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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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26/72

【羽無し】と夜伽

「……今夜、陛下が朱雀様のお部屋に、お渡りになられるとのことです」


 侍女から、その報せが舞い込んで来たのは、夕餉時だった。


「………ならば、準備が必要ですね」


 いつもより早く夕飯を終え、王を迎える準備に取りかかる。

 湯場では体を徹底的に洗い、普段は眠る時にはおろしている髪も、日中以上に複雑に結いあげてもらう。

 いつもはしていない化粧も、特別念入りに施してもらった。

 鏡に映る別人のような自分を眺めながら、眉をひそめる。


「………青龍王は、少しでも私を美しいと思ってくれるだろうか……」


 いつもとは別人のようだと言っても、所詮土台は私だ。

 藍華さんのような清廉とした美しさもなければ、朱麗のような華やかなさもなく、叔母のような妖艶さもない。

 そして何より、背中には皆のような美しい翼は存在しない。

 こんな私でも……王は、受け入れてくれるだろうか。

 期待と不安に苛まれながら、ただただ寝台の上で鏡を覗き込んで、王の訪れを待つ。

 王が部屋に訪れたのは、夜もすっかり更けた頃だった。



「……すまない。すっかり遅くなって……っ?」


 駆け足で部屋に入って来た青龍王は、私の姿を見るなり、目を丸くした。


「こんな夜分なのに、髪を結って化粧をしたのか?」


「い、いや、その………王をお迎えするには、こちらの方が相応しいかと思いまして……」


 よもや、おかしな行動だったのだろうか。青龍王に引かれてしまっているのだろうか。

 青龍王の顔が直視できなくて、思わずうつむく。


「そんなこと、気にせずとも良い。この部屋にいるのは、私とそなた二人だけだ。誰も装いに口出すものなぞいない。式典等ではない限り、そなたの楽なようにしていて構わない」


 そう言って王は、私の傍らに腰を下ろした。


「やはり………こんな装い、私には似合い、ませんか」


 こんな髪型も化粧も、分不相応だったのだと、改めて思い知らされる。

 どれほど美しい装いも、私のようなみすぼらしい女には、何の意味も成さないのだと。

 そんな自分と二人きりでいなければならないことが、青龍王に申し訳なくて、今すぐ消えてしまいたくなった。


「否、勘違いしないでくれ。その髪型もよく似合っているし、化粧したそなたも、とても美しいと思う。ただ……」


「………ただ?」


「私は化粧気のない、素のままのそなたの顔が一番好ましいと思っているし………つい、期待してしまっただけだ」


 優しく微笑みながら、王は丁寧に結いあげられた私の髪を崩さないように、そっと触れた。


「この結いあげられた美しい赤い髪が……おろされて、靡く姿を見られるのではと期待してしまった。その髪を、この手ですく感触を、つい、想像してしまっていたのだ。………このように美しい装いをしてもらって、随分と勝手な言い分だとは思うが」


 かあっと、顔が熱くなった。


「な、なら、解きます。今すぐ、解きます」


「いや、これはこれで美しいから、今日はそのままでいてくれ。髪を解くのも、手間だろう。髪を解いたそなたを見る楽しみは、後日にとっていこう」


 そう言って、青龍王は優しく私を抱きしめた。


「ーー会いたかった。朱雀。執務の忙しさにかまけ、淋しい思いをさせた。すまない」


 記憶の中の温もりが、再び現実のものになった。

 密着した場所から伝わってくる王の鼓動に、自然と私の鼓動も速くなった。


「………お気になさらないで、ください。王の執務は何より優先すべきことですから。それに、王の忙しさの一端は、玄武が私の教育係を担っていることにもあります」


「そのことについては、気にするな。あれは玄武の意思だ。宰相が、王のやるべき執務を担うべきではないという、あれの言い分にも一理あるしな」


「それと………私は一つ、貴方に謝らないといけないことがあります」


 緊張で口の中が乾いた。

 これから私は、とんでもなく、恥ずかしいことを口にしなければならない。もしかしたら、王の機嫌を損ね兼ねない言葉を。


「その………私は、そういったことの知識は疎くて………王を満足させられないかもしれません」


 私の言葉に、王は目を丸くした。


「そういったこと?」


「だから、その………えっと」


 出来れば、それだけで察して欲しかった。

 婉曲に何と表現すれば良いのか、言葉が見つからず、結局は直接的に表現するしかなかった。


「その……閨の知識、です」


「ーーぶっ!!」


 一応男女の営みについては、他の人が噂話をしているのを耳に挟んだりして、なんとなくは理解している。

 だけど、その詳細については全く分からないのだ。どういう原理なのかも、理解できてはいない。これでは、朱雀として、王を慰めることは難しい。

 なぜか私の言葉に勢いよく噴き出し、しばらく咳き込んだ青龍王は、ややあって私の肩を両手で掴んで、密着した体を遠ざけた。


「………そんな知識は、そなたはまだ、知らなくてもいい」 


「……やはり、私なんかが王をお慰めできるはず……」


「ち が う。………まだ、ろくに心も交わせていないのに、先に体の交わりを求めたくないというだけだ。私はそなたを、そなたは私を。まだ、互いに理解できていないのだから」


 


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