【羽無し】と初対面
言われて見れば、その美しい蒼い髪の色も、整った顔立ちもよく似ている。
王家は龍人と鳥人の婚姻を主流としている為、龍の血が優勢だとしても、王の姉である彼女が鳥人でも何の不思議はないのだ。
朱雀候補ではなく、姉弟。
………今、ほんの少し、安堵に似た感情が過ぎった気がするのは、気のせいだろうか。
自分の感情の変化に密かに戸惑う私に気づかぬまま、王は何かを探すように室内を見渡した。
「姉上。蒼燕の姿が見えないが、今はどこに」
「今はちょうど、剣術を教わっている時間です。ですが陛下がお帰りになったらすぐに稽古を中断し、護衛と共にここに来るように伝えております。先程侍女が稽古場に伝えに行ったので、もうまもなく、ここに参りますかと」
「そうか。なら良かった」
青龍王が頷いたのと同時に、後ろの扉が勢いよく開いた。
「ーーおかえりなさいませ、おじ上。こんとんの討伐はいかがでしたか? おじ上のすざくが見つかったと聞きましたが、まことですか?」
扉の向こうから現れたのは、二人によく似た、蒼髪の少年だった。
背中には羽がなく、子どもらしく膨らんだ頬は、青い鱗に覆われてきらきらと光っている。……恐らくは、龍人だ。
少年が王のもとへ駆け寄ると、一歩後ろに控えた護衛らしき人は、一礼して部屋を退出し、扉を閉めた。
少年は王の傍らにいる私の存在に気がつくと、ぱあっと顔を輝かせた。
「ああ、あなたが、すざくですね! わかります。ぼくもちゃんと、わかりました。たしかにあなたです」
「ーー蒼燕」
興奮し今にも飛びつかんばかりの少年を、藍華さんが窘める。
「初対面の方と会った時は、初めましてでしょう。それに、自分のことを、ぼくと言うのはやめなさいと言ったのを忘れたの?」
「ああ、かあさま。そうでした。そうでした。……すざく。たいへん、しつれいしました」
蒼燕と呼ばれた少年は、青い髪を靡かせながらぺこりと頭を下げ、顔を上げると同時に私に向かって無邪気な表情で笑いかけた。
「はじめまして。すざく。ぼく……わたしの名は、蒼燕。よわいは6つ。いずれ、おじ上のあとをつぐ、じき王です」
じきおう。……次期王?
とっさに言葉の意味が分からず、目を瞬かせる。
途端、藍華さんは悲痛な表情で、顔を青ざめさせた。
「っ……朱雀様の前で、何て言うことを言うの、蒼燕っ! 失礼でしょう! 陛下と朱雀様の御子が、次期青龍王になるのが正統なのにっ」
「ーー否。姉上。蒼燕が正しい」
青龍王は優しい笑みを浮かべると、くしゃりと少年の髪を撫であげた。
「朱雀が見つかったばかりで、まだろくに心も交わしていないのに、子の話をするのは時期尚早ではあるが……私と、朱雀の間にどのような子どもが生まれようと、次期青龍王に選ばれることはあり得ない。それは、姉上の子である蒼燕の役目だと、先代の王も亡くなる前に予知していた」
「そうですよ。かあさま。王は、四神がわかるのです。だから、つぎの王もわかるのです。まえの四神も、わかるのです。ぼくだって、ちゃんとわかります。すざくが、おじ上のすざくだということも。げんぶや、びゃっこのことだって、ぼくはちゃんとわかりました。……ねえ、げんぶ。そうでしょう?」
「……まあ、一般的にはそう伝えられておりますけれど。蒼燕様の場合は事前情報あったうえで、当代の四神と対面してますからね。ちゃんと分かったと言われましても、王の力の証明にはなりません」
「……げんぶは、いじわるだ」
「意地悪ではなく、それが理屈です。悔しかったら、早く次代の四神を揃えて、私を楽隠居させてください。玄武や宰相なんて言う、名前ばかり立派な面倒な役割は、いつでも喜んで次代に譲りますから」
6才の子ども相手には少し大人げない玄武の言葉に、内心苦笑する。だが、存外彼は、蒼燕少年に懐かれているように見える。
ああ見えて、意外に子ども好きなのだろうか。
「………陛下が、納得されているのなら、私からは何も言いませんが」
硬い口調でそう告げると、藍華さんは目を伏せた。
その浮かない表情に、青龍王の顔も曇った。
「………姉上。蒼燕を王にすることは、不満か?」
「いいえ。陛下。王族として、母として、このように光栄なことはありません。ただ……」
藍華さんは、顔を上げて王をまっすぐに見据えながら、淋しげに笑った。
「同じ王族であっても、王とそれ以外では………そして、鳥人と龍人では、やはり見えるものが違うのだと実感し、淋しくなっただけです。現段階での王族は、私達三人だけなのですから、よけいに」
……三人、だけ?
「姉上。それは………」
「ーーおお、我が王! 無事に渾沌を追っ払って、戻って来たようで何よりだ。本当なら、そこにいる陰険玄武の代わりに、俺が護衛としてお供したかったんだがな。そうしていたら、渾沌も仕留められていたかもしれんしな」
突如勢いよく開いた扉と、部屋中に響き渡る荒々しい声が、王の言葉をかき消した。
「……ちょっ、白虎将軍! 陛下がいらっしゃる部屋に立ち入る時は、まずはノックをと、あれ程言ったじゃないですか! 無礼ですよ! 今の言葉も含めて!」
「うっせえ、クロ。俺からすれば、呼ばれてもねえのに勝手に付いて来たお前の方がよほど無礼だと思うけどな。そんなに俺が好きか? 一時も離れたくねえくらいによ? うん?」
「気持ち悪いこと言わないでください。貴方が王に粗相をしないよう見張るのが、副官の役割ですから……既にもう、色々無駄だったみたいですけど!」
入って来たのは、黒と白の二人の獣人の男性。
黒色の犬獣人の青年を引き連れた、真っ白な壮年な男は、大柄な体躯を曲げて、王の前で礼を取った。
「不肖、白虎。敬愛する我が王の呼び出しに応え、只今参上致しました」




