貴方とはそこまでではない
6話です!
『今日はありがとう』
ホテルに戻り、夕食を済ませ自室に入った陽太。
午後十一時、布団に座り携帯を開くと画面にはそう通知が来ていた。
送り主はもちろん、聖菜である。
陽太はベットに座った。
『何が?』
そう送ると、瞬時に返信が届いた。
ずっとメールを待っていたのだろうか。
『隠してた過去を言ってくれたこと』
『いや、何となく大丈夫だと思っただけだよ』
『何が?』
『きっと話しても馬鹿にされたり、言いふらしたりしないって』
『私のこと、信じてくれたんだね』
『少しはね』
ずっと心配する気持ちはあった。
聖菜はいじめる側の人間であるかもしれないと。
隣の部屋からは、ワイワイと騒ぐ音が聞こえてくる。
何人かがこっそりと、その部屋に集まり遊んでいるのだろう。
因みに先生の見回りはないため、人によっては寝ずに遊び倒すのだろう。
『通話で話さない?』
しばらく視線を天井に向けていたため、メールが来ていたことに気付いていなかった。
『今、紗南は他の人の部屋に行ってていないから大丈夫だよ』
陽太は一人部屋だが、聖菜は二人部屋のようだ。
因みに一人か二人のどちらかを選ぶことが出来た。
『まぁ、別にいいけど』
そうメール送り、電話をかけた。
するとワンコールで聖菜は電話に出た。
『ごめんね、何となく話したくなって』
「いや、いいけど」
『さっきの続きだけど、もしかして私が嫌いだった理由ってそれが原因?』
「どういうこと?」
『私が馬鹿にしたり、言いふらしたりするような人だと思っていたのかなぁって』
「うん……。僕に話しかけて弄ぼうとしているのかなって思ってた」
『そっかぁ、ごめんね。でも安心して!私はそんな人じゃないから!』
「それを判断するのは僕だよ?今はまだ全面的には信頼出来ないかな……」
『そっかぁ〜。仕方ないよね』
その後しばらく、沈黙が流れた。
そして再び話を続けたのは、陽太だった。
「バスケ部って大変なのか?」
『ん〜、まぁ大変だよ。でも、その大変さの何倍も楽しいよ!』
聖菜の声はとても明るかった。
初めて聖菜のプライベートに触れたからだろうか。
「いいよな、そういう夢中になれるものあって」
『菅原君はないの?』
「なくはない」
『え?何、何?』
「小説、だよ」
『そう言えば、毎日のように読んでいるよね』
「まぁ」
『面白い?』
「面白い。そして何よりもためになる」
『そうなんだ。私も読もうかなぁ』
「スポーツものもあるし、そういうのから読み始めた方がいいと思うよ」
『そうだね〜、うん。そうする!』
「じゃあ、眠いから寝る」
『え、もうちょっと話さない?』
聖菜がそう言った時、電話の向こうから足音が聞こえた。
「中川さんじゃない?」
『あ、そうかも。じゃあ、おやすみなさい』
「うん」
陽太は電話を切り、携帯を枕の横に置いた。
そして陽太は、ベットに寝転がる。
天井を見上げると今日のことが浮かび上がってくる。
完璧な優等生が陽太に見せた、濡れた顔。
かなり時間が経った今でも鮮明に覚えている。
聖菜は、同情してくれた。
その事に大きな感謝があった。
少しかもしれないけど、ここの傷が癒えた気がした。
だからか、気付けばスヤスヤと陽太は眠りに入っていった。
二日目になり、場所は大阪に移った。
今日は自由行動ではなく、クラスごとに動く。
陽太たち三組は大阪城、通天閣、道頓堀の順で回る。
大阪城に着き、バスから降りた。
そして城の方へとゆっくりと歩いていく。
陽太は相変わらず、誰とも喋らずに歩いていた。
今日は少し、体調が優れない。
どこか頭が冴えない感じがしていた。
「菅原君!」
後ろの方から声をかけてきたのは聖菜だ。
昨日の通話の時同様、とても明るく透き通った声だった。
「中川さんは?」
「他のバスケ部の人といるよ」
「僕に構わず、一緒に居たらいいのに」
聖菜はかなりの人気者。
話し相手に困ったりしないだろう。
わざわざ、あまり喋らない陽太のところに来る必要はないのだ。
「話、したいなって」
「昨日の続き?」
「ん〜、まぁそれもだけど……。菅原君のことよく知らないし、色々聞きたいの」
「例えば?」
「好きな食べ物とか、好きな小説とか、好きな人とか?」
「好きな食べ物は、麻婆豆腐。好きな小説は『あの日を境に』っていう恋愛もの。好きな人はいないよ」
「いや、例を挙げただけなんだけど……」
「でも今思えば、自分の好みを人に話したのは今の親を除いたら初めてかもしれない」
「そっか……」
昨日のことを思い出したのか、少し気まずそうにしていた。
「ねぇ、菅原君」
「ん?」
「私と菅原君は、友達だと思う?」
なぜかはよく分からないが、その質問に対する回答が少し遅れた。
「……、分からない。友達がいなかったし、そもそも友達の定義が曖昧でよく分からない」
「ごめん、変なこと聞いちゃった……」
「いや、大丈夫」
「友達の定義ね……。多分だけど、楽しく話せる仲を指すんじゃない?」
「楽しく話せる仲……。もしそれが友達だとしたら、花咲さんとは友達じゃないかな」
「え?」
『ここからは、話すなよ〜』
先生の声が耳に入った。
三組の生徒たちは、ゆっくりと城の中に入っていく。
―――――――――――――――――――――――――――
生徒達は、周りをキョロキョロしながら歩く。
多少の話し声は聞こえるが、殆ど聞こえないくらい小さい。
しかしそんな小さな声も、少し響いて聞こえた。
友達じゃない……。
私の思い違いだったのかな……。
『もしそれが友達だとしたら、花咲さんとは友達じゃないかな』
その言葉が、頭の中でこだましていた。
私はそれくらいの仲にはなったものだと思っていた。
最近は普通に話すし、昨日も電話で話したし……。
私は正直、楽しかった。
でも彼は楽しくなかったのだろうか……。
だとしたら悪いことをしたな……。
あの言葉を聞いて以来、菅原君とは会話はなかった。
私と話すのが嫌だったとすれば、話すのはよくないと思ったからだ。
それに菅原君からも話したくないというオーラが感じられていた。
どうすべきか……。と考えているうちに私たち三組は、城から出てきていた。
『ここからは一時間ほど自由行動にする』
担任の先生がそう言った途端に、生徒はそれぞれ散っていった。
「あ、セレナ〜」
紗南が声をかけてきた。
「一緒にお土産買いに行かない?バスケ部の」
「あ、うん……。でもちょっと用事あるから先行ってて」
菅原君に話を聞きたかった。
なんで友達じゃないのか。という理由を聞くために。
「もしかして、菅原君?」
「……」
「いい感じなの?」
「私と菅原君は友達じゃないってさっき言われた」
「えっ……。そうなの?」
「うん……」
「ならいっそ、話すのやめたらいいのに」
「え?」
少し紗南の声のトーンが下がった気がした。
「誰にでも優しくするのはいいけどさ、それを拒否してる人まで優しくする必要はないんじゃない?」
紗南の言う通り、普通ならそうすべきだ。
でも私は出来なかった。
菅原君の過去を知って、救ってあげないといけないという思いが強くなったからだ。
それにもしかしたら、菅原君自身がそういった救いを求めているかもしれないと思った。
「ごめん、先行ってて。私行ってくる!」
「……、やっぱり人が良すぎるよ、セレナは」
紗南の呟きは誰にも聞こえずに、賑やかな辺りに消えていった。
「菅原君!」
トイレの近くにある自販機の前に菅原君がいた。
私は、周りに誰もいないことを確認して声をかけた。
「私と菅原君が友達じゃないかもしれないってどういうこと?」
「……」
「答えてほしい」
「……」
「菅原君?」
自販機を眺めていた菅原君は、こちら側に振り返ろうとした。
が、彼は力なくその場に倒れ込んだ。
持っていたコーラの缶が地面に落ち、中身が溢れていた。
缶はカランコロンと音を立てて転がっていく。
「菅原君!大丈夫?菅原君!」
私の声に全く応答がなかった。
呼吸はしているものの、完全に意識はなかった。
体には力が入っていない。
「先生!菅原君が!」
次回に続きます!
投稿不安定で申し訳ないです。
ブックマーク登録や評価、レビューなどお待ちしております!
書籍化を目指して日々精進しております。
Twitterやっているので、そちらもよろしくお願いします!