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異世界召喚系物語(仮)  作者: 羽リズム
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本編3(仮)

「あなたをこの町に入れるわけにはいかないんです」

 町の門番は、申し訳なさそうな表情で頭を下げた。

 勇斗が町の門に着いてから、実に数十分後の出来事だった。

 なんでこんなに時間がかかったのかと言うと、門番とこうして話が出来るようになるまでが大変だったからだ。

 なにせ、勇斗が身につけているのはボロボロの衣服で、しかも血までこびりついている。

 そんな格好の男が剥き出しのナイフを持って現れたのだ。警戒するなというほうが無理な話だろう。

 しかし、ここまでの数十分をかけた説得で、勇斗は門番からふたつの情報を聞き出すことができていた。

 ひとつはこの町がバンボーネと呼ばれていること、もうひとつは勇斗が殺した緑色の子供がレッサーゴブリンと呼ばれる魔物だったことだ。

 自分が殺した相手が人間ではなかったと知ったときの勇斗の表情は、それはもう見れたものではなかった。

「誤解は解けたはずだろ? どうして入れてもらえないんだ」

 詰め寄る勇斗に、門番の青年はますます申し訳なさそうな様子になって頭を下げる。

「許可がないんです。許可のある人以外は門を通すなって命じられてて……」

(許可なんてもんがいるのか。それじゃ、どうあっても通してもらえそうにないな)

 これまでのやりとりから、勇斗には門番の人柄がある程度把握できていた。

 物腰が低く弱気なところもあるが、真面目な性格をしていて職務には忠実。

 そんな門番に、上からの命令を無視して町のなかに入れてくれというのは無理な話だろう。

 しかし、それは勇斗が普通の人間であったなら、の話だ。

 門番の頭に触れて、勇斗は能力を発動する。

 ―――『存在改変』

(俺のことを、通してもいい人間だと認識しろ!)

 しかし、勇斗の能力は門番には効かなかった。


・対象のレベルは4です。使用者よりレベルが上の対象には、この効果は使用できません。


「どうかしたんですか?」

 頭を触られた門番は、不思議そうな表情で顔を上げる。

 勇斗は、自身の能力の不自由さを嘆きながらも、慌てて作り笑いを浮かべた。

「頭の上に埃が乗ってたんでな。それだけだ」

 それはあまりにも不自然な言い訳だったが、門番はそれで納得したようだ。

 納得したというよりは、勇斗のようなみすぼらしい身なりの少年が、頭に手を置いただけでなにかができるとは思われなかっただけかもしれなかったが。

(だったら、これならどうだ?)

 勇斗は『存在改変』の能力で、自分自身を『門を通っても良い人物』へと改変する。

 自分自身に対する改変がいつでもできることは、先ほどのレッサーゴブリンとの戦いで証明したばかりだった。

「これでも駄目か?」

 改変を終えた勇斗が、門番へと再び問いかける。

 しかし、門番の答えは変わらなかった。

「駄目なものは駄目なんです。規則なので……」

(また、なにかこの能力の制限なのか?)

 勇斗は、自分の能力が通用しなかった事実に肩を落とした。

 その様子があまりに気落ちしたふうに見えたのだろう。門番の青年は、勇斗に同情の視線を向けた。

「わわっ。そんなに落ち込まないでください。わかりました。あなたを入れてもいいかどうか、先輩に相談してきます」

 そう言い残して門の近くの建物に入っていく門番を見て、勇斗はこのまま町に入ってしまおうかと考える。

(町に入れたとしても、不審者だってことは変わらない……か)

 しかし、それはあまりにも無謀な考えだった。

 町の住民に通報でもされてしまったら、それで終わりだ。門番の青年に顔を見られてしまっている以上、すぐに侵入者だとばれてしまうことだろう。

 そんなことを考えて勇斗が諦めていると、髭面の男性を連れて門番が建物から姿を現した。

 おそらく、あの髭面の男性が先輩なのだろう。

 先ほどの門番の言葉からそう検討をつけた勇斗は、髭面の男性にも『存在改変』を使ってみることにした。


・対象のレベルは10です。使用者よりレベルが上の対象には、この効果は使用できません。

・この効果を使用するには、対象と接触している必要があります。


 このふたつのメッセージが頭に浮かぶことは、勇斗の想定通りだ。

 しかし、そのあとが想定とは違っていた。

 『存在改変』の対象にされた髭面の男性が、険しい目つきで勇斗をにらみつけてきたのだ。

(……もしかして、『存在改変』の気配を感じ取られたのか!?)

 殺気のこもった鋭い視線に、勇斗は思わず萎縮してしまう。

 そんな弱気な態度に、髭面の男性は勇斗のことを警戒する価値もない小物だと判断したのだろう。

 立場の違いを見せびらかすように鼻を鳴らすと、それっきり勇斗から興味を失ってしまったようだった。

 髭面の男性は、門番の青年と一言二言交わすと建物のなかへと戻っていく。

「すみません。やっぱり、駄目だそうです……」

 門番の何度目になるかわからない申し訳なさそうな表情を見た勇斗は、ため息混じりに歩き出す。

 町に入れないことがわかった以上、ここにいる意味はもうなかった。

「町にどうしても入れないんだったら、せめて少しぐらい休ませてくれ。慣れない旅で、もうくたくたなんだ……」

 しかし、どこかに行けるだけの体力も勇斗には残っていなかった。

 町を囲む外壁に背を預けて座ると、勇斗は門番の青年に向かって力のない笑みをこぼした。

「は、はい。それくらいでしたら……?」

 勇斗のいきなりの行動に、門番の青年は面を食らったようだった。

 困惑する門番の青年の返事を聞きながら、勇斗の意識はまどろみのなかへと落ちていった。

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