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羽無し朱雀は青龍王に愛される  作者: 空飛ぶひよこ


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18/72

玄武と王

 口にしてしまってから、失言だったかもしれないことに気がつく。

 鳥人族の村は閉鎖的で、使用人を除けばほとんど他種族と関わり合いのない生活を送っていた。それは鳥人に限らず、純血を尊ぶ四神の一族は、一様にそうであるらしい。母様と旅をしている間は、多くの種族の人々と交流をして来たが、四神の一族らしき人とは遭遇したことがなかった。

 だからこそ、私は亀人における「普通」が、どんなものであるのか分からない。

 私が羽が無いせいで一族に受け入れられなかったことと同様に、彼もまた、鱗が無いことで亀人一族に否定されて来たのだとしたら。私は、彼にとても残酷な質問をしたということになる。

 しかし、私の焦燥とは裏腹に、玄武はまったく気にしていない様子で微笑んだ。


「有麟種でありながらも、亀人の鱗はあまりにも小さくて。皮膚に紛れてしまうので、同種族の人間でなければ、まず分からないくらいなんです。鱗は分かりにくいですが、背中の皮膚が硬質化して、甲羅状になっておりますよ。今は、服で隠れていますが」


「あ……そうだったんですか」


「服を脱いで、お見せしましょうか?」


「えっ……」


「冗談です。さすがの私も、婚姻前のうら若き女性の前で、みだりに肌を晒したりしませんよ」


 くすくすと楽しげに笑う玄武に、何て返せば良いのか分からなくなってしまう。存外気さくな人のようだ。


「………そこは『王の未来の妃の前で』と、言うところではないのか」


 背後で青龍王が漏らした不満の声は、あっさり黙殺された。




 鳥人の村を囲むようにして四方に広がる森は、深く険しいが、それさえ抜けてしまえば、王都はそう遠くはない。

 二人に請われて歌った歌の効果もあってか、最も安全な最短ルートで森を抜けることに成功した。


「………来る時は、この森を抜けるだけで二晩掛かったのですが」


 驚いたような玄武の言葉に、自分が役に立てた気になって少し誇らしくなる。……単に、二人が来た時に、道を覚えた可能性が高いことも、重々承知していたが。

 森を出た頃にはすっかり暗くなっていたので、出た先にあった平野で一晩野営し、東を目指す。


 道中では、三人でぽつぽつと会話を重ねていた。

 一日共に過ごしていると何となくだが、王と玄武の関係性が分かってきた。

 8つの歳に青龍王の名を継いだ王は、現在私より一つ上の18歳。在位期間は10年になるが、まだ年若く足りない所もある王を、兄のように支えているのが、玄武だ。

 私達とさして年齢が変わらないだろうに、玄武は驚くほど落ち着いていて老成していた。頭の回転も早く、人当たりもいい。

 王に対しては時折辛辣だが、それもまた王の成長を促す為に必要なことなのだろう。

 王都へ向かう道のことで、再び言い合う二人を観察しながら、そんな風に結論づける。


「………どうしました。朱雀。そんな風に私達をまじまじと見つめて」


「いや………お二人は仲がよろしいのだな、と思いまして」


 私の言葉に玄武の顔は嫌そうに歪み、青龍王は戸惑いの色を浮かべた。


「……残念ながら、我が王と私は、貴女が思っているような関係ではございません。私はあくまで、玄武としての役割を果たしているまでのこと」


「私は臣下としての玄武には、信を置いているが………仲が良いとか、そういう次元の関係ではないな。そもそも玄武は、私を嫌っている」


 さらりと告げられた衝撃の事実にぎょっとしたが、玄武は顔色一つ変えることなく頷いた。


「私が、我が王に仕え、玄武としての役割を果たすことには、個人的な好悪は関係ありません。そうするべきか、そうしないべきか。ただ、私の判断と価値観に基づいて動くまでのこと。好き嫌いだけで、左右はされません」


 玄武の言葉に、王もまた鷹揚に頷いた。


「そうだな。そう言った意味では、私はそなたを信頼している」


 ……理解したと思った関係性が再びよく分からなくなった。

 だが、当事者である二人が納得している以上、私が口出しすることでもないのだろう。


「さあ、もうすぐ王都に着きますよ。朱雀。今回はお忍びの討伐なので、事前に通達した者以外に立場がばれると面倒です。今朝渡した服のフードを深くかぶって顔を隠されて下さい」


 二人の関係性についてはこれ以上深く追求しないことにして、玄武に言われるままに、フードを深くかぶって顔を隠した。




「ーーお帰りなさいませ。陛下。ご無事で何よりです」


 様々な種族が行き交う王都を抜け、巧妙に隠された裏口から王宮内に立ち入った私達を迎えたのは、美しい蒼を宿した鳥人の女性だった。


「文を読みました。渾沌のことは、玄武の占い通りだったとはいえ残念でしたね。そして、そちらの方が……」


「ええ。『私の』朱雀です」


 優しく背中に手を当てられ、何と反応すべきか分からなくなる。

 この美しく上品な人こそが、正統な朱雀候補なのではないだろうか。そんな相手に、真っ先にお目通りすることになるだなんて、完全に想定外だ。

 美しい蒼い羽を揺らしながら、その女性は、困惑する私に優しく微笑みかけた。


「初めまして、朱雀。私は、藍華らんかと申します。ずっと弟の前に貴女が現れるのを、お待ちしておりました」


「彼女は私の姉で……残された数少ない王族の一人だ」


 


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