××趣味に向いてない!!××
『無趣味』という趣味がある。
学校で部活に入らないと、『帰宅部』という部活に入る。
括りとしては、アレと同じだ。
『無趣味』ということだけで、何故か世間から残念な目で見られるのは、こういう偏見があるからだろう。
「楽しみがない」
「無気力」
「普段何してるの…?(疑いの目)」
無趣味というだけで、普段の生活に疑いがかかるのは、とても心外だ。
昔から、文豪の趣味といえば『酒と煙草』と相場が決まっていた。
昭和初期の文豪、芥川龍之介の文章の中に『煙草を飲む』という、現代では聞き慣れない表現があるが、時代が変わっても嗜好品は変わらない。
酒と煙草…
つまり、大人の嗜好品だ。
『酒と煙草』がないと“やってらんねぇ”のが文豪だ。
僕は未成年だから、『酒と煙草』はしたことがない。
いや、ウソでは無い。
夜21:00。
そんなことを考えながら、近所のコンビニに来たのだが、ここに『酒と煙草』を愛用している輩がたくさんいる。
コンビニの出入口横の喫煙コーナーで、3組が輪になって屈んで、何やら談笑している。
学ランを着ている時点で確実に未成年なのだが、『酒と煙草』を堂々とやっている。
こいつら、まさか文豪か…?
「おい、何見てんだテメェ」
ん?
僕のことか?
「何か文句あんのか?」
3人のうち、1番活きが良さそうな奴が食ってかかってきた。
「…いいえ、別に」
なるべく人と関わりたくないのだが、向こうから話しかけてくるので話してやろう。
「じゃあ何でこっち見てんだよ」
「酒と煙草をやっているので」
正直に返答。
「いけねーのかよ!おい!」
グッと胸ぐらを捕まれた。
「いいえ、別に。酒と煙草なんて文豪かなと思っただけです」
「ああん?ブンゴウってなんだ?」
活きのいい奴が、今まで静観していた残りの2人に聞く。
この2人は、僕が胸ぐらを捕まれるまで、無関心そうにスッパスッパと煙草を吸っていた。
「何だよお前、酒ほしいのか?」
2人のうちの1人が話したのだが、前歯が1本無い。
原因は喧嘩したのか、それとももっとヤバイやつに手を出しているのかは、不明だ。
「羨ましいだけです」
「羨ましい?へへっ!じゃあコレやるよ」
前歯が1本の奴が自分の酒を差し出してきた。
僕が“羨ましい”と言ったので、敵では無いと認識されたのか。酒は飲みかけだが、自分の酒を差し出すとは、案外優しいんだなこいつら。
しかし、前歯が無いこいつの飲みかけは、正直言ってちょっと無理だ…。
「いいえ、結構です」
「酒も飲む勇気もないのか!へっ!」
さっきから前歯が無い上に変な笑い方だなこいつ。
「もういいから帰れよ」
最後の1人がやっと話したと思ったら、サヨナラの催促だった。
活きのいい奴は、その台詞を聞くと僕の胸ぐらを捕んでいた手を放した。
こいつがこの3人組のリーダーなのか。
どこか余裕を感じる。
こいつだけ酒を飲んでいないのか、酔った感じがせず、冷静だ。
帰れと言われてもまだ用事が済んでいないので、僕は用事を済ますためにそのまま僕はコンビニの中に入った。
ふと店外を見ると、3人はまた屈んで、何やら談笑を続けている。
…はぁ。
『酒と煙草』が趣味の奴らは、あんな奴らばかりなのか。
僕と気が合うとは到底思えないな。
『酒と煙草』を趣味にするのは、当分お預けだな。