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貴方は僕の嫌いな人なのです

2話です。

 



 チュンチュン、と雀のなく声が空に響き渡る爽快な朝。

 陽太は、いつも通りの時刻に目を覚ました。

 陽太は昨日、一日中本を読んでいて目を酷使していた。

 そのため、とてもぐっすりと眠れた。


 今日も、もちろん授業がある。

 だけど今日は学校に行くつもりは無い。

 昨日あれだけのことをやってしまったので、今日行くと、またいじめの標的にされるからだ。

 休んでも休まなくても、どちらにせよいじめを受けることには変わりないのだが、陽太本人がいる所でのいじめはいささか気分が悪い。

 それなら行かない方がいいと陽太は考えているのだ。


 陽太は、高校くらいは卒業しておきたいという願望があったので、進級ギリギリの登校日数を続けていた。

 その結果、基本的に二日に一回しか登校しないリズムになったのだ。




「陽太?今日は行くの?行かないの?」



 一階の方から、朝なのに大きな声が聞こえてくる。

 この声の主は陽太の母、聡子(そうこ)

 陽太の母は、陽太の事情をよく知っているため学校を休むことに文句を言ったりしない。



「行かないよ」



 早朝の近所の迷惑にならないよう、最小限の声で一階に向かって言葉を返した。

 すると、聡子の足音は次第に遠ざかっていった。


 菅原家の一日は、いつもこうして親子の会話から始まる。




 朝六時に起床して、七時に朝ご飯。

 少し休憩したり、洗濯物を干したりして気付けば八時半になっていた。

 いつもの通りに済ませて、再び自室に戻ってきた。



「さてと……。今日はどれを読みますかね……」



 自室の大きな本棚を上から順に目を通す。

 そして一番下にあった本に疑問を抱いた。



「ん?こんな本持ってたっけ……」



 その本は表紙が古く、紙自体がヨレヨレになっていた。

 題名は……。



「『いじめはなくならない』」



『いじめはなくならない』という題名に興味を持った陽太は、その本を持って勉強机の方へと行き、椅子に座った。

 陽太は、座ってすぐに机の明かりをつけた。

 そしてページを一枚捲る。

 最初は、もちろん目次だ。

 でも、次のページを開いた時驚きを隠せなかった。

 最初の一文はこうだった。



『いじめを失くす方法がもし本当にあるとすれば、貴方がそれをいじめでないと思えるようになることでしょう』



 これが出来れば苦労をしないのだ。

 出来ないからいつも辛い思いをして、学校も休むようになって……。

 いじめでないと思えるようになるなんて……。

 出来ない、不可能だからこの文には『もし』が入っているのだろうか。

 陽太は、さらに先へと読み進み始めた。




 三百ページある本を読み終えるのには、約三時間半を要した。

 陽太は、本の内容に共感して時に頷きながら本を読んでいた。

 そして使えそうな内容は、引き出しに入っていたノートに書き残した。


 この本を読んで陽太は、一安心していた。

 少しは対策して、いじめを弱く出来るのかもしれないと。

 でも同時にショックも受けた。

 弱く出来ても、失くすことはできないからだ。



 陽太が時計を見ると、既に十二時を回っていた。

 ぐうぅ、となるお腹を満腹に満たすべく一階のリビングへと向かった。




 ―――――――――――――――――――――――――――




 出来れば早く謝りたい。

 そう思った私は、いつもより十五分早く家を出ていた。

 昨日、家に帰ってからは申し訳ない気持ちで心がモヤモヤしていた。

 そのため、勉強は集中出来ない、寝ようにも寝れないという状況になっていた。


 学校に着き、車から出た私は少し急ぎ足で校舎内に向かった。

 閑散とした廊下を通り抜け、階段を一段飛ばしで駆け上がり、三組の戸を開けた。


 しかし、そこには窓側最後列にいる彼の姿はなかった。

 クラスメイトたちは、私の息を切らした様子に疑問を抱いていた。

 そのクラスメイトの横を通りつつ、自分の席に座った。



「はぁ〜……」



 大きな溜息をつくと、隣の紗南がこっちを向いた。



「朝から溜息とは、幸せ逃げちゃうよ?セレナ」

「だ、だからそのあだ名は……。っていうのは今は良くて、菅原君来てないの?」



 教室内では、居ても居なくても変わらない菅原君の悪口が聞こえる。

 だがその当の本人は、昨日の朝以降と同様に空席だ。



「ぷっ……。まさか、昨日のこと気になって夜も眠れなかったとか?」



 紗南は、飲んでいた水筒のお茶を吹き出しそうになっていた。



「そ、そんなわけ……、ないじゃん……」

「図星だねぇ。まぁ、そんな時もあるよ」

「もぅ……」



 紗南は持っていた水筒を机に置いて話を続けた。



「まだ一限始まるまでに時間あるし、今から来るんじゃない?あ、でも昨日学校来たから今日は来ないかもね」



 私は教室で聞こえてくる悪口の中に、『二日に一回しか来ない』というのがあったことを思い出した。



「ど、どうしよう?早く謝らないと、授業もまともに受けられないよぉ」

「やっぱり、気にしてたんじゃない」



 私は、紗南の肩に手を置き彼女を前後に大きく揺さぶった。



「どうしよう〜。ねぇねぇ、紗南〜。どうしたらいいの?」

「ちょっ、分かったから揺さぶらないで……」



 私が手を離すと、ふぅと息を吐いて再び話し始めた。



「行けばいいじゃん、家に」

「……。えぇ!?い、家に?」

「昨日もいきなり菅原君に話しかけてたし、それも出来るでしょ?それに、モヤモヤが治まらないなら早めに済ませた方いいでしょ?」

「まぁ、そうなんだけど……」



 このまま治まらなければ、今日も眠れない夜になってしまう。

 それは何としても防がなければいけない。

 睡眠不足は美容の敵であるからだ。



「じゃあ、決まりね!部活終わったら一緒に行くよ〜。私は家に入らないけど」

「え、なんで?」

「いや、そりゃあ私悪いことしてないし……」

「えぇ〜」

「ま、頑張ってね」

「……うん」



 私は、諦めて部活後に菅原君の家に行くことにした。

 紗南は、去年から届け物をするために何度か菅原家に行っている。

 そのため、家がどこにあるかというのは既に分かっていた。




 ―――――――――――――――――――――――――――




 午後から陽太は、お気に入りの小説を一巻から読み直していた。

 そして十二巻中の十巻まで来たところで、家のインターホンがなった。

 時刻は午後六時半。

 外は次第に暗くなり始めていた。


 今は、両親が共働きでいないので陽太が直接出るしかなかった。

 陽太は、十巻の読んだところに栞を挟んで閉じ、玄関へと走って向かった。



『ガチャ』



 少し重たい玄関の扉を開くと、前にいたのは見覚えのある黒髪の女性が制服姿で立っていた。



「ごめんなさい、家まで来ちゃって……」

「帰ってくれ」



 陽太はそう言って、扉を閉めようとした。



「ごめんなさい」



 その謝罪の声を聞いて、閉めるのをやめた。

 透き通った声は、澄んだ空気の外に綺麗に響く。



「いじめの種になるようなことしちゃったこと、謝る。ごめんなさい」



 聖菜は、深く礼をして謝った。

 その謝罪にとても心がこもっているということは、陽太にもよく伝わってきていた。



「そのことは、気にしてないよ」

「良かった……」



 そう安堵する聖菜に、言葉を続けた。



「用件は済んだ?」

「やっぱり聞かせて欲しいの。何で学校来ないの?今日だって……」



 陽太は聖菜が言葉を発すれば発するほど、拳に力が入っていった。



「帰れ」



 昨日、教室で言った時と同じような声のトーンでそう言った。



「話して、お願い」



 聖菜は再びお辞儀をしてお願いしたが、陽太は決して許そうとしなかった。

 陽太は再び扉を閉めようとした。



「私じゃ駄目なの?私には話せないことなの?」



 その言葉を聞いて再び、扉を閉めるのをやめた。

 そして聖菜の目を見てこう言い放った。



「君には関係ない話だし、余計なお世話だ。それに……」



 聖菜は陽太の言葉を聞き、少しずつ表情は暗くなっていった。



「君は、僕の嫌いな人だから」



 そう言い残して、陽太は扉を閉め踵を返した。




 私は暫く呆然と立ち尽くしてその後、こっそり見ていた紗南と一緒に帰り始めた。



「やめた方いいんじゃない?」



 そう言われても私はやめられなかった。

 恐らく苦しんで辛い思いをして、学校に来ない菅原君の姿を見て放っておくことは出来なかった。



「あれだけ言われてもまだ続けるの?」

「続けるよ」

「え?」

「菅原君が、心を開いてちゃんと話してくれるまでは続ける」



 やっぱりちゃんと聞くまでは、終われない。

 私は、菅原君が心を開くまでは諦めないと決めた。




 その頃陽太は、自室に帰っていた。



「とんだ迷惑だ」



 あの本にも書いてあった通り、いじめている側は自分がいじめていることに気付いていない。

 陽太は、聖菜にいじめられていると思っている。

 触れてほしくない所に、無理やり入ってこようとする。

 それも強引に。

 そういうのは、陽太にとっては大きな迷惑だ。

 否定しても否定しても覆そうとするのは、もはやいじめだと陽太は考えていた。


 だから陽太は、聖菜に心を開かないと決めた。



 陽太は、布団に入って夕食も取らずに眠りについた。




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