【羽無し】と講義
「ーーこの国の四神制度は、今ゆるりと崩壊に向かっています」
玄武の口から出た衝撃的な言葉に、口内の唾を飲み込んだ。
朱雀として、王宮に来て5日。
私は玄武によって、王妃になるうえで必要な知識を。
藍華さんにより、朱雀を冠するに相応しい、舞と歌を教わっていた。
宰相や、王族にそのようなことをさせるなんて……と最初は必死に固辞したが、「それが最善の人員だ」と周囲から押し切られ、午前中に歌と舞の稽古を行い、午後は玄武の講義を受ける日々が続いている。
「崩壊……?」
「ええ。純血にこだわった結果、三神の出生率が低下しているのはご存知でしょう? そして国民の混乱を防ぐ為に、情報規制をしておりますが、現在残存する王族は三人のみ。そして、竜人は2人しかいない」
そして、その事実が国民に露呈するのも時間の問題でしょう、とさらりと告げた玄武の言葉に、ぞっとする。
四神国は、竜人が治めることで成り立つ国家。それによって繁栄したこの国に、竜人がいなくなったら。
初代青龍王が現れる以前の、亜人にとって悪夢とも言える歴史が脳裏に過ぎる。人族と亜人との確執は、未だ根付いたままだ。……王がいなくなれば、必ず争いになる。
「何故、王族はそれ程減少してしまったのですか?」
私の問いに、玄武は小さく苦笑いを漏らした。
「元々、竜人族も他の三神同様に、出生率は低下しつつありました。元々は、たった一人の初代青龍王の遺伝子から派生した一族。より、初代王の遺伝子が濃い子どもを残す為に、他の三神以上に近親婚も盛んでした。……余り公にしたくない醜聞ですので、一般にはあまり知られておりませんがね。あくまでそれは王以外の一族での婚姻であり、王族から朱雀を選ぶこと自体は稀だったと聞きますし」
王族の情報は、いずれ王の妃になるはずの鳥人族の中においても、謎に包まれていた。ただ、選ばれた朱雀のみが、知るべしと。
それには、こんな背景もあったのかと、乾いた唇を舐めて湿らせた。
「それでも10年前までは、もう少し沢山の王族がおりました。竜人族も、鳥人族も。しかし、この10年で急速に数が減少した。……何故か、分かりますか?」
「……流行病、ですか?」
「いいえ。……反乱と、粛清です」
恐ろしい事実を、玄武は薄い笑みさえ浮かべながら、至極あっさり口にした。
「先代の青龍王………我が王と、藍華様の祖父に当たる方ですね。彼は、一族における近親婚を忌み嫌いました。そして、先代が次期青龍王に選んだのは、自らの息子でも、息子が竜人の正妻に産ませた子でもなかった。選ばれたのは、先代の息子が鳥人族出身の妾妃に産ませた、当時8歳の我が王です。………そのことが、我が王のお父上には大変ご不満だったようで」
先代陛下のことは、噂に聞いたことはあった。
歴代の青龍王に勝るとも劣らない、優秀な王。
奇襲のようなやり方で戦を仕掛けてきた隣国の人族を、瞬く間に退けたと言われている。
妻である朱雀を15年前に亡くして以来、すっかり意気消沈して表舞台にはあまりでなくなり、当代に王位を譲って6年前にとうとう亡くなったと聞いていた。彼の葬儀の間は、村中も喪に服し、普段の華やかな生活とは打って変わった日々を送っていたので、よく覚えている。
「『我が父は老齢の為、次期青龍王の選定を見誤った。王の選定などという、王本人にしか分からない妄言を今こそ退け、真に優秀なる者を後継に選ぶべき』……でしたかな? まあ、自分に都合の良い言葉をそれらしく取り繕い、他の一族を扇動して反乱を起こしたわけです。妻を亡くして以来覇気がなくなった先王と、幼い我が王なら、勝てると踏んで。……しかし、それは誤りだった」
先代陛下の粛清は、苛烈を極めた。
彼は、当時はまだ存命だった先代白虎と共に、反旗を翻した王族達を容赦なく屠っていった。
どれ程血縁が近くても、相手が幼くとも、制裁の手を緩めることはなかった。
先王陛下は、乱心されたと誰かは言った。王族を滅ぼす気なのだと叫んだことで、さらに反乱側に手を貸すものが増え、それに伴い、粛清数も増えた。
殺して。殺して。殺し尽くして。
ーーそして、反乱に加担しなかった、僅かな王族のみが残された。
「それでもまだ、6年前まではもう少し王族は残っていたんですよ。一族を減少させるきっかけになった、我が王と先代陛下に対するわだかまりを残しながら。ですが、先王陛下が逝去され、蒼燕様がお生まれになったことで、また反乱が起こった」
蒼燕は、先代からも当代からも、次期王で間違いないと言われて生まれた王族だった。今は亡き彼の父親にあたる竜人も、残された王族の一人で、その系譜の正しさは当代にも劣らない。
彼の存在と、先代の死が、残された王族達の復讐心に火をつけた。
彼らは結託して、当代王を殺し、生まれたばかりの蒼燕を王に立てることを目論んだのだ。
しかし、その反乱もまた、失敗に終わった。
「10年前はまだ見つかってませんでしたが、当時は既に白虎がおりましたからね。あれは、頭は足りませんが、敵を屠る腕と、我が王に対する忠誠心は、先代以上だ。王の敵となった相手を、あれは躊躇いなく切り捨てました」




