鬼怒川決壊戦線:巨像群壁の対龍防衛
「なぜ逃げぬのだ、ヒトよ……!!」
ヒトを護るためヒトに造られし巨像群壁、その1体たる個体番号KNG-L250は眼前の龍の侵攻を己が躰に受け止めていた。
天に横たわる白き龍はその身を大地に滴らせ、地上に鈍色の分身を顕現させていた。それには敵意も感情すらもない。ただ過剰なエネルギーを循環させるシステムの一部として存在し行動しているのみだ。巨像はこれまで何度も龍を押さえ込み受け流してきたが、今回の侵攻は規格外だった。ヒトもそれを分かっているのだろう、肩に乗るキノシタ達、世話役として派遣されている彼女らは、昨日から頻繁に我らの様子を見に来ていた。攻防は、かれこれ30時間は続いている。
「ごめんね250、ダムの放流調整も、もう限界みたい。まだ耐えられる……?」
「謝ることはない、汝らはよくやってくれた……。だが今回は……少々相手が悪いらしい……っ!」
100年前と比して、ヒトの術は練度を増している。100kmと連なる我ら巨像群壁も、その1箇所に龍の集中放火を受ければひとたまりもない。ヒトは各地に配した巨像の特殊個体を動かし龍の動きを操ることで、その攻撃範囲を管理していた。
だが今回はそれも限界のようだ。鈍龍はひときわ大きく膨らみ、我の肩から少しずつ溢れ出している。
「その左肩、やっぱり厳しかったよね……。太陽光パネルなんかのために削っちゃうなんて、どうかしてるわ。予算さえつけば戻せたんだけど、移転費用の補償って名目じゃ反発があって……!」
「なぁに、瑣末なことだ。汝らが土嚢で水勢を削いでくれている、ここから越水決壊は起こさせんよ。」
彼女は困惑しつつも、少しだけ嬉しそうに微笑んだ。だが…………だが……!
「だが気を付けよ、むしろ我らの躰そのものが……!!」
龍は毒を射ち込むかのごとく己の一部を我らの躰に染み込ませ、内側からの破壊を狙っているようだ。くっ……すでに背中から染み出し始めた。
「……そう……なの。」
「……そんな顔をするな、我らは汝らを護るために造られしもの。護りきれぬことは遺憾なれど、こうして時間を稼ぐ殿となれただけで本望よ。」
「っ……市長も1時間前には避難指示を出したはずなのに……もうっ、みんな何をもたもたしてるの、早く逃げてよ……!!」
キノシタはすでに我らの躰が保たぬことを察し、彼らの族長に退避指示を進言していた。彼らの術を以ってすれば、その指示は一瞬で伝わることだろう。だというのに、我らの背後ではヒトの乗るクルマがまだ蠢いている……!
ぐっ……!右腹部に損傷、もはやこれまでか……?
「キノシタ、汝らだけでも先に逃げ……っ!?」
瞬間、下流の個体KNG-L210を龍の腕が貫いた。毒に冒され弱った頭部が爆ぜる。
「同胞……!!」
鈍色の帯が首のない巨像の躰を削り取り、ヒトの世界に襲い掛かった。
ヒトよ、汝らは古より龍を畏れ、我ら巨像群壁を築いてきた。我らをさらに強化するもよかろう、さらなる術でその攻撃を散らすもよかろう。
されど驕るな。
それは母なる海と父なる日輪より生まれしもの。その圧倒的な物量と熱量を御しきれるなど、努々思わぬことだ。畏れよ、抗え、侮るな。
我ら巨像群壁は、常に汝らと共にあろう。
ヒューマンドラマ。ヒューマン?フィクションです。
堤防の決壊はソーラーパネルの設置のために堤防を削ったのが原因、とかいうデマ?勘違い?があるんですが、溢水の原因ではあれ、破堤したのは4km下流なんですよね。まぁ作ったことがどうかしてるとは思いますが。
怖いものを正当に怖がるって、とても難しいことだと思います。
参考資料:平成27年 鬼怒川における洪水被害等について
http://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000634942.pdf




