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2.我らが亜細亜的功夫世代

 ASIAN KUNG-FU GENERATIONが好きだ。


 個人的名盤「ソルファ」と「ファンクラブ」の全収録楽曲。その冒頭三秒を聞いて、どの曲なのか当てられるくらい好きだ。


 嘘だ。少々盛った。


 本当のところは五秒である。


 ファンになったのは中学三年生の頃。


 きっかけは、たまたま家のラジオから流れて来た「君という花」を耳にした時の事。曲を聴き終えた後、気付けば私は深い溜息をついていた。雲一つない快晴の如く晴れやかで穏やかな余韻が、十五歳男子の心を支配していた。


 なんて素敵な歌なんだと思った。泣けてくる歌であり、これぞまさにロックであると感じさせる名曲だった。


 音楽の技術的な面はてんで分からない私だが、それでも曲の良し悪しが分かる耳は持ち合わせているつもりでいる。


 この衝撃的且つ鮮烈な出会い以降、私はASIAN KING-FU GENERATIONに嵌っていった。


 ASIAN KUNG-FU GENERATION。


 略して「アジカン」は、下北系やロキノン系に分類されるロックバンドであり、有名どころの音楽番組にはさっぱり姿を見せなかった。その大衆に迎合し難い硬派なスタンスも私のツボをばっちりと抑えた。


 当時、同じロキノン系に属する中では、藤原何某率いる「バンプ・オブ・チキン」が中高生男子の間で根強い支持を集めており、高校の昼休みの時間には、ほぼ毎日彼らの曲がかかっていた。


 普段は生徒や教師の呼び出し程度にしか使われない、教室に設置されたあの埃を被ったスピーカーの網目から「天体観測」のイントロが流れた途端、どっと波がうねるかのように、クラスメイト達の心が昂りを見せた。そんな光景を見たのは、一度や二度どころではなかった。


 バンプ好きでなければ人にあらず、とでもいうようなクラスの世論に、私は身を刺される様な思いで耐え忍んでいた。


 心中で悔しさを滲ませ、弁当を黙々と口に運んでいたあの時の私は、一体どんな顔をしていたのだろう。


 なんで?


 なんでみんなバンプなの?


 誰か、誰でもいい。


 誰か私とアジカンについて朝まで語り明かそうではないか!


 だがそんな私の想いとは裏腹に、アジカンがクラスに浸透していく気配は一向に無かった。


 その愚痴を中学時代からの腐れ縁であるZ君に吐くと、彼は「アジカンって、アジの缶詰の事?」とか抜かしやがった。


 あの時には、奴のなよなよした背中を思いっきり引っぱたいてやったのを、今でも良く覚えている。


 高校卒業間近になって「涼宮ハルヒが可愛い」と、オタク根性丸出しで周囲にそう吹聴していたZ君。彼は今頃どこで何をしているのだろうか。元気にやっているのだろうか。


 とにもかくにも、当時の私は楽曲鑑賞の面においてとても孤独だった。


 クラスの阿呆共に伝えたかった。見えないものを見ようとして望遠鏡を覗きこんだとしても、そこには何も映らないのだと声を大にして言いたかった。


 皆でアジカンの曲を聴こう!彼らが、白い息が切れるまで飛ばして駆け抜けたあの道を、我々も彼らのグルーヴと一緒になって走り抜けようではないか!そして、丘の上から見える街に咲いた花を、皆で探しに出かけようではないか!君という花を、我々はまた咲かせねばならないのだ!


 そう、妄言を吐き出したかった。


 何時の時代も、自ら動かなければ時勢を転換させる事は出来ない。


 現状に堪えかねた私は、ついに一世一代の大博打に出た。


 学校のクラスで、アジカンの楽曲がいかに素晴らしいかを宣伝すること二週間。時期は高校一年生の夏頃だったかと思う。


 なけなしの小遣いで買った彼らのCDを放送部に持ち込み、半ば脅し文句で無理矢理放送させる事数十回。


 ついにクラスで、一人だけ熱烈なファンが出来た。


 こいつはやったぞ。と、心中ほくそ笑んだ。ついに私の孤独を理解してくれる友人が出来たのだと歓喜した。


 だが、その彼も半年後にはすっかりレディオ・ヘッドやらビートルズやらの洋楽方面へ浮気し、彼の口から「アジカン」という単語が飛び出す機会はすっかり減ってしまった。

 (ここで一応断っておくが、私は何も洋楽が嫌いなわけではない。大好きである。ボブ・ディランは現人神であると、半ば本気で信じている)


 先日、そのアジカンの新曲が発表された。


 タイトルは『EASTER/復活祭』。


 良い音である。また歌詞が良い。心に訴えかけてくる情熱的で冷静さのある歌詞を謳い上げる後藤氏の姿が、かっこいいのだ。


 公式PVがyoutubeに上がっているので、気になった方は検索してみるとよろしかろう。


 2000年代後半から彼らの曲は変化を見せ始め、初期の頃に見られた「リライト」や「電波塔」に見受けられる爆裂的サウンドは少しずつ鳴りを顰めていった。


 その変化に対して、スタンスが変わってついていけないとか、音が以前より安っぽくなったと口にするファンもいる。


 私はそうは思わない。


 寧ろ逆だ。深化している。


 時が経つにつれてアジカンの世界観はより深く広がり、洗練されているのを確かに感じる。


 彼らの歌詞とサウンドは時に直接的、時に抽象的に私の中で化学変化を起こし、この濁った心をじっくりと濾過しては、澱みを取り払ってくれるのだ。


 そんな素晴らしいロックバンド・アジカンだが、物事には必ず始まりがあり、そして終わりがある。


 彼らが人である以上は、いつかはこの素晴らしいバンドも、解散する日がやってくるのだ。


 それを考えるととても悲しい気持ちになるが、たとえそうなったとしても、私の気持ちは永劫に変わらない。


 彼らが解散し、CDショップからアジカンの存在が消える日がこようとも、AISAN KUNG-FU GENERATIONが私の中で、何時までも記憶に残る大切な邦楽である事に変わりはない。

 








 

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