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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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【羽無し】と青龍王と運命

 そう言って頬を微かに赤く染めた、青龍王の蒼い瞳には嫌悪の感情は見えなくて。

 とりあえず、王を不快にさせたわけではなさそうなことに安堵する。

 やっぱり青龍王は優しい人だと思った。王である彼が、私のような取るに足らない存在に手を出したところで、誰も文句は言わないのに。私の気持ちを尊重してくれている。

 しかし、閨が必要では無いとなると………。


「………青龍王。私はこの体以外に、貴方に返せるものが何もありません」


 与えられた安寧な環境と、優しさに報いる方法が、他に何も思いつかない。

 藍華さんが言ってくれるように、特別な力が私にあるなんて、やっぱり信じられない。そして、特別な力が無ければ、私に残るのは、羽が無い混血の、誰からも嫌われていた娘という事実だけだ。

 玄武はその事実すら、この国の未来の為に必要だと言ったけれど。こうして王を前にすると、とてもそんな楽観的に自分の現状を考えることができない。


 もし、王が体を求めてくれたら。

 それが、自分の役割だと思うことが出来た。

 私が王妃に相応しいとはとても思えないけれど、今の縮小した王族には、少しでも多くの子どもが……王の血を引く存在が必要だ。それが、たとえ混血の妃の子だったとしても。

 王を自身の体でお慰めし、彼の子を成すことが、自分の成すべき役割だと思いはじめていたのに。こんな風に優しく突き放されると、どうすれば良いか分からなくなる。


「………青龍王。先日玄武から、王族の過去について伺いました」


 そう口にした途端、王の顔から表情が消えた。


「私のような足りない存在が……朱雀を名乗って良いのかと、改めて考えさせられました。その……辞退、すべきかと」


 少しの沈黙の後、青龍王の口元に自嘲の笑みが浮かんだ。


「……血に濡れた玉座に座る男の妻となることを、恐れたか。朱雀」


「っ違います! 私は、私のような存在が朱雀になれば、王の名を傷つけることになるとっ……」


「ならば、傍にいてくれ。……私は、ただ存在しているだけで、一族の多くを死に追いやった男だ。今さら傷つく名も何もない」


 そう言って、王は再び私の体をかき抱いた。

 だが、その抱き締め方には先程までの余裕は無く、背中に回されたその手は、微かに震えていた。


「……朱雀。私はずっとそなたを、待ち望んでいた。朱雀は、青龍の対。唯一無二の、妃だ。そなたの存在は、運命に翻弄された私にとって、希望だった。唯一待ち望んでいた、運命だった」


「青龍王………」


「何も返せないというのなら、何も返さずとも良い。朱雀として、特異な力を発揮することができなくても構わない。……ただ、傍にいてくれ。それだけでいい」


『貴女を朱雀に選定したのは、我が王で、貴女が朱雀になることを、誰より望んでいるのも、我が王です。そして王自身が、この国の変革を望んでいる。……望まぬままに、勝手に朱雀に選ばれた貴女が気に病む必要なんて一切ありません』


 先日玄武に言われた言葉が、脳裏に過ぎった。


『貴女が、王族の勝手な事情なんぞに巻き込まれたくないという理由で、朱雀を辞退したいというなら構いません。いきなり一方的に選ばれ、選ばれたというだけで批難される状況は、ひどく理不尽です。貴女が、そんな立場を甘んじて受け入れる必要はありません。……ですが、辞退理由が我が王の為だと言うのなら、貴女は朱雀の立場を受け入れるべきです』


 その言葉の意味を、今改めて実感する。

 ……この人には、「朱雀」が、必要なのだ。

 その名さえあれば。自らの運命だと思えれば、中身などどうでも良いと思える程に。


「王………。私は、貴方が王族の死に責任を感じる必要があるとは思えません」


 口から出た言葉は、彼と初めて出会った時のことを思い出させた。

 渾沌を取り逃したことで、将来的に発生するかもしれない被害も、全ては自身が負うべき咎だと、彼は言った。自らの未熟を、肯定してはいけないと。

 だから、私の言葉に王がどのように返すかも、想像がついた。


「だが、私が存在しなければ、皆が死ななくて済んだのも事実だ。私のせいで、父も母も腹違いの兄も……そして多くの親類が、命を落とすことになった。私は、その罪を負ったうえで、王として立たねばならない」


「………望んだことでは、なくても?」


「望んだことではないからこそ、私は自身の玉座の重さを知らなければならぬのだ。どれだけの犠牲のもとに、自分が今の立場にいるのかを、けして忘れてはいけないのだと。そう、思っている」


 ああ、本当に……何処までも、生きづらそうな人だ。


「……貴方は運命を、恨まないのですね」


「運命を恨むことは、今の私自身を否定することだ。一族の死を、無意味なものだと、軽んじることと同義だ。……誰が運命を否定しても、私だけはけして否定してはならない。恨む気持ちが皆無だとは言えないが、けしてそれを表にだすことはあってはならぬのだ。私が王でいる限りは」


 だからこそ、この人は羽が無い私すらも、あっさり受け入れたのか。

 運命に流されるでも、否定するでもなく、ただ黙って従い、その結果を静かに受け止め続ける、この人だったから。


 




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