プロローグ2
そこは不思議な空間だった。
空も、大地も、なにもかもが極彩色に染まっている。
ずっと見続けているには辛いその色に、勇斗は逃れるように空を見たが、見上げた先も極彩色に染まっていたのであまり意味はなかった。
上空には、幾何学的な模様を描く図形がいくつも浮かんでいた。
「ここは……?」
あまりにもファンタジー過ぎる光景に、勇斗は呟く。
「あの世じゃよ」
勇斗の問いに答えたのは、壮健な身体つきをした白髪の老人だった。
(あの世だと……!)
その言葉を聞いて、勇斗は慌てふためく。
ひとしきり慌てふためいたあと、自分がガードレールに激突したことを思い出して、勇斗は落ち着きを取り戻した。
「俺は死んだのか」
「うむ。その通りじゃ」
ふぉっふぉっふぉと笑いながら、明るい声で老人は言う。
「それで、爺さんは誰なんだ? ギリシャの人か?」
勇斗という死人を前にして、あまりに能天気に笑う老人に勇斗は問いかける。
ギリシャの人か、と勇斗が問いかけたのは、老人の姿が歴史の教科書で見たソクラテスやアリストテレスに似ていたからだった。
(こいつも、俺と同じで死んだ人間の幽霊かなにかなのか?)
自分のことを幽霊だと決めつけた勇斗は、歴史の教科書で見た大昔の人物に似ている眼前の老人も幽霊だと決めつける。
しかし、老人はそれを首を振ってそれを否定した。
「神様じゃよ」
あまりにも軽い口調でされた自己紹介に、勇斗の理解が追いつかない。
勇斗は驚きのあまり思考停止をして、思わずポカンと大口を開けてしまっていた。
「……は?」
そんな勇斗に、目の前の老人は凄く激しい自己主張で何度も自分の顔を指でさす。
「いや、だからワシ、神様なんじゃよ。お主の世界の言葉で言うとゴッド、もしくはデウス、またはガンダーラなんじゃよ」
(デウスも大概だけど、ガンダーラは絶対に違うだろ!)
老人のあまりにも胡散臭い自己紹介に勇斗はツッコミをいれるが、このまま話しているだけでは埒が明かない。
とりあえず、勇斗は話を進めることにした。
「で、神様が俺なんかに何の用なんだ?」
胡散臭い老人の自己紹介に合わせて、勇斗は冗談交じりの口調で問いかける。
余裕綽々に見えるその態度は、実は余裕のなさの裏返しだ。クラスメイトからのいじめを受けてきた勇斗には、誰に対しても強がるクセがついてしまっていた。
そんな勇斗を見ながら、老人は顎に蓄えた豊かなヒゲを撫でる。
「実を言うと、誰を代表にしようか迷っておってな。そこにちょうど良く先に死んだ者がひとりだけおったから、お主を代表に決めたわけじゃ」
「代表……?」
代表という言葉を聞いて、勇斗の脳裏に真っ先に思い浮かんだのはワールドカップの日本代表や卓球の日本代表たちだった。
しかし、老人が言う代表がそのようなものであるはずがない。ワールドカップだろうと卓球だろうと日本代表というものは死人がなるものではないし、なにより勇斗の身体能力自体もそこまで高くはなかった。
「お主たちの世界とは異なる世界に降臨し、世界を救うために魔王に立ち向かう数多の勇者たちの代表にお主を決めたわけじゃ」
老人が小難しい話し方で回りくどい説明をするが、現代のオタク文化に浸かってきた勇斗にはすぐに老人の言いたいことが理解できた。
これは、つまり『異世界召喚』というやつだ。