夜に、涙
お題:ひねくれた夜
ドアを開ける。
真っ暗な部屋の中を、わずかばかりの月明かりと街灯が照らした。
最早思考すらままならない鈍重な頭と、動くことすら躊躇う疲れきった体を引きずるようにしてのろのろと中に入り、ドアを閉めて、そこで力尽きたように腰を下ろす。
膝を抱えて床に座り、頬を伝う冷たいそれを感じながら、私はとりとめもない事を考え出した。
昔を思い返してみれば、"夜"というものはずっと嫌いだった。
夜はどこまでも暗い。暗くて暗くて、周りが何も見えないのだ。終いには、自分の存在すらも不確かな、あやふやなもののようになってしまう。その度に、酷く恐怖に駆られるのだ。まるで自分が消えてくような……死んでしまうような、そんな気がしてしまう。
小さい頃は特にそうだった。僅かな明かりでもないととても怖くて、思わず叫びだしそうになってしまい、夜ふかしする事も多かった。
しかし、時には夜というものをありがたく思うこともある。
夜は人々が作り出した明かりこそあるが、しかし少し道を外れれば、誰もいない、誰にも見られることのない暗闇があるのだ。一人になりたいとき、酷く悲しくて虚しいような気分のときは、この暗闇が何よりも心地よかった。
暗闇にいると、自分という存在があやふやになってくる。
だからこそ、悲しいときは自然と暗い場所を好んだ。自分という存在をあやふやにして、その悲しみが消えるまで、自分を曖昧なままにしているのだ。
或いは、自虐的な思考があるのかもしれない。眩しい程に明るい光から逃げて、誰もいない暗闇に居る自分を、汚らしい存在だと思っているのかもしれない。
そっと、暗闇の中で顔に触れる。
自分という表情がそこにあることを。
自分という思考がそこにあることを。
自分という生命がそこにあることを。
自分という存在がここにあることを。
それを再認識して、私は闇から意識を浮上させた。