パラダイスとか成仏しろよ
「なぁ、次はどこへ行く?」
一人の軽薄そうな、金髪の男が隣を歩くもう一人の男に問うた。その男は対照的に根暗そうで、地味な灰色の服と黒髪の、日本であればごく一般的な見た目である。
二人は旅をしていた。ただあちらこちらと有名どころを見て回り、国内国外問わず様々な場所へ行った。それを行う為に必要な情報はあった。各国の交通機関についての本や資料、指差し会話帳も持ち歩き、また簡単な現地の言葉なら喋れるように予め学んでいる。
問われた男は、少し考える素振りを見せたが、また何時ものように投げやりな態度に戻って、「お前に任せる」とだけ言うと、先程同様黙りこくった。
やれやれと金髪の男が肩を竦めるが、最早これは恒例の事だ。飽くまで彼は付き添いであり、基本的に旅は自分の意思で行っているものである。だから彼の意見も聞かず、何処へとでも行けば良いのだが、自分一人に常に選択を迫られるというのはやや気分が悪くなるのだ。何より、折角長い期間付き合ってもらっているのだ、そちらの意見も尊重しよう……とは思っているものの、どうにも彼は自分の意見というものを言わない。だからこそここまで一緒に居る訳だが、時にはその寡黙な性格に嫌気が刺す。
「そうは言わずにさ、何でも言いから言ってみろヨ。別に具体的な国名とか地名じゃなくっても、"あれが見たい"とか"こういうとこ行きたい"だけでもいいからさ」
金髪の男はそうは言ったものの、それに対する返事を期待していなかった。だからこそ、彼が返事をしたことに驚愕した。
「どっか、天国みてえなとこ行ってみたいかな」
「は?」
普段のイメージと余りにもかけ離れた発言に、素っ頓狂な声が出てしまう。途端に彼はバツが悪くなったような顔をするが、男は慌てて軽く「スマン、スマン」と謝った。
天国みたいな所か、それは悩ましい話だ。
最も簡単な方法であれば、
「成仏してみるってのはどうだ」
「嫌だから、"天国みたいな所"なんだよ」
「なるほどな」
陽光に照らされた二人の足元に、影は映っていなかった。