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4,表現方法の難しさと、過去の愚かさについて

 お気づきの方もいるかと思うが、レイアウトと行間を少し変えてみた。


 どうでしょうか。多少読みやすくなったでしょうか。


 なんでいきなりレイアウト変更をしたのかというと、ふと、或る人の言葉が脳裏を過ったからである。




 あれは、二年前の事。


 私はとあるお店で、とある友人と酒を酌み交わしていた。


 その友人は私より幾分か年上で、音楽方面の含蓄が非常に深く、芸術に対して独自のスタンスを持っている方だった。


 私は今でも、彼を心の底から尊敬している。


 当時の私は『小説家になろう』ではなく、別の投稿サイトに小説を掲載していた。


 その友人が、決して他人の創作物を馬鹿にしたり茶化したりしない性格の人間であると分かっていたから、私は若干の勇気を伴って『実は今、小説を書いているんです。この前○○っていうサイトに載せたんですよ』と話した。


 彼は暫くの間、私の話に耳を傾けていたが、唐突にこんな事を言い出した。


「音楽や小説に限らず、あらゆる創作物は、その表現方法も含めて評価されなくてはいけない。そう、思わないか?」

「どういうことですか?」

「例えばさ、ミケランジェロっているだろう?」

「ルネサンス時代を代表する、あの偉大なる彫刻家ですか」

「彼の作品、見た事ある?」

「ありますよ」

「どう思った?」

「どうって、凄いなあと思いましたよ。力強くて格好よかったです」

「……公衆便所だ」

「え?」

「もし彼の作品が糞に塗れた公衆便所のど真ん中に置かれていたとしても、同じ感想を抱くか?素晴らしい作品だと、そう思うかい?」

「いやぁ、それはさすがに……」

「だろう?つまり、そういうことさ」

「どういう事ですか?」

「分からん奴だな君は。つまりは環境だよ。作り手は、作品を創作した事にのみ満足してはならない。その作品をどうやって発表するか。どういう手段で大衆へ届けるか。多くの人に自分の作品を鑑賞して貰うのに必要な、最良の選択とは何なのか。作り手はそれらの事を良く考えて創作に臨まなければならないし、創作物というのは、それらの事を含めて評価されなくちゃいけないんだ。それが本当の『芸術』なんだ」


 最後の台詞を耳にした時、私の心の氷山が砕け散った。


 友の放ったその一言で私の芸術に対する姿勢は一撃で粉砕され、再構成されたのである。


 それから程無くして書き上げたのが、現在更新停止中の近未来ファンタジー小説『デッドアライズ・イリュージョン』である。


 この作品を投稿するにあたって、私は先に述べた友の言葉を思い出していた。

多くの人にこの小説を読んでもらうのに、まずどうするべきか。全てはそこからだった。


 脳裏に浮かんだのが、ここのサイトだった。ネット小説界隈の最大手たる『小説家になろう』なら、多くの人に見てもらえる可能性が高いと踏んだ。


 迷いはなかった。


 会員登録を済ませるのに、時間はかからなかった。


 次に、投稿するペースを考えた。ランキング上位の作品を参考にし、毎日、もしくは一日か二日置きで更新するよう決めた。


 一回に投稿する量も、少なすぎず、多すぎず、適量を心がけた。


 作品の宣伝には、ツイッターを使う事にした。


 難しい語句にはルビを振るように心がけた。


 少しでも読みやすくするように、文字のサイズを変えた。行間も多少広くした。


 登場人物や専門用語を解説するためのページも作った。


 作品全体の雰囲気を上手く伝えられるように、どのようなタグをつければ興味を抱いてもらえるか、思考錯誤を繰り返した。


 あらすじも、分かりやすさを心がけた。長くなり過ぎないように、簡単な紹介に押しとどめた。


 全ての準備を整えた私は、意気揚々と投稿を開始した。




『デッドアライズ・イリュージョン』の投稿開始から数ヵ月後。


 三十余りのブックマークと、七十余りのポイントがついた。


 感想も、片手で数えられるくらいであるが頂いた。


 正直、嬉しかった。


 何処の誰かは分からない。


 しかし、私の作品を読んで、面白いと思ってくれた方が確実にいる。


 その事を考えると、投稿して良かったと思う。読んで下さった方々へは、感謝してもしきれない。


 嘘ではない。真の感情である。


 だがしかし、私も人間だ。


 煩悩と欲に塗れた俗人なのだ。


 厳しい修行の果てに、解脱を為し得た高僧などでは決してない。


 もっと、と願った。


 もっともっと、沢山の人にこの作品を読んでもらいたいと思った。


 だが、そんな私の浅ましき欲望を見透かしたかのように、第一部を書き終えた辺りから、急にアクセス数が伸び悩むようになった。


 私は焦った。ええ、そりゃもう焦りましたとも。


 慌ててツイッターでの宣伝回数を増やした。


 何がいけなかったのか分からないまま、取り敢えずタグを変え、あらすじを何度も練り直した。


 今思えば、なんと安直な方法か。そんな付け焼刃でアクセス数が増える程、このサイトは甘くはないというのに。


 日を追うごとに、アクセス数は増えるどころか、ますます下降していく一方だった。


 原因を突き止めようとするも、私の矮小な脳みそでは、アクセス数が低下した理由を具体化させることは不可能だった。


 何故なのだ?何故アクセス数が伸びないのだ?


 私の表現方法は、正しかった筈なのに!一体何が間違っていると言うのだ!


 心の中に澱の様に溜まった焦燥感は、次第に、誰に向けられたものなのか分からない、激しく燃え滾る怒りへと変貌した。


 やがて、あれだけ書き溜めていた第二章の文量が底を突いた。


 私の筆は、死んだ蛙の様に、ピクリとも動かなくなっていた。




 先日、何を思ったか。私は更新停止中の「デッドアライズ・イリュージョン」を改めて読んでみた。


 なんとまぁ、読みにくい。


 それが、最初の感想だった。


 ルビを振り過ぎた為に、非常に目に悪くなってしまっている。


 それに、タグも今思えば微妙な物ばかり。キャラの会話も所々おかしい。


 専門用語の解説が解説になっていないものがある。


 其れに何より、あらすじを何度読んでも魅力が湧かない。上手く作品世界をイメージ出来ない。


 これでは、読者はこの作品を読みたいとは思わない。


 そもそも、更新停止中の作品を、誰が進んで読みたいと思うだろうか。




 なんて事は無い。


 作品が思った以上に稚拙だったのに加えて、碌な表現方法が出来ていなかっただけの事だ。


 全ては、私のやり方が間違っていた。


 当時の私は、愚か過ぎたのだ。


 己の作品に尊大すぎる過剰な自信を持ち、自分は最良の表現方法を確立した等と、調子に乗っていたのだ。


 だがしかし、これで諦めるわけにはいかない。


 私は今後も、このサイトで投稿を続けようと思う。


 作品を作った事に満足せず、如何に工夫すれば多くの読者を獲得できるか。


 その表現方法を、もっと突き詰めて考えていかなければならない。


 勿論それ以外に、文章力と構成力を磨き上げるのは、言うまでも無い事だ。


 転んでも、只で起き上がってなるものか。



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