本編2(仮)
それはひとつの賭けだった。
自分以下のレベルの者しか対象にできないというのであれば、勇斗自身のレベルは当然勇斗以下のはずだ。
対象と接触している場合しか発動できないというのであれば、勇斗自身は当然勇斗と接触しているはずだ。
そう考えた勇斗は、自分自身に『存在改変』を発動する。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
自分自身を、攻撃力に特化した存在へと改変。
全身で突き出したナイフは、子供の頭蓋を砕き、その脳までもを貫いた。
力なく、子供の身体が崩れ落ちる。
戦いは、勇斗の勝利だった。
張りつめていた緊張の糸が切れて、勇斗は地面に大の字に倒れ込んだ。
「俺、生きてる……生きてるんだ」
あまりにも突然だった戦いに、勇斗は乾いた笑いをこぼす。
(それにしても、異世界に来ていきなり戦闘とはな)
安堵の息を吐くと同時、顔や服に浴びた返り血の生暖かさに気づいて、勇斗はこれまでのことが事実なのだと再認識する。
ナイフを突き刺したときの生々しい感触を思い出して、勇斗は胃のなかのものをすべて吐き出してしまった。
(俺が殺したんだ。人を……)
無理もない。
勇斗はこれまで平和な日本で暮らしてきたただの学生だ。
死というものに触れる機会は少なかったし、自らの手でなにかを殺したことなど一度もなかった。
それが、心の準備もなしにいきなり生き物を殺させられたのだ。
平静でなど、いられるはずがなかった。
(俺が悪いんじゃない。全部、あいつがいけなかったんだ!)
胃のなかのものをひとしきり吐き出したあと、勇斗は顔を上げた。
目の前の亡骸に文句をぶつけることで、自分自身を正当化する。
(そうだ。悪いのは全部あいつだ。俺じゃない)
多少冷静になった勇斗は、状況を整理してみることにした。
ここは町から少し離れた森のなかだ。
ここで緑色の子供に襲われたということは、森のなかにはまだ緑色の子供の仲間がいる可能性がある。
立て続けに襲われることだけは避けたかった。
勇斗は、急いで出発の準備を整えることにする。
まずは、近くにあった湖で吐瀉物塗れの口をすすぎ、血塗れの顔を洗う。
それから、死体から回収したナイフを洗うことにした。
ナイフを回収する際に、死体をなるべく直視しないように気をつけたことは言うまでもない。
勇斗の心は、そこまで強くなかった。
(それにしても、『存在改変』で攻撃力に特化したっていうのに、この程度の威力なのか?)
自分が先ほど放った一撃を思い出して、勇斗は考える。
勇斗の攻撃は、相手の頭を貫いただけだった。
相手のことを粉々にできたわけでも、消し飛ばせたわけでもない。
たかがナイフの一撃として考えるのであれば、さすがにそれは非常識すぎる威力だったが、勇斗の想定ではそこまでできる能力のはずだったのだ。
(レベルのことといい、触れなきゃ駄目なことといい、まだまだ俺の知らない制限が多そうだな)
理想と現実の落差に肩を落としつつ、勇斗は立ち上がる。
能力の制限について考えるのは、町に入って安全を確保してからでも良いだろう。
勇斗は、町に向かって歩き出した。