番外編#1「セルフブランディング」
二か月ぶりに実家に帰省したベニコ。深夜帯ではあったものの、妹のマサコ(真白子)はリビングで勉強中だったようだ。
ちなみにマサコはベニコの出身校・「デ魔高」ことロアデーツ魔道科高校に通う現役JK。生徒会役員も務める妹君は最近セルフブランディングに凝っているようで…。
「セルフブランディング」
久しぶりに実家に帰省したベニコ。栃木市民ほど日光に行かない、下館市民ほど筑波山に登らない…などのように「近くに住んでる人ほど立寄らない」という人間の性か、同じリルモンテ市内に住んでおきながらベニコにとっては2か月ぶりの帰省となった。
時間は11時を回り、両親はすでに就寝していたようだが、妹のマサコはリビングで勉強をしていたようだ。
ベニコ(末柄紅子):ただいまー。あー…疲れたー…。
マサコ(末柄真白子):ねーちゃんおかえりー。自称厨二の作者ですら書き出しで地元アピールしてるんだからもっとリルモンテのPRしてよー。
ベニコ:疲れて帰ってきたのに早々メタ発言かよ…マサコー。なんか食べモンない?…はー…「お得意様は不得意様」だなんてよく言ったもんだよ…。
マサコ:え?ねーちゃんだいぶお疲れちゃ~ん。うん。なんか食べたそうな顔してるもん。
ベニコ:はあ…。
マサコ:…冷蔵庫の上から二段目に冷奴と冷凍庫におにぎりがあるよー。
ベニコ:ありがとー…。もらうね。
マサコ:うん。
ベニコは冷凍庫のおにぎりをチンしている間に、冷蔵庫を開け、冷奴を取る。そして、その上に乗ったおろし生姜をめがけて醤油を垂らす。すると…。
ベニコ:・・・!浮いてる!醤油が!醤油が浮いてる!
マサコ:ねー…ねーちゃんラップ取ってない!
ベニコ:え?…あっ…はずかし…。
マサコ:ましろ書記長!見ちゃいました!てへぺろっ。
ベニコ:なんだそりゃ…。
マサコ:あたし、高校だと「ましろ」で通してるんだー。
ベニコ:はあ…。まあ、真っ白な子で「まさこ」なんて知らなきゃ読めんわな…。
マサコ:ちがうー!そうじゃないー!漢字で「真白子」よりひらがなで「ましろ」の方がかわいいでしょ?
ベニコ:ぶりっこするための道具か…。
マサコ:ちーがーうー!セルフブランディングー!
ベニコ:こうやって純真無垢な後輩たちが1から10まであざとくて計算高いぶりっこで内申書稼ぎを続ける生徒会役員の末柄先輩にだまくらかされていくわけか…。
マサコ:まさかー。一個下の後輩は超クセモノぞろいだよー。
ベニコ:ふーん。
マサコ:ロアデーツの時野谷財閥の令嬢もいるし。…すっごいじゃじゃ馬。
ベニコ:あんま私のことしゃべんないでよー。うち時野谷系列の会社なんだから…。
マサコ:あとねー、令嬢の取り巻きの同級生の二人が両方「リナ」って名前でかぶってるからか、しょっちゅうどんぐりの背比べなマウンティング合戦してんの!ザ・女の闘いって感じなんだけどなんか見ててかわいくってさー。
ベニコ:名前かぶりってややこしそうだな。
マサコ:ボロリナちゃんとケバリナちゃん!
ベニコ:なんだよそれ。イジメか。
マサコ:ちがうちがう。周りがそう呼んでて本人たちもそこは別に気にしてないよ。
ベニコ:ブタゴ●ラみたいなもんか…。
マサコ:お!昭和レトロをこよなく愛するダウナー系女子!例えも昭和!
ベニコ:やかましい。…てーかそれどこで聞いた?
マサコ:ナツさん!若干ノリがキモイところも含めてかわいいよね!
ベニコ:だろうけどさあ…人の妹に余計なこと吹き込みやがって…てか、ボロとケバってなんだ。貧乏と厚化粧ってことか?
マサコ:ボロは古谷野の「古」の字で、ケバは池羽の後ろ二つじゃない?
ベニコ:どんな頭してたらそんなの思いつくんだか…。相っ変わらず変人の巣窟だなあ…。
マサコ:んでさ、変人って言ったらその一年生の中に民法オタクの娘がいんの!
ベニコ:受信料避け…?
マサコ:ねーちゃん…民間放送局の方じゃない…。刑法民法の民法。…なんでもお父さんが司法書士で、持ってた民法判例入門からストーリーを作る趣味を編み出して、それがきっかけで民法にめっちゃ詳しくなったんだって。あ、でもでもーヲタヲタしさよりも腹黒さが感じられる美少女な感じかなー。私は大好きだけどー。
ベニコ:うわー…さすがデ魔高生…。
マサコ:末柄先輩お疲れ様ですー!
ベニコ:煽んなコラ。…そういえばリビングの本棚陣取ってたブランディング関係の本何冊かなくなってるな。売った?
マサコ:ケバリナちゃんに貸してる。
ベニコ:マサコ以外にもんーなもん読むJKいるんか…。
マサコ:ケバリナちゃん起業家だもん!頑張ってる後輩ちゃんは応援したいじゃん?
ベニコ:あー、「池羽はわしが育てた」とでもやりたいんかい。
マサコ、『孫氏の兵法でファンづくり』という青年会議所の本棚にでも置いてありそうなタイトルの本を顔の前に持ち、ニヤニヤしながら虚空を眺める。
ベニコ:うわー…嫌なヤツー。末柄真白子マジ嫌なヤツ…。ってそれはさておきデ魔高から学生起業家が出る時代になったんか…。
マサコ:財閥令嬢と法律の専門家もいるから黙っててもあの界隈は尖ってくと思うよー。
ベニコ:令嬢はさておき、民法オタクはただのオタクなんじゃ…。
マサコ:ねーちゃんわかってなーい!その娘、「法律知識と録音機があれば勝てる」って座右の銘の超尖ってる娘なんだよー!
ベニコ:冗談抜きでやべーヤツじゃねーか!半グレとつるんでる悪徳弁護士かそいつ…。
マサコ:いーじゃん面白いしー。
ベニコ:デ魔高だってヤベーのの一人や二人はいてもおかしくねーんだからあんま深入りすんじゃねーぞ…。
マサコ:大丈夫!書記長はすべての記録を司るし!
ベニコ:デ魔高はいつから社会主義を採用したんだ。え。
マサコ:もともと生徒会や学校の委員会組織ってそういう路線からの引き写しだから当たらずも遠からずだよー。
ベニコ:もう好きにしろよ…。
マサコ:うん!一度きりの人生だし!好きにする!でも困ったら助けてねー!
ベニコ:顧問の先生か先輩に頼めよ…。
マサコ、ソファーから立ち上がって冷蔵庫へと歩み寄り、そのドアを開ける。
マサコ:味噌はどうしたっけー?高菜はー?
ベニコ:んーでそんなしょっぱいもんばっか探してんだよ。
マサコ:北関東人はしょっぱいの好きだしー。甘さ控えめのお菓子で済まそうかなー。
ベニコ:カカオビターで済ませるのか?
マサコ:ネタを拾ってくれないと思いきやちゃーんと回収してくれるねーちゃんのそういうところ!好き!
ベニコ:…お前時々ナツよりめんどいぞ。