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3ー1ー1

冷たい石畳の感触が頬を伝う.

気力なく垂れ流しのよだれ.腕で拭う.目の前に置かれたパンはネズミがかじっている.牢屋のネズミというのはふてぶてしく、私が試しに大声をあげても出ていかない.


かまうもんか、私だって......私なんか......

カメラは再び没収され、私は地下牢へ収監された.


警備の男はイビキが聞こえているあたり、恐らく夢の中だ.起きていようが脱出の気持ちなんて微塵もない.

ケンタウロス(半身半馬の種族)で満足していれば、あの火事場泥棒をほっとけば......天使と悪魔が舌戦を繰り広げ、やがてそれが最早意味がないことに気付くには充分過ぎる時間が経過した.

いっそネズミに身を捧げよう.腹ぺこなネズミの餓えを満たそうと自棄を起こしたのだった.色々な事はカメラを失ってはじめて考え始める.

追って下される沙汰とは?

カメラのレンズ?

中のデータは無事か?

生きて帰れるか?

生きて帰ったところでどうする?

データだってあったって何に使う?

元の世界......私なんかちっぽけな存在だ.

25歳の、チビな男女......ドワーフで魔女......

自嘲した.考えてみれば恋愛らしい恋愛をした覚えがない.できるはずがない.私みたいに自分勝手な、ドワーフ魔女なんて.撮影やバイトに奔走して、なんて言い訳だ.撮影なんて恋愛が最も成就しやすい格好の場所じゃないか.すると何か?命短し、恋せよ乙女っていうのに冗談じゃない.このままだと今にでも殺されそうな時に......



[おい、おい]

[ほぇ]

[何をやっている、出ろ]

檻の外でじたばたしていた私を見下すエリオット.

窓の外はカラスの声が聞こえるとは言えまだ薄暗い.エリオットは顎で早く出ろと合図するので、私は牢を出て階段を登った.


暗い階段を松明の光を頼りに進むエリオットと追従する私.石造りの壁には黒ずんだ染みなどもあり薄気味悪く、まさかとうとう沙汰が決まったのでは?と喉元に降り下ろされる鋭い鎌や、かけられる荒縄を想像して、固唾を呑んだ.


[嫌だ!死にたくない!死にたくない!]

[どうした?何を言っているんだ?]


駄々っ子のように叫ぶ私の腕を掴むエリオット.


[ぎゃああああ]


エリオットは耳に指で栓をしたあと、仕方ないと米俵のように私を担いで階段を上がった.抵抗空しく外への扉(と思われる)に着いた私たち.

ゆっくりと扉が開かれた.隙間から眩しい光が差し込む.


[何を泣いている?]


朝陽に照らされたわたしの可愛いとは言えない泣き顔を覗き込むメイヴィルさん.


[ほぇ]


エリオットは床に私を降ろした(放った).


馬が朝陽の眩しさに堪らずいなないた.馬の鳴き声は心臓に悪い.幌馬車の中で着ていた汚い服を脱いで、エリオットに手渡された革の服を着た.労働者風の丈夫そうなどこかウェスタンな服だった.


[おお、ここまで男の衣装が様になるおなごは初めてですな]


メイヴィルさんの言い方は少し癪に障ったが、黙って従う.メイヴィルさんはニコニコと微笑みながら[次は私からの贈り物]と腰につけた袋に手を入れた.

まさぐって出てきたのは没収された私のカメラで、信じられない事にレンズは直っていた.


[でんきやばってりーなどはわかりませんが、レンズなどは我らドワーフにとって朝飯前でしたからな]


ありがとうを言おうとしたのに口元がわなついて声が出ない.

やっとの思いででてきたのは、お礼ではなく[どうして?]という疑問だった.


[もしお前があのとき子供を助けなければ、お前は私が殺していた]


エリオットが答えた.[拾った命は大事にするんだな]

涙が溢れてきた.嗚咽混じりの声でこの恩は一生忘れませんと言った.こんどこそ言えた筈だ.

[何を言ってるんだ?そのまま帰すと思ったか]

エリオットは幌馬車に物を積み込みながら言った.


[ほぇ]


私に対する寛大な処置は、ドラゴン殺しの功績によってのみ打ち消されるものだとエリオットが教えてくれた時、また意識が消えそうだった.

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