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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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25/72

【羽無し】と藍華

 玄武から聞いた話が脳裏に過ぎり、胸が締め付けられた。

 貴方は今もなお、過去の苦しみに捉えられたままなのだろうか。

 

『やはり、そなただ……。間違いない』


 貴方はあの時、どんな気持ちで私を抱きしめたのか。


『ようやく見つけた。……私の、朱雀』


 あの時の温もりが、そして歌を口にした時に感じた初代朱雀の思いが、胸に広がる。


「………私は、貴方………貴方は、私………」


 目の前に広がる王宮の灯りに向かって、誰に聞かせるでもなく、歌を口ずさむ。

 この歌が、青龍王に届けば良いのにと思った。

 私が朱雀で、特別な力があるというのなら。この歌が少しでも貴方の苦しみを癒やしてくれば良いのに、と。


 この想いは、一体どこから来るのだろうか。

 私の中にある初代朱雀の魂が、彼を求めるのか。

 まだ、彼と出会ってから、半月も経たないと言うのに。

 接した時間はごく僅かで、彼のことなんて、ちっとも理解出来ていないのに。


 ーーそれでもただひたすら、彼に会いたくて仕方がなくて。

 私は喉が掠れるまで、一人、ただ歌い続けた。




「ーー素晴らしい。素晴らしいわ。朱雀! 昨日よりもずっと、歌に力が宿っているもの!」


 翌日。私の歌を聞いた藍華さんは、頬を紅潮させながら、そう褒めてくれた。


「一日ごとに、どんどん朱雀らしくなっていくわね。こんなに上達が早い人は初めてだわ! 貴女なら、もしかしたら、初代朱雀の加護さえも与えられるようになるかもしれないわね」


「……初代朱雀の、加護?」


 それは一般的な鳥人の加護と、一体何が違うのだろうか。

 藍華さんは、夢見るようなうっとりとした表情で、語ってくれた。


「鳥人の歌は、自分と愛する者に、直接的に害を与えようとする者を遠ざけ、善き者を近づける。でも、初代朱雀の加護はもっと強力だったの」


「……そんな話は聞いたことが、ありません」


 曲がりなりにも、私は鳥人だし、鳥人の村にいたのだから、知っていてしかるべきだろうに。伝説の中ですら、そんなことは語られていなかった。


「それはそうよ。失われた力だもの。一般の鳥人は勿論、初代以降の朱雀でも、それほどの力がなかった。後世の鳥人にとっては、初代の力は、自らの力不足を知らしめる事実。だからこそ、それは王族にしか伝えられなくなったの」


 そんなにすごい加護なら………とても私なんかが成せるとは思えない。

 しかし藍華さんは、私の胡乱げな顔を気にとめることなく、話を続けた。


「初代朱雀の歌と舞は、瀕死の王の傷を癒す力すらあったの。初代青龍王は、人族との闘いの中で命を落としそうになった所を、何度も救われたのよ」


 傷を………癒せる?


「羽が無くて空を舞えない代わりに、貴女の歌には特別な力が宿っている。今まで会った朱雀候補達にも、王族の私にもない、強力な力を感じるの。……だからこそ、貴女が朱雀に選ばれたんだわ。貴女ならばきっと、王を助けることができるわ」


「………初代朱雀の加護は………」


「え?」


「………初代朱雀の加護は………心の傷も、癒すことは、できますか?」


 私の問いに、藍華さんの口元から笑みが消えた。


「………私達の過去を、玄武から聞いたのね」


「……はい」


「残念ながら………人の心の傷は、加護では癒せない。癒すのは、また別の力よ。朱雀だけが持つ、特別な力なんかじゃない。人ならば、誰もが持っている力だわ」 


 ーーそれは、もしかしたら愛と言うのかもしれないわね。

 そう言って、藍華さんは遠くを見た。


「陛下は………弟は、可哀想な子だわ。先代から望まぬ王位を与えられたせいで、父をはじめとした一族中から命を狙われた。あの子は、ただそう、生まれただけ。何も悪いことなぞしていないのに一族から憎まれ、そして今もなお、王族の死に責任を感じている」


 藍華さんの口から出た言葉は、掠れて震えていた。


「辛い過去を………思い出させてしまって、申し訳ありません」


「良いのよ。貴女から何も言われなくても、思い出さない日などないのだから。……それでも、私には蒼燕がいる。愛しい、血を分けた王族の息子が。失ったものは戻らないけれど、あの子が日々成長していくことが、何よりの心の慰めになっているの」


 淋しげに微笑みながら、藍華さんは目を伏せた。


「朱雀……どうか、陛下の傍にいて、支えてあげて。辛い過去を背負って王になったあの子にとって、朱雀の存在は希望なの。ずっとずっと、あの子は貴女が現れるのを待ち望んでいたのよ。貴女ならきっと、あの子の心の傷も癒せるわ」


 もし、本当に自分がそんな特別な力があれば……と、思う。

 羽が無くても、初代朱雀に並ぶ歌の力があれば、王の隣にいても許されるのだろうか。

 混血であったとしても、皆、私を受け入れてくれるだろうか。


「………だけど、私には藍華さんの言うような、特別な力が実感できない………」


「朱雀? 今、何て?」


「いえ……何でもありません」


 藍華さんの背中にある、美しい青い羽に、胸が痛んだ。


 せめて、羽が………。

 混血であっても、せめて羽があったならば………。


 幼い頃に、とっくに諦め、殺したはずの妬心が、願望が、あの頃より強く湧き上がる。

 ただ肩甲骨があるだけの、平坦な背中が、ただただ呪わしかった。








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