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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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【羽無し】の笑み

 再びつま先が跳躍器についた途端、節の切れ目も舞も忘れて、再び飛び跳ねていた。

 高い。高い。

 体が、軽い。

 ーー羽根が生えた、みたいだ。


「……『分かった 分かった これが 運命さだめ 感じた 感じた 確かな絆』」


 再び歌を口ずさみながら、空中でポーズを取る。

 どんなに小さくても良いから、私の背中に、羽があったのなら。

 その話で少しの間でも、飛ぶことができたのなら。

 こんな風に舞ってみたいと、ずっと思っていた。

 その願いが、今、叶った。


 短い曲だけに、歌い終るまでそう時間がかからなかった。

 どきどきと跳ねる心臓を落ち着かせながら、跳躍器をおり、王のもとへ駆け寄る。


「ーーありがとうございます。青龍王」


 青龍王の目が、大きく見開かれた。


「こんな風に、高く飛べる日が来るなんて、想像もしていませんでした。私、今、すごくすごく幸せで……っ」


 次の瞬間、私は青龍王から強く抱き締められていた。


「………青龍、王?」


「朱雀……そなたは今、どんな顔をしているか、分かっているか」


「え………」


「そなたは今……笑って、いるぞ」


 言われて初めて、自分が無意識のうちに、口元を弛めていたことに気がついた。

 笑みなんて、今までは無理やり浮かべようと思っても、なかなか上手に作ることはできなかったのに。

 今の私は、自然に笑っている。


「……変な笑い方になってはいないでしょうか。自分ではどんな表情をしているのか分からなくて」


「変なはずがない……すごく、綺麗だ」


 そっと額に口づけられ、興奮で高鳴っていた心臓の音が、益々大きくなった気がした。


「朱雀……私の朱雀。もっと笑ってくれ。私は、そなたの心からの笑みが見たい」


 愛おしげに細められた蒼い瞳に、胸の奥がきゅーっとなった。

 頬が、火照る。


「も、もう一度、長めの歌で試すことにします」


 青龍王の胸をそっと押しやり、彼の腕の中から逃れる。


 この感覚は、何だろう。


 この感情は、何だろう。


 分からない。でも、心地よい。何だか少し居たたまれないけれど、それなのに、ずっと浸っていたい気もする。


「それでは……今度は初代朱雀の歌を」


 湧き上がる不思議な感覚を全て歌に乗せて、私は初代朱雀の愛を歌い、舞った。




「……聞いて。母様。今日は私、飛ぶことができたの」


 夜。全ての支度を終え、部屋で一人青龍王の渡りを待ちながら、碧甲石に向かって語りかける。


「王が、『跳躍器』という不思議な機器を用意してくれたんだ。羽が無い私でも、空を舞うことができる機器を、私の為に」


 片方の手で碧甲石を頬にあてながら、もう片方の手で髪の毛を弄る。

 今日は王の要望通りに、髪の毛はおろして化粧もしていない。

 普段人には見せない姿なだけに、何だか落ち着かないが、王は喜んでくれるだろうかと思えば、自然と口元が緩んだ。


「母様……笑顔を浮かべるということは、こんなに簡単なことだったんだね。もうすっかり、忘れてた。母様と一緒にいる時の私は、いつだって笑っていたはずなのに」


 普段は使わない表情筋を使ったことで、明日には、顔が筋肉痛になっているのでは無いだろうか。

 いや、指摘されなかったから自分では気づいてなかっただけで、私は今までも知らずに笑っていたこともあったのかもしれないな、とも思う。

 それぐらい、王宮に来てからの日々は、穏やかで優しくて、心地よいものだった。


「母様。私は、『朱雀』に選ばれて嬉しい。すごくすごく、嬉しい。青龍王は、重い過去と使命を背負っているけど、優しくて、すごく素敵な人なの」


 青龍王のことを考える度、胸の奥がきゅーっと締め付けられる。

 この気持ちを人は、恋情と呼ぶのだろうか。

 あの人の隣ならば、私はきっとどんな運命だって受け止められる気がする。


「見てて。母様。私、きっと幸せになるから。羽なんかなくても、幸せになれるって証明してみせるから……これからもずっと見守っていてね」


 侍女に用意してもらった美しい刺繍布で丁寧に拭いて、包むと、枕元の細工箱へと仕舞い込む。

 ずっと身につけていようとも思ったけれど、万が一でも落としてしまうのが怖くて、結局私も叔母と同じように保管している。


「………細工箱自体は、叔母のものとは全然違うけれど」


 私でも簡単に取り返すことができたあれと違い、後宮に設置された細工箱は、主である朱雀しか開けられない、持ち出せない呪が掛かっている。もし誰かがこの碧甲石の存在に気がついたとしても、私から奪うことはけしてできないのだ。

 私にとっては、世界で一番安全な保管場所だ。


「それでも………叔母のあの箱を、羨ましいと思ってしまうのは、贅沢なんだろうな」


 そろそろ叔母は、すり替えに気がついた時だろうか。

 いや、きっとあの叔母のことだから、気がついたに違いない。

 彼女は今、どんな気持ちでいるのだろうか。


 そんな意地悪いことを考えていると、不意に廊下が騒がしくなった。


「ーーお待ち下さい、将軍! こんな夜中に、先触れもなく朱雀様に会いに行かれるのは無礼です! だいたいもう少しされたら、王がお渡りになるというのに!」


「だから、来たんだろうが。我が王の不在の時に一人押しかけて、間男扱いされたんじゃ、堪ったもんじゃねえ。これでも、初日は遠慮してやったんだぜ? たった数日間の交流しかねぇ間柄でも、久しぶりの逢瀬なら『積もる話』もあるかもしれねぇってな」







  


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