 鳥人の長夫婦の隣で、変わらない視線を送り続ける叔母からそっと目を逸らしながら、私はただ舞と歌に集中した。




「ーー素晴らしい舞だった。朱雀」


 式典が終わった後、来客を見送った青龍王は、優しい笑みを浮かべて私を抱きしめてくれた。


「そなたの舞を見て、三神以外の長は考えを改めたようだ。力の可視化を思いついた、そなたのおかげで」


「いえ……全ては白虎の手助けがあったからです」


 当の白虎は、お披露目が終わるなり、引き止める私を無視してどこかへ行ってしまった。

 まだ何も肝心なことは話してはいないのに。


「白虎に……改めてお礼を言いたいのですが、そう伝えて貰えますか」


 青龍王は、「お礼」の言葉に含まれている意味を、正確に察した。


「そうだな。………そなた達は一度ちゃんと、話した方がいい。今すぐには無理だろうが、白虎に掛け合っておこう」




 白虎が、王の要請に応えて後宮にやって来たのは、それから三日後だった。


「……よう、【羽無し】の嬢ちゃん。俺と話がしたいんだって」


 嫌みのように言われた、【羽無し】という言葉も、彼の口から出れば自嘲にしか聞こえなかった。


「……【羽有り】と、呼んで欲しいのですか?」


「もう、ねぇよ。嬢ちゃんも見ただろう? 生まれてすぐに、親が切り取ったし、少しでもまた生えて来たら、定期的に処理している」


 くつくつと喉を鳴らして白虎は笑った。

 しかし、その細められた翡翠の目の奥には、彼の抱える確かな闇が滲んでいた。


「皮肉な話だろ? 初代以来現れなかった、一族待望の白毛の虎人。しかも後に【白虎】にまで指名される俺が、よりにもよって

窮奇きゅうきの化身】なんだからよ」







 






 


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