第?話「期限」
巨塔ユルルングルは、観光地でもあるが聖地でもある。
500年前に地球に飛来した巨大彗星。そのサイズは、火星に劣らなかったと伝えられる。
誰もが地球の滅亡を信じて疑わないほど、太陽を背にした彗星の影が南半球に落ちたとき、どこからか現れた巨大な龍が割って入り、彗星を受け止めたのだと。衝撃で石化した龍は今もなお南極点に聳え立っている。
神話の真偽は定かではないが、ユルルングルのその先に巨大な隕石の残骸が残っていることは、すでに観測で明らかになっている。そしてその残骸はあまりの質量故に重力を持っている。
もしもユルルングルが折れたら、重力で引き合う地球と彗星は500年越しに衝突し、人類は滅ぶ。
「ま、そんな神話は嘘だけどな」
ユルルングルを見上げながら、桃子が言った。
「だってあれ、クロックチタンなんだろ?人工物じゃん」
「でももし」
俊介が口をはさむ。
「本当に神話が半分真実で、500年前からあの塔が立っているのだとしたら」
その言葉の先を理解して、ゆたが小さく呻いた。
「クロックチタン製のあの塔は、もうすぐ折れることになるね」
その会話の数日後、俊介が握っていたボールペンが、軽い音を立ててあっさりと、折れた。