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忠義の女騎士と暴君な王子  作者: つばさ
第一章
2/16

戦場の宝石

タリアス王子視点です。





靡く黒髪と輝く紫紺の瞳。


砂煙舞う血だらけの戦場の中で、その人物の周りだけ空気が違った。


その高潔な姿に魅入られた。戦場の真っ只中、いつ命が失われるかも解らない状況だというのに。



その存在はオレの中に鮮烈に焼き付いた。






ーーアレが欲しい。あのアメジストをオレだけのモノ(・・)にしたい。







最初は男ばかりの戦場の中で女の将がいる事に驚き、興味を惹かれただけだった。

アースレイア王国の戦力とエストテレア帝国の戦力の差は圧倒的で、当然アースレイア王国の兵士の多くの者は恐怖心を抱き、諦めようとしていた。そんな圧倒的に不利な状況の中で彼女だけは諦めず苛烈に戦い続けた。諦めそうな仲間を叱咤し、希望を捨てるな、勝利は自分達で作るものだと突き進み、我が軍の兵士を次々と斬り伏せて行った。


長い黒髪を靡かせ、紫色の瞳で敵を見据え、鮮やかに敵を斬り伏せるその姿は美しく、俺は彼女から目を離すことができなかった。

返り血を浴びようとも高潔さを失わないその姿。状況が悪化するばかりの戦況の中で光を失わずに輝き続ける紫紺の瞳は血生臭い戦場の中で唯一輝く宝石に見えた。

数多くいる兵士の中で彼女の実力だけが飛び抜けている事は一目瞭然だった。

しかし、どんなに強い実力者がいようと、戦況が簡単にひっくり返ることなど無い。

ましてやその実力が魔法というものではなく、剣技に重きを置かれているものだとしたら、なおさらだ。



この戦で二国の戦力に大きな差を作ったのは兵士の数の差だけではない。

エストテレア帝国ではここ数年、オレを含め生まれつき強大な魔力を持つものが多く産まれた。普通は数百年に一人とか二人とか言われる魔力を持つものが何故か立て続けに現れたのだ。

それに比べ、アースレイア王国は特殊魔法能力に飛び抜けたものは何人かいたが、魔力量を多く持つものはなかなか現れずにいた、魔力量を多く持つものは王族に現れることが多い。

エストテレア王は一夫多妻でオレを含め王の血を引くものは多くいる。当然、魔力量が多い子供も沢山産まれる。

しかし、それに比べて今代のアースレイア王は愛妻家で有名で、正妃しか娶っていない。子供も三人だけ。しかも正妃の魔力量が少ないことから子供の魔力量も一般と比べると多いだろうが、我が国に対抗出来るだけの力では無かった。

故に、この戦の決着など初めから決まっていたも同然で、誰もが当たり前にそれを受け入れていた。


ただ一人、懸命にその運命に抗おうとしていた彼女を除いて。



だからこそ、眩しかった。

それ迄、何に対しても興味や欲を出す事が無かったオレが初めて欲しいと焦がれてしまうほど。

絶望的な状況の中でも苛烈な炎を瞳に宿し続ける彼女を手に入れたいと思った。

そして同時に、命懸けで戦う相手に対して手を抜くという行為は相手を侮辱するのも同然だと考えた。


だから敢えてオレは、大将という立場を忘れ彼女の真正面に躍り出て、同時に戦を終わらせるであろう威力の(いかづち)の極大魔法を放った。



予想通り、その魔法によってアースレイア王国の多くの兵士が戦いを続けられる状態ではなくなり、戦は終を継げた。



オレの正面にいた彼女は、戦が終を告げても俺が立ち去るまでその目を俺から外すことは無かった。

悔しさ、憎しみーー様々な感情が混ざっていてもなお美しい紫紺の瞳に苛烈な炎を宿らせたまま、彼女はオレを憎々しげに見詰めていた。



だが、オレはその瞳にこれまでに無いほど高揚していた。

無数の遺体が彼女とオレの間に横たわっている状況や、極大魔法を放った事による酷い疲労感を忘れる程、その高揚感は凄まじいものだった。

なぜならあの瞬間、確実に彼女の視界にはオレしか映っていなかった。

その事が、既にオレの心の中に芽生え始めていた独占欲や征服欲を酷く満足させていた。

だが、同時に物足りなさを感じてもいた。

恐らく彼女の瞳にはオレは悪魔か鬼にでも見えていた事だろう。戦争を終わらせた憎しみの象徴にでも見えていたかもしれない。

だがそんな事はどうでも良かった。憎しみに濡れようと、どんな感情に染まろうともその瞳は美しかった。だから、彼女にオレがどう映っていようと、そんな事はどうでも良いと思ったのだ。

だから、彼女がオレを憎んでいようが、どう思っていようが、手に入れると決めた。

ひと月経とうとも、戦場で見た彼女は忘れ難く、父から褒美に何が欲しいと入れた時に迷いなど無かった。


あの高潔で美しい宝石を、戦場でただ一人苛烈な炎を宿し続けていた存在を手に入れる。


どんな手を使っても。

だが王子であるオレがこれから属国になるとはいえ、つい先日まで敵国であった国の女騎士を娶るなど終戦した直後では無理だろう。

それにそもそもオレは彼女に対して愛情など持っていない。ただ酷く独占欲を感じて、高潔で美しいその瞳を征服したいと思っただけなのだ。

そう、ただ自分のモノにさえ出来ればどんな形であろうと良いと思った。

だが、自分の支配下に置くことだけは譲れない。それだけが確かだった。


だから、奴隷としての彼女を要求した。手に入りさえすれば、あとはどうでも良かったのだから。


今も目を閉じれば死体の積み重なった戦場の先に美しい凛とした立姿が色鮮やかに蘇る。





ーー果たして、捕らえられたのはどちらなのかーー









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