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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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【羽無し】と玄武の提案

 玄武に尋ねられ、我に返った。

 昨夜白虎に言われたことばかり考えていて、講義に集中できていなかった。


「……すみません。玄武。せっかく私の為に時間を割いてくれているのに、ちゃんと話を聞いていなくて」


「私のことは気にしないでください。そもそもこの講義は、私が望んでしていることですから。………それより、貴女が心配です。昨日何かありましたか?」


 心配そうに覗きこまれ、言葉に迷う。

 昨日青龍王は、白虎の事情を教えてくれなかった。玄武に聞いたら、教えてくれるだろうか。

 ………青龍王が、口止めされているようなことを、玄武に聞いても良いものだろうか。


 私の葛藤を見透かすように、玄武は優しく微笑んだ。


「……気になることは、何でも遠慮なく聞いてください。教えるか教えないかは、私が判断しますから」


 その言葉に、心を決めた。


「昨夜……白虎が、私のもとに来たんです」


「……白虎が?」


「彼は、私を自分と同じだと……同じ王の枷だと言って、私に成長を求めました。現状で満足するなと。だけど青龍王は、このまま傍にいるだけで良いと、白虎の言葉を否定されて………自分がどうすれば良いか分からなくなったのです」


「…………………」


「……玄武?」


 黙り込む玄武の顔を覗いて、ぎょっとした。


「………あの王馬鹿の糞脳筋が………」


 先ほどの微笑みが嘘のように顔を凶悪に歪め、柄が悪く舌打ちをした玄武は、私の視線に気がつくと、慌てて安心させるような笑みを作った。


「朱雀……白虎の言うことなぞ、気にする必要はありません。あれは自分の理想や、足りないものを、全て貴女に押しつけているだけだ。全く……30を超えた良い歳の男が、17の少女相手にそれとは、情けないにも程があります。貴女が、あれに耳を貸す必要はありません」


「玄武はその……白虎の過去を」


「当然知っていますよ。だけど、貴女に教える必要は無い情報です。聞けば、きっと貴女もあれの過去を、少なからず背負うことになる。そんなよけいな物を背負わされるのは、我が王だけで十分です。白虎の過去は、白虎のものだ。朱雀、貴女のものじゃない」


 琥珀色の瞳を細めながら、玄武はゆっくり首を横に振った。


「朱雀、貴女は白虎じゃない。貴女は、白虎の思想に囚われるべきではない。そして、王の言うこともまた、鵜呑みにすべきじゃない。全ては貴女の意思で、貴女自らが考え、選ぶべきことです。ーー貴女の心は、自由です。心のままに、生きてください」


 心のままに、生きる……。

 その言葉は、優しいようにみえて、今の私にとってはきついものだった。


「自分の心が……分からないんです」


 自分が一体何を望んでいるのか、何をすべきなのか。

 もうすっかり分からなくなってしまった。


「私を受け入れて、傍にいてくれるだけでいいと言ってくれた王の、傍にいたいと思いました。だけど、それが本当に正しい選択なのか、分からなくなりました。王の為に変わるべきだという白虎の言葉はきっと正しいけど、私はどうすれば王に相応しくなれるのか、分かりません。………教えてください。玄武。私はどうすれば良いですか」


 自分の決断に自信が持てないから、いっそ誰かに全ての選択を委ねたくなった。

 宰相である玄武なら、私が成すべき最善の道を知っているのだろうと思った。

 きっと彼なら、私に「正しい」選ぶべき道を、教えてくれるのだろうと。


 しかし。


「……私の決めた道に、貴女は従うと言うのですか」


「……それが、一番正しい気がします」


「じゃあ……二人で四神の称号を捨てて、王宮を出ましょう」


「え………」


 あまりの提案に絶句する私に、玄武は優しく微笑みかける。


「貴女が心のままにいられないのなら、王宮も朱雀の地位も、何の価値もありません。玄武と朱雀の名を返上して、何の称号も持たないただの亜人として、貴女が心のままにいられる場所を探しに行きましょう。……大丈夫。危険なことは、何もありません。どんなことからも、私が必ず、貴女を守ってみせますから」


 そんなこと……許されるはずが無い。


「………本気で言ってますか」


「至って本気です。何なら、私が一番望んでいる道でもあります」


「私はともかく……宰相である、貴方がいなくなったら……!」


「我が王と白虎が、何とかするでしょう。何とかならなかったら、蒼燕様に代替わりするだけのこと。貴女が気にする必要はありません」


 気にするなと言われて、気にしないことができるはずがない。

 玄武がいなくなれば、きっと、この国は荒れる。それくらい、宰相である玄武の地位は重い。

 残された王が、どれ程大変かなんて、玄武が一番分かっているはずだろうに、どうして。


「……言ったでしょう? 私は必要なら、いつでも我が王を裏切ると」


 ぱちりと音を立てて、玄武は扇を開いた。

 扇に描かれた、鮮やかな彩色の美しい風景画が、今はひどく浮いて見えた。


「私はね、朱雀。本当はこの国も、玄武の地位も、どうでも良いのですよ。私は、自分と愛する者さえ幸せなら、それでいいのです。……だから朱雀。貴女がそれで幸せになるなら、国が一つ滅びたとしても、私は気にしません」 



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