表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/7

1ー1ー1


まずい!

まずい!まずい!

これまで経験したどのまずいよりまずい!

風を切る音.幾本もの矢は運良く私の横を通過して、適当な木々に刺さっていく.命の危険に晒されて、心臓が高鳴っている.矢は間違いなく私を狙った.恐怖、ないわけではない.それよりも両手の中にあるカメラ、全速力で走ってなお20万円の重量感を意識させる.止まれば殺される.けどもしカメラがダメになればなおのこと私は死ぬ.


駆けて、

駆けて、

駆けて、

そして遮蔽物となる木に背を預ける.

容赦なく矢が木に刺さる音.


まだ走れば或いは、身を隠せばなんとかなるかもしれない.

いや、覚悟はきめた.カメラのレンズを木を盾に覗かせた.


黒い木々の向こう.群れをなす馬蹄の音が遠くから、着実に近付いてきている.手振れを堪える.

やがて影を捉える.騎馬武者の一団にも見える.もう少し辛抱する.

そして遂に見えた彼らの馬でもなく、人でもない実体.

半人半馬のスタンピート.


先頭の男が弦を絞る.木を盾に身を隠すと、矢は容赦なくカメラのあった場所を通過した.身を隠すのがコンマ一秒遅れていたら?

最悪の結果を想像して肝が一瞬冷える.

だがカメラは無事だ.おまけに怪物も撮れた.

興奮して勢いのまま、走り出した.

木と木の間を縫う様に、急な方向転換を交えて走る.

奴等は私に多少手こずりながらも、馬力と人力じゃ分が悪く.

確実に近づいてくる.だがアドレナリンのせいか不思議と疲れない.


無事帰れるだろうか?

映像を持って帰れなければ意味がない.

森をこのまま出ていいのか?

などなど、

色々考えているといつのまにか、森の出口は目の前だった.


ぶぅううううん


そのとき物凄い突風が吹いて、樹々が波のように揺れた.

勢いに負けず走る.そして通りすぎたそれを目で追う.

飛行機ほどの大きな何かがすごい早さで滑空した.

心臓の高鳴りと純粋な驚き.もう限界と諦めていた脚がまだスピードを出せる.風に背中を押されたのか?或いは......

思考を止めて森を抜けて、広大な草原に出た.


蝙蝠のような大きな翼、

風に乗ってあっという間に高いところへと浮かび上がる、

真っ赤な鱗に覆われている.

以前そいつを眼で見たことはない.実際どんな名前なのかは知らないが、頭の中にあるこいつの名前.私以外の人に聞いても恐らく同じ名前が返ってくると思う.


[ドラゴン......]


見えなくなる前にカメラを空に向ける.追跡者の存在も忘れて.

興奮は腕に痛みが走り冷めた.かすった矢につられて勢いづいた脚は止まらずもつれた.

転倒、カメラを抱え込むように.そして確認して安堵した.

腕と倒れた痛みはアドレナリンか何かで消えた.

草と土を枕に空を見た.


ごおおおおおっ


ドラゴンは既に小さくなっていたが、咆哮は耳にはっきりと届いた.撮り損ねた悔しさが一層沸き上がる.

歯噛みした私の顔に影が差す.

弓を構えた騎馬武者のようなシルエットに囲まれている.

まさか自分が弓矢で死ぬとは思いもしなかった.

無論、まだまだやりたいことはあるし、死にたくはない.

だが逆光の黒いシルエットの中でギラつく瞳は、この上ない絶体絶命を感じさせる.


なぜこんな事になったのか.

走馬灯のように記憶のリールが回りだした.

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ