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下品な哂い声

お題:穢されたコメディ

 笑い声が聞こえる。そう、笑い声だ。それはとても楽しそうに、純粋に笑っている。遊具で遊ぶ子供のように。或いは、縁側で微笑む老人のように。


 哂い声だ。哂い声が聞こえる。そう、下品な民衆の嘲笑する声だ。崩れた制服を纏う若者のような。或いは、落ちぶれた下衆共のような。


 彼らは指差した。その先には人が居た。もしくは、人の映った画面があった。人間を指差して哂っているのだ。その姿を嘲笑しているのだ。

 画面に映った人間の声が聞こえる。それはとても面白そうに、不快な声で隣に座る人間を罵倒していた。その不快な声に釣られて、また耳障りな哂い声が響く。ゲラゲラと、ケタケタと。聞くに堪えない悍ましい声。彼らは正気ではないのだろうか。だが、誰ひとりとてその哂い声に対して文句を言わない。いや、言ったのかもしれない。だが、それすらも哂われたのだ。その哂い声にかき消されて、何時か消えてしまったのだ。


 下品だなぁ。


 誰かがぼそりと呟く。

 今となっては、純粋な笑いなぞどこかへ行ってしまった。誰かを嘲笑する声ばかりだ。民衆の茶の間で響くのは下品な哂い声ばかりだ。いや、今も過去も、嘲笑する声はどこからもしていたのだろう。けれども、テレビという機器が広まった事により、世界中に耳が生まれた。誰もがどこからでもその哂い声を聞くようになってしまった。


 下品だなぁ。


 また誰かがぼそりと呟いた。

 テレビでは"ドッキリ!"と称した嫌がらせが映っている。人が嫌がると分かっている事を敢えてしているのだ。それを見た人間はまた哂い声を洩らしている。その下らない番組を作っている者共も、また下品な笑みを浮かべている。


 プツン、という音を立てて映像が途切れた。

 なんのことはない、ただテレビの電源を落としただけ。

 しかし、まだ哂い声は聞こえる。


 窓を開ける。外では、4人ほどの若い男女グループが談笑していた。

 彼らも、先ほど映っていた"芸人"達と変わらない。ただ誰かを嘲笑して、哂い合っているのだ。


 下品だなぁ。


 それだけまた呟いて、窓を閉じた。


 静かな空間で、自分の哂い声だけがまた聞こえた。


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