第?話「500年間、絶対に折れないボールペン」
僕が入学祝いにお父さんからもらったのは、クロックチタン製のボールペンだった。
「500年間、絶対に何があっても砕けない」
あのユルルングルも、これでできている。
歴史上の人類の発明の中でも、群を抜いて素晴らしいものだよ。
その時、父さんはそう言っていた。
「そんなのうそうそ! メーカーの作り話だって!」
その話を聞くなり、桃子はクロックチタンのキャッチコピーを笑い飛ばした。
「こーんなほっそいボールペン、折ろうと思えばゆたでも折れるよ」
僕も最初は父さんの話を信じなくて、軽く試したことはある。
実際その時、このボールペンはまったく曲がらなかったし、3年前から今まで、傷一つついていない。
「ほらゆた、これ折ってみな?」
だから、そんな言葉とともに桃子がゆたにそれを手渡すのも、黙ってみていた。
ゆたは急に水を向けられ「ゅぇ!?」といつもの呻きをもらし、おずおずと受け取る。僕の顔色をうかがってから、ペンの両端を持ち、力を込めた。
それから1分近く苦闘したが、ペンはぴくりともしていない。
力を込めているゆたの顔は真っ赤になっていて、それでも負けず嫌いが顔を覗かせ、ペンを手放そうとはしなかった。見かねた桃子が声をかけようとしたとき……!
「うりやぁ!」
と、およそ普段のゆたに似つかわしくない声とともに、彼女はペンを机に叩きつけた。
それが、桃子がゆたに恋した瞬間らしい。なるほど。