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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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24/72

【羽無し】と夜

「っ……どうして」


「言ったでしょう? 私は、王が大嫌いだと。玄武として王に従うべきだと判断した状況ならば、いくらでも従順でいますが、必要だと判断すれば、いつでも裏切ります。何なら、今すぐにでも」


 懐から取り出した扇を口元に押し当てながら、玄武は少しも悪びれる様子もなく、そう口にした。


「勘違いしないで下さい。朱雀。私と我が王に、特別な絆なんてありません。ただ、たまたま互いに当代の四神だったというだけです。私は自分に利があるから、彼の人に従っているに過ぎない」


 王について語る玄武の琥珀の瞳は、先ほどまでと打って変わって、ひどく冷たいものだった。

 何故、この人は、こんなにも王が嫌いだと主張するのだろう。

 仮に、これが心からの言葉だったとしても、口に出さない方が、彼の立場を考えると都合が良いだろうに。

 ……まるで、自分にそう言い聞かせているようだ、と。そんな風に思ってしまうのは、私の捉え方が王よりだからであろうか。

 

「なら………私は?」  


「え?」 


「私のことは、裏切りませんか?」 


 両方ならば、答えはいいえ。

 王のことは、理由があればいつでも裏切る。

 それなら……私は、どうなんだろう。


「貴女は……私が、必ず守ります」 


 少しの沈黙の後、玄武は目を伏せながら、そう言った。


「たとえ、貴女自身を裏切ってでも………必ず、私が貴女を守ります。それだけは、信じて下さい」


 裏切らないとは言わないのだな、と。そう、思った。


「……それでは私は、そろそろお暇しますね。四神とは言え、王以外の人間が、後宮に遅くまでいるのは外聞が悪いですから」  


 話を無理やり切り上げるように、玄武はそそくさと荷物を纏めだした。


「それでは朱雀。………また、明日」


 複雑な色を宿す、琥珀の瞳を。

 遠ざかって行く、翡翠の髪を。

 私はただ、黙って見つめていた。




「……相変わらず、すごい食事」


 テーブルの上に所狭しと並べられたごちそうの数々に、思わずため息が漏れる。

 裕福な鳥人一族である叔母達も、毎日豪華な食事を口にしていたが、一介の使用人に過ぎない私がお零れに預かることはなかったし、ここにある食事はさらにそれの上を行く豪華さだ。

 特に希少なチュナフ魚の清蒸なんて、それ一つだけで、一体何日分の食事になるのか。


「朱雀様は、とても痩せていらっしゃいますから。陛下は、朱雀様の健康をいたく心配されています。少しでも、美味しく、栄養があるものをと、王家御用達の料理人が心を込めて調理しました。当然、この後宮の調理場で作られたものなので、毒味の必要もありません。どうぞ、温かいうちにお召し上がり下さい」


 兎人族の侍女は、貼り付けたような笑みを浮かべて、深々と頭を下げた。


「それでは。お食事が終わった頃に、湯の用意をして、また参ります。ごゆるりとお楽しみ下さい」


 侍女が、焦げ茶色の長い耳をぴくぴく揺らして去っていくのを見送ると、湯気のたった温かい食事に箸をつける。


「美味しい……」


 心なしか、昨日食べたものより一層美味しくなっている気がする。

 私が昨日食べた量を見て、調理人が味付けを変えたのだろうか。

 出される食事があまりに多過ぎて、いつも全部食べられないのが、申し訳なくなる。

 お腹がいっぱいになる前にと、急いでできるだけ箸をつけたが、とうとう一口も食べられなくなって、箸を置く。

 ……残した料理をまた、朝餉に出して欲しいくらいだが、そんなことをしたら、王の恥になるだろうか。


「これが………朱雀の立場、か」


 王からこの後宮を与えられて以来、私の生活はすっかり変わった。

 ここに来てから毎日、食べきれないほどのご馳走が出され、私の為だけに沸かされた湯につかり、仕立ての良い高価な服を纏い、絹の布団で眠っている。

 ここでは、何をしても、何もしなくても、許される。村では森の中でしか歌う事が許されなかったが、今はそれを咎める者はいない。

 私を後宮の主として傅く使用人達は、親愛こそは感じないが、いつも丁寧に接してくれる。羽がない私に思うことはあるだろうに、けしてそれを表には出さない。

 この後宮には、初代玄武が張り巡らせた守護の結界がまだ残っている。結界は、歴代の朱雀達が後宮内で歌っていたことにより意図せず強化され、王宮で最も強固なものと化したのだと、先日玄武が講義してくれた。

 この後宮にいる限り、誰も私を直接的に傷つけることはできない。心無い言葉を口にすることは勿論、侮蔑の感情を顔に出すことすらできないのだ。

 朱雀の為だけにある、朱雀を守る、朱雀の繭。

 この後宮の中では、森の中と同じ安寧を得ることができる。




 食事を終え、湯に浸かると、夜着を纏って中庭に出る。

 垣根に覆われいる範囲は、外であろうと結界が適応される。護衛無しでも、問題はない。

 空にはすっかり星が煌めいていた。

 その下で、王宮のあちこちに灯りが灯っているのが見えた。どれ程夜が更けても、この灯りが全て消え去ることはない。

 このたくさんの灯りのうちの、一体どれが、今王がいる部屋の灯りなのだろうか。


「………青龍王」


 優しい、王様。

 私に、今の安寧を与えてくれた人。

 私を……朱雀として、連れ出してくれた人。


 彼の人は今、どこで何をしているのだろうか。

 執務に追われ、体調を崩してはいないだろうか。

 

 


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