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第?話「歩くことと同じくらい、泳ぐことが得意。」
「じゃ、ゆた。また後で」
「今日は天気がいいけど、それでも気を付けてね」
エレベーターでズタボロにされたゆたの体調が、最低限回復したのを見届けて、桃子と俊介は街へと歩いて言った。二人はいつも仲がいい。もしかして付き合っているのかなと、ゆたは思っている。
第一層は、このエアロフロートで一部大きな歓楽街になっている。二人の目的は街でのショッピングだが、ゆただけは進行方向を逆に向け、海風に正面から逆らう。海に浮かんでいるエアロフロートに、砂浜はない。防波堤を超えると、そこはもう、水深10メートルほどの海。上着をいつもの場所に置き、飾り気のない水着姿にゴーグルだけを装備して、飛び込んだ。
海はゆたのフィールドだった。
エレベーターに毒されたからだが、一気に洗い流されるように感じる。
この夏休み、ゆたは毎日5時間以上を海中で過ごし、
日の光が赤くなってくると、陸に戻って、また2人と合流する生活を繰り返していた。