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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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【羽無し】と白虎と獣化

 聞き覚えのある荒々しい声に振り返ると、案の定、険しい表情で眉をひそめた白虎の姿があった。


「で? 何があったんだ」


「………朱雀の舞で使用予定だった跳躍機が、何者かに壊されたのです」


「何だ。んなことかよ。くだらねぇ」


 呆れたようにあくびを噛み殺す白虎の姿に、玄武の顔が引きつった。


「よくもまあ、他人事のように……確かに貴方の大好きな我が王とは、直接関係がありませんがね。羽が無いという欠点を少しでも埋めようとした、いじらしい朱雀の気持ちに対して何も感じないのですか、貴方は。………そもそも、王宮の備品を密かに破壊するような賊の侵入を許したのは、兵士の責任。ひいては、将軍である貴方の責任なのですがねっ!」


「わーってるよ、んなこと。だから、将軍の俺が責任取りゃいーんだろ。要は」


 頭を掻き毟りながら白虎が口にした言葉に、何かを察したのか、玄武が心底嫌そうに顔を歪めながら引き下がった。


「………また、随分と原始的な解決策を提案なさるようで」


「頭がガチガチなお前さんには思いつかねえ、最善の策だろ?」


「確かに、現状を考えれば最善ですね。ーー朱雀が、納得さえすればの話ですが」


 ………私?


 突然自分の名前が出て来たことに狼狽えていると、白虎が溜息を吐きながら、私に翡翠の瞳を向けた。


「………それも、そうか。おい、嬢ちゃん。俺が、信じられるか?」


「え……?」


「嬢ちゃんを朱雀として認めていねぇ俺を、それでも信じられるかって言ってんだよ」


 舌打ちの音を聞いて、ようやく白虎の言いたいことに気がつく。

 白虎はつまり、自分が跳躍機を壊した犯人だと思われていることを、懸念しているのだ。

 王宮に来て、悪意に満ちていた私の環境はすっかり変わった。内心の感情はどうであれ、周囲の人は皆、私を「朱雀」として認め、受け入れてくれた。

 認めなかったのは………白虎、だけだ。

 跳躍機を壊した犯人と、疑ったとしてもおかしくはない。


 だけど。


「……信じます」


 その言葉は、わずかな迷いもなく、口から飛び出してきた。

 白虎が犯人だなんて、最初から疑ってはいない。


「貴方は、絶対に犯人ではありません。あり得ません。………だって、間接的にとはいえ、青龍王に迷惑がかかるようなことを貴方がするはずがありませんから」


 白虎は、私を認めない。

 だけど、その気持ちの根底にあるのは、白虎の青龍王に対する深い深い忠信だ。

 白虎が私を認めないのは、私が王にとって役に立たないと思っているから。それなのに、そんな私を排除する為に王に迷惑を掛けたら、本末転倒だ。


 向けられる翡翠を真っ直ぐ見つめ返しながら、きっぱりそう断言すると、白虎は拍子抜けしたように目を丸くした。

 しかし、すぐに不敵な笑みを浮かべて、ふんと鼻を鳴らす。その背中では縞模様の白い尾が、機嫌良さげに揺れていた。


「……少ししか話してねぇのに、俺のこと分かってんじゃねぇか。少なくとも、その見る目だけは及第点だ」


「貴方に及第点なぞ与えられる筋合い、朱雀にはないと思いますがね」


「……褒めても、突っかかるのかよ。面倒臭ぇ奴だな、お前は。相変わらず。……で、我が王。跳躍機の代替えは、俺に任せてくれるのか?」


 白虎の問いに、青龍王は安心したような笑みを浮かべ、頷いた。


「ああ、頼む。………お前ならば、間違いなく、跳躍機以上に朱雀を飛ばせるはずだ」


「………我が王から、跳躍機としての能力を期待されるっつーのも複雑なもんだな。………まあ、いい。臣下としては、王の期待には全力で応えるまでだ」


 苦笑いを浮かべながら、白虎は上に纏っていた服を脱いだ。


「見てな。嬢ちゃん。………俺のとっておきの姿を、見せてやる」


 次の瞬間、白虎の翡翠の瞳がぎらりと光り、全身の体毛が逆立つた。

 バキバキとした音と共に体が変形し、白虎の体の獣の部分が広がっていく。


 ーー獣化、だ。


 亜人の中でも、生まれ持った獣性が特別強い者にしかできない、特殊な能力。

 人と獣が入り混ざった体を、一時的に完全な獣のそれに変える。

 素質があるものでも、自分の意思で行えるものは少なく、さらに獣化してなお理性を保ったままでいるのは難しい為、大抵の者は呪で獣化の力自体を封じているという。


 知識として知っていたが、目の前で獣化を見るのは初めてだった。

 だけど私の目は、そんな希少な獣化の光景よりも、露わになった白虎の背中の方に釘付けになっていた。


「っ……この、傷は」


 白虎の肩甲骨の辺りに、えぐったような二対の傷が見えた。

 獣化によって、瞬く間に白い毛に覆われて見えなくなってしまったが、間違いない。


 あれは、翼を切り取った跡だ。


『白虎。ーー朱雀は、そなたじゃない。自分と同一視するな』


 あの時の王の言葉が、ようやく理解できた。

 どうして、白虎が私を自分に重ねていたのか。

 青龍王の運命を、あんまりだと嘆いたのか。


 ……ああ、白虎。貴方は。


 湧き上がるやるせない想いに目を伏せる。


 翼の生えた、虎。

 ………それは、羽の無い鳥人なんかよりも、ずっと、忌み嫌われる存在だ。




【………よし。こんなものか】


 完全に虎と化した白虎は、元の体以上に巨大化した体躯を伸ばしながら、私を振り返った。


【今の姿なら、俺の背中は跳躍機なんぞより広いだろ。そしてこの姿の俺の力は、跳躍機のバネなんぞより、ずっと強い。………高さは、俺がくれてやるよ。後はお前さん次第だ】

 



 




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