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8.『ニッポンのアニメ*マンガ*ゲーム展』の感想 後篇

 そして第四章は、これはもう、ゲームメインの展示。

『出会う、集まる――場としてのゲーム』というタイトルを銘打ち、ほぼ全部の作品に試遊台が置かれていた。


 ざっと挙げ連ってみると、『ストリートファイターⅡ』『ウルトラストリートファイターⅣ』『ドラゴンクエストⅨ』『太鼓の達人』『シーマン』『スーパーマリオメーカー』『ポケモンX・Y』……子供から大人まで、多くの人たちを夢中にさせた名作ゲームばかり並んでいた。


 ここで紹介されていた『スーパーマリオメーカー』なるゲーム、実は、今回の展示会でその存在を初めて知った。マリオのゲームは結構やっているが、聞いたことのないゲームだった。


 家に帰ってネットで調べてみると、なんとこれ、今年の9月10日にWiiUから発売予定のゲームらしい。つまり、今回の展示会に行けば、先行してプレイ出来ちゃうという訳だ。なんともいえぬお得感。スーパーお得ちゃんと言わざるを得ない。


 今思うと全部の章を通じて、一番人が長居していたのがこのスペースだった様に思う。そこに、大人と子供の境界はなかった。子供も大人も、皆が顔を綻ばせて試遊台に噛り付いていた。中には三歳くらいの子供を抱えながらストⅡに夢中になっているお父さんもいたし、逆に抱きかかえた子供にコントローラーをしっかりと握らせてパワプロをやらせているお母さんもいたのが印象的だった。


 ここに、アニメとゲームの明確な差がある事に気付かされる。アニメ、特に2005年頃から本数を激増させている『深夜アニメ』に代表されるように、アニメは一人で見るという方向に特化した作品であるように思う(ジブリなどの一部の特別な作品は除いて)。


 ゲームはその辺りが全く違う。ファミコンが登場したての頃は、確かにゲームはアニメ同様、一人用の遊び道具だった。しかし、ドラクエ、FFといったRPGゲームが『友達の家に集まって、友人がプレイしているのを眺める』という特殊な場に楽しみを見出せすことを可能にし、また格闘ゲームの隆盛に伴って、ゲーセンで見知らぬ人同士と対戦する事の喜びを大衆に伝えた。


 更にWiiの登場により、今度は家族間でゲームの楽しみを共有することが一般的になり、また、オンラインゲームが発展したことで、誰とも知らぬ人々とリアルタイムにゲームの楽しみを共有することが可能となった。


 この『リアルタイムの共有』というのが重要であるように思う。確かにアニメも、2chやまとめサイトでの情報交換を通じて多人数で楽しむという傾向が増えてきている。


 しかしこの場合、娯楽の『場』そのものとなっているのは掲示板やまとめサイトだ。そして時に、地域間によっては放送時間が異なる事もあり、録画をしてアニメを楽しむ人もいることから、アニメの中そのものに『リアルタイムの共有』という側面は薄いように感じる。


 ゲームは違う。ゲームはそれ自体が既に『リアルタイムで進行せざるを得ない』娯楽である。プレイヤーはゲームそのものをリアルタイムにプレイすることで、ゲームという『場』に生じる達成感や悔しさを共有することが出来る。ここが明確に違う。


 共有とリアルタイム。それがゲームの本質なのだと捉えれば、スマホアプリで一人楽しめるゲームは『異端』という位置に落ち着く。スマホアプリのゲームが苦手だという層が一定数存在しているのは恐らく、このあたりの事が関係しているのではないだろうか。


 さてさて、続く第五章の『キャラクターが生きる=世界』でも、ゲームの紹介がメインだった。ただし、こちらは第四章と比べると『キャラクター性によって構築された世界観』に重きを置いたゲームがメイン。


 具体的には『戦国BASARA』『アイカツ!』『うたの☆プリンスさまっ♪』『ウイニングイレブン』『実況パワフルプロ野球2014』の試遊台が置かれており、さらに『艦これ』『けいおん!』『Free!』の紹介がされていた。『艦これ』は赤城や大和のフィギュアが展示されていたから、ファンの方からしてみれば嬉しい事この上ないはずだ。


 その中でどれが一番目を惹いたかというと、『戦国BASARA』。私はゲームはやったことが無いが、アニメは一期と二期どちらも見ている。正直、アニメだけでも強烈なのに、それがゲームになると一層キャラクター性が強烈だ。なんたって、ガンダムじみた重装備の本田忠勝がジェット飛行して敵の陣地に不時着して、そこからクエストが始まるんだから、笑うなって方が無理だろう。実際、プレイしていた女の子三人組も、本田忠勝が不時着した瞬間、声を噛み殺して腹を抱えて笑っていた。それを見ていた周囲の人たちも、笑っていた。


 ホント、BASARAはいろいろな意味ですごい。あそこまで吹っ切れるのは尊敬に値する。スタップは一体何を考えているんだろう。千利休が茶を点てたら、なんで敵が吹き飛ぶんだ。侘び寂びってそういう代物だったか? もはや魔術だ(今更言う事でもないだろうが)。 


 しかし、なんだかんだでBASARAは好きだ。「いいぞ、もっとやれ」という言葉がこれ程ぴったりと当てはまる作品も珍しいと思う。


 第六章のテーマは『交差する「日常」と「非日常」』。

 タイトルからも推察がつく通り、いわゆる『セカイ系』というジャンルに分類される作品群の紹介がされていた(前篇で紹介した『ほしのこえ』も、このジャンルとしての側面を持っていると思う)。


 2000年代のアニメ業界を席巻した『セカイ系』も、近年では『魔法少女まどか☆マギカ』の爆発的ヒット以降下火になりつつあるが(違うよ馬鹿者、という方もいるだろうが、少なくとも私はそう思う)、それでもアニメ業界に与えた影響はものすごいものがあると、断じて良いだろう。


 まず初めに来場者が目にすることになるのは、真っ黒な壁一面に横並びで設置されたディスプレイ二十四枚。映し出されているのは『新世紀エヴァンゲリオン』のTV放送二十四話分のダイジェスト映像だ。その反対側の壁には『最終兵器彼女』の資料展示。そしてその隣には、『あずまんが大王』『涼宮ハルヒの憂鬱』『らき☆すた』の映像展示が横一列に展示されていた。


「ハルヒか、懐かしいなぁ」と思いつつ、壁に書かれた説明文に目を向ける。そこには、『作中でキャラクターにアップチューンの曲を歌わせたり、EDで踊らせたりした独特の演出は、後続の作品群に計り知れない影響を与えた』みたいな事が書いてあった。


 確かになと思う。あの当時、キャラクターを歌わせる演出は『かんなぎ』などの他のアニメ作品にもあったが、バンド形式で、そしてあそこまで『リアル』に演奏させたのはハルヒぐらいだったように思う。


 リアルというのはつまり、ギターを弾く長門の指の滑り具合や観客の盛り上がっている様子もそうだが、何よりラストのサビに入る前、ハルヒが熱唱のあまり顔に皺が寄るといった描写には一番驚かされた。


 普通、ああいう『美少女が恰好悪く、不細工に映る演出』って、やる側もやられる側も一歩引いてしまうはずなのに、ハルヒにはそれが無かった。それが絶妙なのだ。おそらく演出を担当された方は、『ギリギリのライン』を知っていたんだろう。観客を盛り上がらせつつ、美少女の顔が崩れても視聴者のテンションが落ちない『ギリギリのライン』を、経験から知っていたんだろう(違かったらゴメンナサイ)。


 それになにより、登場キャラクターたちをEDで躍らせる事で、一種の『演劇』にも似た効果を与えて、見る側を物語の世界へ引き込ませる手腕はすごい。山本監督は多方面から色々言われているけれど、やっぱり凄い人なんだなと思う。


 続く第七章のメイン展示はマンガ! そう、マンガですよみなさん!

『現実とのリンク』と題して、各マンガの一場面が展示されていたこのコーナー。展示されていたのは、少女漫画や青年誌で連載されていた作品が大部分を占めていた。少年誌系はほとんど無かったように思う。


『め組の大吾』『編集王』といった、「ああ~、昔読んでたなぁ~」と、思わず声が出てしまいそうな作品に加えて、アニメにもなった『俺物語!』や『坂道のアポロン』も展示されていました。他にも、『モンキーターン』『聲の形』『好きっていいなよ』などなど、職業マンガから青春マンガから恋愛マンガからなんでもござれという具合。


 しかしッ! しかし諸君ッ! これらの作品群に混じって、一際『異彩』を放つ漫画が一つッ!


 それはッ! 意外ッ! ジョジョッ!

 そうッ! 『ジョジョリオン~ジョジョの奇妙な冒険part8~』が展示されていたのだッ!(バァ――――――z_____________ンッ!)


 想像してみてほしい。先に挙げた作品群の中に……『聲の形』や『好きっていいなよ』の中に……ジョジョがいる光景をッ! なんと歪で、しかしそれでいて素晴らしいッ! どこぞのラスボス神父の如く、手に取ったDISCをそこらへんを歩いている来場者の頭に突っ込んで、¬¬ハレルヤを歌わせたくなるような、そんな衝動に私は駆られたッ! (いいぞッ! いい音色だッ!)


 なんでこんなに興奮したのかというと、今回の展示会の『趣旨』を目にしたとき、正直「ジョジョは展示されてないかもしれないな」と思ったからだ。手塚治虫亡き後の1989~2015年までの作品展示とあったから、つい、1987年連載スタートのジョジョは展示されていないと思ったのだ。


 早計だった。そもそもジョジョは、第七部『スティール・ボール・ラン』から世界観がリセットされたことや、第七部、第八部では『ジョジョの奇妙な冒険』がサブタイトル扱いされていることを考えれば、『ジョジョリオン』はそれ単独で評価されるべき作品であるのだ。そこに疑いの余地はない。


 それになにより、漫画界のみならず、あらゆる現代文化に多大な影響を与えた現人神・荒木飛呂彦先生の作品が、今回のような大規模な展示会にノミネートされていないはずがない。というか、最初にあった協賛の看板の所に荒木先生の名前があったんだから、その時点で気付けよって話だ。『てめー、頭脳が間抜けか』と、自分で自分に突っ込みを入れるハメになった。


 ちなみに展示されていた内容は笹目桜二郎との一戦。あの有名な『オラオララッシュ』の中に一つだけ『アラ』が混じっているという奇跡的な誤植をそのままに掲載していた。そこがベネ! 誤植を敢えて訂正せずに展示させた担当者の勇気ある行動に、僕は敬意を表するッ! 尊敬と感謝の念を込めて、その担当者にスパゲッティーを食わせてやりたいんですが、構いませんねッ!


 最後に一つ、言っておく。

 時は加速する……じゃなくて、私にとってジョジョは『聖書』である。

 誰が何と言おうと、この一点だけは譲れない。


 さて、ジョジョ熱が冷めやらぬうちに、次の章へ行こうとしようじゃあないか。次はいよいよ最終ラウンド……最終章……そう、第八章だ。


 第八章は『作り手の手業』

 手業というだけあって、アニメ界・マンガ界の第一線で活躍し続けたorし続けているプロ達の作画方法や演出方法について語られていた。


『GANTZ』の展示コーナーでは、奥先生が長年行っているデジタル作画の様子が、映像で詳しく説明されていた。更に、『Xガン』の3Dモデルが表示されたタブレットが展示されているなど、デジタルとマンガの融合について考察しているのが興味深かった。


 それだけでなく、『マクロスプラス』の劇中において、たった五秒間に渡るミサイル飛行の応酬で視聴者を完全に虜にした『板野サーカス』の演出方法についても展示されていた。その展示内容を見て、開いた口が塞がらなかった。壁一面に張られたコマ送り画像。糸の様に絡まり合う噴煙描写の華麗さと精緻さに、声も出なかった。これらを見て、直ぐ隣にあるディスプレイに映し出されている実際の映像を見ると、なんだか不思議と感激した。


 たった五秒。されど五秒だ。その五秒で人を魅了するのだから、まるで魔法か何かの類に思えてくる。本当に、一流のアニメーターはすごい。たった五秒の仕事も、手を抜かずにやり遂げるその根性に、ただただ敬服するばかりである。


 話が変わって申し訳ないが、ちょっと雑談を。

 今、私が書いている『アナザポリス-怪力乱神幻瞑録-』のワンシーン。具体的には、第五章の仮想空間内における戦闘で、この『板野サーカス』を参考にしたミサイルの破壊描写がある。本展示会から帰ってきた後、直ぐに書き直したのだ。あのハチャメチャなミサイル描写を、はたして文章に起こしたらどうなるのかやってみたかったのだ。成功しているかどうかは分からないが、書いて損は無かった様に思う。


 話を元に戻すと、とにかく、この第八章がメインディッシュにして一番の見どころだと個人的に感じた。先に挙げた『デジタル作画』や『板野サーカス』以外にも、今は亡き今敏監督作品『パプリカ』の映像展示と、あの有名な「~オセニアニアじゃあ常識なんだよ!」の演説シーンの絵コンテがまるまる展示されているのには、感動した。


『パプリカ』は五回ほどレンタルで見ているが、何度見ても良い。原作が筒井康隆である時点で面白い事に違いはないのだが、ここに今敏という才能が加わったことで、一級のエンターテイメントに仕上がっている。見ていると、本当に夢の中にいるような、不思議で幻想的な世界に囚われてしまってたまらない。見たことが無い方は、ぜひ一度ご覧になってほしい。


 そして、最後に紹介されていたのは、手塚治虫先生原作のアニメ映画『メトロポリス』。私は愚かな事に一度も見たことがないのだが、展示されている拝啓原画の書き込みは、前篇で述べた『攻殻機動隊』のそれと同じくらいの細やかさだ。辛抱強さを超えた『何か』が無いと、あそこまでは書けないだろう。







 以上が、『ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム展』の感想である。


 会場を出た頃には、雲の隙間から夕陽が照り輝いていた。時計を見ると、午後四時半。十二時位に会場入りしたから、凡そ四時間以上いたことになる。


 だからなんだとは言わないが、つまり、それだけ今回の展示会に『夢中にさせられた』という事だ(多分、試遊台を全てやりこめば、あるいは、各資料をもっとじっくり読み込んでいれば、六時間近くになると思う)。


 もちろん、今回展示されていた作品の中には、一度も見たことのないアニメや、プレイしたの事のないゲーム、読んだこともないマンガも、当然存在していた。それでも、つまらないという感想は全くなかった。各章毎に明確なテーマが存在し、そのテーマ毎に各作品が関連付けて紹介されているからだろう。この展示会の構成が実に最高で、本当に日本のサブカルが大好きな人が企画したんだろうなと感じた。企画してくださった方、本当に有難うございます。


 もし、東京近郊にお住まいの方は、一度行ってみてはいかがでしょうか。場所は千代田線乃木坂駅を出てすぐの所にある『新国立美術館』です。展示期間は8/31までですが、その後、9月からは兵庫県立美術館でもやるそうなので、西日本にお住まいの方も是非。行って損はないと思います。



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