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××睡眠に向いてない!!××

挿絵(By みてみん)


『思い悩んだら、床に“ごろん”が一番だ』


昭和初期の文豪、太宰治は言う。


薬物依存、異性関係、将来への不安…様々な深刻な悩みで日々悶々(もんもん)とする中で、『まあとりあえず、横になって昼寝でもするのが一番良い』と、逆に放り投げてしまった方が、すっきりして心身には良い。


僕は将来への不安はあっても、薬物依存や異性関係で深刻な悩みはないが、床に“ごろん”することは好きだ。


眠りは全ての思考を、一旦停止させる。


眠りの世界は、現実とは無縁の世界…。



床に“ごろん”ではないが、学校で昼寝することはよくある。


つまらない映画や読経と同様に、進行に抑揚(よくよう)のない授業はどうしても眠くなる。


(ひど)いときは、1日の授業のうち2~3回はウトウトしてしまう。


特に午後の昼食後の昼下がりは、眠気のピークを迎える。


1日に2~3回ウトウトするならまだしも、『1日中寝ている』という“エキスパート”が、僕のクラスの中で1人いる。


彼の名は『ヒイラギ君』。


学校では不良で有名だが、授業中は寝ているだけで、特に他の生徒に迷惑をかけることはない“無害な不良”だ。


「それなら家で寝ていた方がいいのでは?」


と思うが、ちゃんと登校して教室には“()る”ところが彼のエライところだ。


そんな無害な不良、ヒイラギ君とのエピソードを1つご紹介しよう。




────とある5時限目。


この昼食後の『日本史』の授業は、“睡魔軍(すいまぐん)との戦争”の時間。


この戦争で、犠牲になる生徒は数知れない。


先生が黒板にひたすら授業で教えたいことを黙々(もくもく)と書いていき、生徒達がそれをひたすら黙々(もくもく)と書き写すという“苦行(くぎょう)”と、昼食後の昼下がりという時間的な場面(シチュエーション)と合わさり、睡魔軍の大軍を呼び寄せる。


先生は時折(ときおり)、生徒達の方を向くが、特に起こしたりはしない。


このクラスに約50人の生徒がいるが、いま頑張って起きていられている生徒は約半分。


昼寝のエキスパートの『ヒイラギ君』は…



もちろん寝ている。



先週行われた席替えで、偶然彼は僕の後ろの席になったが、授業のはじめに配られた配布物を後ろにまわすために振り返ったが、既に寝ていた。




早い─────っ!




そういう競技があったのなら、きっと彼は日本代表になれるだろう。



僕は授業中眠くなったとき、時々考える。


ここで頑張って起きているより、寝てしまってスッキリして、他の授業やそれ以外の時間を有効に使った方が良いのではないか、と。


眠いものは眠い。


眠いときに思考しても、浅い思考の成果しか得られない。


そしてこの“日本史”の残りの授業時間で、目が覚める程の衝撃の展開があるとは到底(とうてい)思えない。


そう考えた瞬間に、僕のいち生活において、『頑張って起きて授業を受ける』という優先順位が下がり、睡魔軍に投降してしまう。


このヒイラギ君もきっと、学校の授業よりも優先したいことが、あるのかもしれない。



たとえば…



不良仲間と深夜までコンビニで“たむろ”している…



深夜の観たいテレビ番組を観ている…



とか。




まさか夜な夜な可愛い女の子と密会しているのか…?



何故か、不良は女子にモテる。


多少“ツン”としていた方が、格好良く見えるのだろうか。


いやいや、クラスの女子はヒイラギ君のことを怖がっている。


そんなはずはない…!




まあ、別に会っていても問題ないのだが。




そんなどうでもいいようなことを考えていると、眠気がさらに加速する。




眠い…。



昨日は昭和後半の文豪、三島由紀夫(みしまゆきお)の『金閣寺』を深夜1:00まで読んでいたので、さらに眠い。




寝るつもりはないんだが…



挿絵(By みてみん)





「…ヒイラギ君!」




先生の一声で、僕はハッと目を覚ました。


どうやら僕も、いつの間にか寝てしまっていたようだ。


そして珍しいことに、先生が寝ているヒイラギ君を名指しで呼んでいるではないか。


他の生徒の何人かも、その珍しい先生の一声で、目を覚ました。


そして当人のヒイラギ君も、目を覚ました模様。



「…はい」



()の鳴くような声で、ヒイラギ君は返事をした。


起きたばかりの彼も、何故自分が呼ばれたのか理解していないようだ。



「君は先週からずっと寝ているが、赤点も多い。ちゃんと黒板は書き写して勉強するように」



先生の弱々しい声が、“しん”と静まり返る教室内に響く。


それに対して、ヒイラギ君は返事をしない。




…また寝たのか?



先生はまた黒板の方に振り返り、続きを書き出した。




なんだったのだろうか、今のは…?




他の生徒も、きっと当のヒイラギ君も、同じ疑問が頭に浮かびつつも、睡魔軍にまたやられていく。




…まあ、どうでもいいか。



睡魔軍達は急な敵の反撃に驚きつつも、その波状攻撃を止めない。




確かに、今のところこの日本史の赤点を取り続けているのは、ヒイラギ君だけだ。


寝ている生徒を起こさない先生だけあって、テスト内容も簡単なのだが、彼は一切勉強をしていないのか、テストは常に赤点だ。


“赤点”なのに“寝ている”という連続技が、先生の怒りを買ったのだろうか。



でも常に授業では彼は寝ているのだが、どうして今になって注意したのか、分からない。



先生は確か“先週から”と言ったな──────



とその時、授業の終わりを告げる鐘の音の放送が流れ、無事に授業は終わった。



…ふぅ。



何もしていないが、授業が終わるとホッとするな。





「おい、山本」




ん?


ホッと油断していると、唐突(とうとつ)に後ろから聞き慣れない声が…



振り返ると、ヒイラギ君がこちらを見ている。





「お前、寝てただろ」



…なっ!?



何っ!?




「前の席のお前が寝てたせいで、先生に俺が寝ているのがバレた」



確かに僕は寝ていたと思われるが、いくら前の席といっても、先生から後ろの彼が見える・見えないは角度にもよると思うし、そもそもヒイラギ君だって、我先(われさき)にと寝ていただろう。



「以前、俺の前の席のマエカワはちゃんと起きていたぞ」



理解に苦しむような表情を僕がしていたのか、ヒイラギ君は自分の発言の説明をし出した。


この“マエカワ”とは、クラスで1番真面目な性格の男子生徒で、昼下がりの日本史の授業でも、滅多に眠ったことはない。




「気をつけろよ」



彼はそう言うと、再び寝る姿勢へと戻った。





気をつける…?




一瞬、言葉を失う。




なんという自己中心的発言。




そうだ!

彼は不良だった。



不良は自分の欲望に従順だ。



従順であるが故に、授業中ずっと寝ていられる。



そう考えると理不尽のようで、理にかなった発言だ。



しかし気をつけろと言われてもな…。




眠いものは眠いのだ。




…はぁ。




次は世界史だ。

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